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情報端末化するクルマ進化の方向性 東京モーターショー見聞記IT Business フロントライン (57)

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 10月27日に幕張メッセで開幕する「東京モーターショー」の報道陣向け公開日(24日)にでかけてきた。全米テロの影響もあり、地味目を意識したという。統一テーマは「未来を開く・オープン・ザ・ドア」で、今回各社が意識しているのは環境対策とITによる自動車の高次進化だとか。それにしてもクルマと人間のつきあいは100年余に及ぶというのに、自動車はものすごい勢いで「進化」し続けている。「進化の方向にもいろいろあるなぁ」と感じたモーターショーの見聞記をお送りする。

クルマはやがてペットになる?

 トヨタ自動車とソニーが共同で開発したコンセプトカー「pod」は、「人とのつき合いが深まるにつれ成長するクルマ」がテーマ。クルマは特殊な“ドライブコントローラー”で操作し、ペダルやハンドルは使わない。また、運転手の好みを記憶することでクルマの人工知能が成長するのが特徴だ。おもちゃのようなドライブコントローラーには、運転手の心拍数や発汗を計測するセンサーがついており、podは心拍数が上がっている運転手は「あせっている」と判断、気持ちが安らぐような音楽を自動的に演奏するのだそうだ。

 IT社会と自動車というのも切り離せないものだなと感心したのは、podではデータを「ミニpod」と呼ぶ小型端末に記憶させ、それを取り外してパソコンなどに接続できるという点だ。ミニpodを取り外すと、podは休止状態となり、車高が自動的に低くなる。 また、ミニpodを持った運転手が近づくと、podはそれを無線通信で察知し、自動的に車高を高くして「起床」し、ドアを広げて「歓迎」を表現したりする。そう、まるでソニーが開発したペットロボット「AIBO」みたいなのだ。

 クルマとペットのようにつきあいたいのか? という素朴な疑問はさておき、podは人工知能で運転手の好みのサスペンションの堅さやBGMを覚えていて、毎回、きちんとセッティングしてくれるのだという。またそれぞれの座席にも個人用の情報端末が搭載されていて、乗員も楽しくドライブ時間中を過ごすことができるのだそうだ。とにかく運転手や乗員が、クルマの中では安心して、楽しく過ごしてくれることが目的。そのうち、ミニpodの成長キットが別売りされて、「あくまで安全運転」とか、「初心者向け」とか、細かい性格づけができるようになるかも知れない。

ネットワーク型カーナビシステムの行方

 またトヨタ自動車は、新しいネットワークサービス「G-BOOK」も新発表していた。ネットワーク上のコンテンツをダウンロードして、専用車載端末で再生できる。コンテンツをダウンロードする方法は2つで、携帯電話サービスの電波帯域を使った無線通信を使う方法と、コンビニなどに置いてあるキオスク端末「E-TOWER」にSDメモリーカードを差し込み、情報をダウンロードする方法だ。

 G-BOOKが搭載されているのは新型のWiLL VC。液晶パネルの中心に専用車載端末のディスプレイと操作ボタンが並び、ディスプレイに表示されるコンテンツを合成音声で読み上げたり、ドライバーの質問に合成音声で答えるなどの機能も備えている。リアルタイムの交通情報のほか、通行中の街のショッピングや飲食店の情報、音楽やカラオケなどのエンタテインメント、ゲーム、ニュースなどを挙げている。 2002年中にサービスを開始する予定だ。

 それにしても、やはり疑問なのは、ドライブ中に通行している街のショッピングポイントを知りたがる人はどれくらいいるのだろうか、ということだ。コンビニを探すことはあるかもしれないが、その程度なら音声でやりとりをしなくても、DVD-ROMを利用した従来のカーナビゲーションでこと足りる気がする。私などは、運転中にはラジオのバンドも変えられないほど緊張しているのが常なので、クルマの運転性能をあげるという話ならすぐに理解できるが、クルマの中でも便利になる──という「情報化」にはすぐにはなじめそうにない。

過剰すぎない便利さを

 この疑問をカーナビメーカーの人にぶつけてみたところ、「ニーズに応えるというより、いろいろな機能を搭載することで新たなニーズが生まれたり、人それぞれの使い方を発見していけるほうが、機能の発展には有効なのだ」という当たり前といえば当たり前の結論が得られた。

 いま、クルマの「情報化」は、クルマそのものを「情報端末化」する方向に動いている。モーターショーとは離れるが、慶應義塾大学SFC研究所、トヨタ自動車などが参加する「インターネットITS共同研究グループ」は、IPv6を利用するコンピュータをクルマに搭載する実験を開始するのだという。自動車1台1台にIPアドレスをふり、例えば走行中の自動車からワイパーの動きや車輪の回転数などのデータを収集・転送し、それらの蓄積された情報を分析して渋滞といった交通データや天気情報など、さまざまなリアルタイム情報として活用されるだという。

 こういう話を聞いてまず私が気になるのは、「クルマの持ち主がいつ、どこを、どういう状況で走っているのかがすべてインターネットに流れてしまうのか?」というプライバシーの問題だ。それに加えて、いまでも携帯電話など無線システムは天候、場所などの影響を受けやすく、帯域には限界がある。クルマによるリアルタイムの渋滞情報や天候情報が、無線で飛び交う必要はどこまであるのか、イメージしにくい。

 などと、違和感や否定的な見方ばかり書いてきたが、個人としては、クルマの情報端末化は基本的に賛成だ。クルマがITによりどんどん便利になり、加えて環境に配慮されるようになるのはいいことだ。その「便利」の方向が、現状では“過剰な親切設計”に向いているとしか思えない点が少し不満なだけである。

 クルマは移動手段としてまずは誰でも安全に走行できること、次にいろいろな情報に遅滞なくアクセスできることでクルマの中にいる時間も無駄なく自由に使えるようになること、その際にもほかの端末と同じように情報の処理や共有、プライバシー保持が可能なこと。クルマの情報端末化は、このあたりから求めていくというのが地道なのだと私は思うのだがいかがだろうか。それともこれはクルマや情報化に愛のない、無粋な意見なのだろうか?

Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

毎日新聞社

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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