2001年の国内におけるPCメーカーのシェアは、ガートナージャパン データクエスト部門による調査ではNECが富士通と同じ21.1%で首位を分け合い、IDC Japanによる調査ではNECが20.9%で単独首位だったものの2位の富士通にわずか0.2ポイント差にまで肉薄されている。どちらもまだ、NECが首位を明け渡す事態には至っていないものの、かつて圧倒的なシェアで日本のパソコン市場をリードしてきた“パソコン界の巨人”の面影はここにはない。
NECのPC-9800シリーズが長い間、日本のパソコン業界でトップシェアを取っていたのを目の当たりにしていた私としては、こうした調査結果を見て、正直なところショックを感じた。もちろん冷静に見ればNECが圧倒的な優位を保っていた時代はとっくに終わりを告げているわけで、いまさらNECのパソコン事業にかつての勢いがなくなっていることを驚く必要はないのかもしれない。
とはいえ、今回の調査会社のデータは、あらためてNECのパソコン事業に昔日の勢いがなくなってしまったことを白日の下にさらした。果たして今年(2002年)もNECはトップシェアを維持することができるのだろうか。
過去の栄光を捨て、不退転の組織変更を推進
現在、NECは赤字を出すことができない厳しい環境に置かれている。今年度(2001年4月−2002年3月)の業績は悪化しており、現在中期経営計画にのっとり再建を進めている最中だ。
パソコン事業も、黒字化実現のための再建策が実施中である。昨年10月パソコン販売会社「NECパーソナルシステム」を「NECカスタマックス」と社名変更し、マーケティング・販売機能の強化、顧客価値の最大化を目指して、商品企画から販売までの事業責任を一貫して担うマーケティングカンパニーに転換することを目指している。また、国内パソコンの開発生産・資材調達・品質・保守サポートに全責任を持つ「NECカスタムテクニカ」を発足させ、一部本社人員を2社に移管した。
さらに、この3月20日に発表になった役員人事を見ると、本社であるNECソリューションズからは、旧パーソナルビジネス部隊が一掃された。もはや、NEC本社にはPC-9800シリーズの過去の影はどこにもない。
販売体制変更と品不足ではシェア低下も当然?
実は同時に販売施策も変更している。従来行っていた在庫の補てん金を出す制度を廃止したのだ。在庫の補てん金とは、新製品が登場すると旧製品が不良在庫となってしまうことから、卸会社や店舗を救済するために出す支援金のことを指す。この補てん金が出れば、卸や店舗は実際に商品を売らなくても売り上げが立つことになるが、メーカー側にすれば事業収益を悪くする一因となってしまう。
NECの幹部によれば、「パソコン販売の最盛期は、在庫を切らしたら負けという時代があった。しかし、パソコン販売が伸び悩んでいることもあって、在庫の適正化を実現しなければ赤字がかさむばかり。商品切り替え時期には商品出荷をある程度絞り込み、在庫はできるだけ少なくすることが黒字化のためには不可欠」だという。
NECソリューションズの執行役員常務・富田克一氏も、「もうむやみにシェアを追わない」と発言しており、NECのパソコン事業は大きく変わったといえる。
しかし、在庫補てん金の打ち切りはエンドユーザーには見えないところで取られた施策だったはずだが、この施策が取られた直後の昨年の第3四半期にNEC製品は極端な商品不足に陥った。「シェアは追わない」と発言した直後の品不足だったために、赤字にならないために意識して商品数を抑えているようにも受け取れた。
「これは意図して行ったことではない」と販売を担当するNECカスタマックス側ではきっぱりと否定する。だが、新体制に変更した最も重要な時期に品不足に陥ったことが、調査会社のシェアに影響していた部分があったことは否めない。この辺りのちぐはぐさにNECのパソコン事業への不安を感じてしまう。
NECパソコンがトップシェアを獲得するためには、こうしたちぐはぐな施策がない組織としての力が不可欠となるだろう。
商品力不足という市場の声を払しょくできるか?
NECのパソコン事業には、もう一点不安がある。昨年10月、新体制にどんな感想を持ったのか、卸会社を取材した際、その幹部がそろって、「NECのパソコンに商品力がない」と口にしたのだ。マニアが多い販売店の店員がそう指摘するのならともかく、卸会社の幹部がそう口にしたことは意外であった。
確かにNECのパソコンには強烈な個性がない。これまでトップシェアを維持してきただけに、ターゲットが初心者からマニアまで多岐にわたり、強烈な個性を追求するよりも平均点を目指した製品が多いことが1つの原因なのだろうが、いつの間にかPC-9800時代にはあった市場をリードする製品を出すという姿勢が欠けてしまっているように私は感じていた。これを卸会社の幹部も同様に感じていたことになる。
販売だけでなく、商品企画まで行うようになったNECカスタマックスにこの点を取材してみた。「確かにそういう声は一部で上がっている」と認める。そして、「5月に発売する新製品には一部、10月に発売する製品では完全に、もっと魅力ある商品作りを行う」と説明する。
もちろん、トップシェア獲得のためには商品力は欠かせない要素だ。果たして、本当に魅力ある商品がそろうのか。
企業向け製品はかつて直販事業を手がけてきたNECソリューションズが、個人向け製品はNECカスタマックスが、魅力ある商品を作り上げなければならない。果たして、かつてのPC-9800シリーズ以上に魅力ある商品を作っていくことができるのか、今年のNECパソコンに注目である。
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
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