本欄において何回か書いてきたわが家のブロードバンド化だが、ようやく常時接続ブロードバンド化される運びとなった。何かトラブルが起きない限り、この記事が掲載されるころには、宅内工事が行われ、晴れて悠々とネットを楽しんでいるはず──である。
ADSLの利用者数が2002年3月末には237万人を突破するなど、常時接続ブロードバンド環境が整いつつある一方、依然として自宅がブロードバンド化できない人も存在する。その中で幸いにも引っ越しすることなく、ブロードバンド化されることとなった。今回はその経緯をお伝えしたい。
無念のADSL
過去の繰り返しになるが(「第41回 光アクセス回線が生み出すデジタルデバイド」「第54回 集合住宅ブロードバンド化問題の深さ」「第56回 まだまだ奥深い集合住宅のラストワンマイル」)、私の自宅はNTT局社から自宅までの区間が光ケーブル化されている「光収容」に当たることから、ADSLが利用できない。
実は私の住居は、東京の中でもほかの地域に先駆け、2000年にADSL導入可能地域となっていた。当時、東京めたりっく通信の試験導入地域だったことから喜び勇んで申し込みを行ったものの、「残念ながらご利用できません」となったのだった。
「ごくまれに銅線が残っていることもあるので、管理人に工事を行った業者を聞いて、問い合わせをすると現状が分かると思います」と東京めたりっく通信からアドバイスされ、管理人のところに問い合わせに行ったのだが、当時ADSLを知るのはマスコミと技術者くらいのもの。「電話工事を行った業者を教えてくれ」と言った私を管理人はけげんな目で見た。いったんは業者を教えてくれたものの、後日郵便ポストに管理人からの手紙が入っていた。そこには、言葉遣いこそ穏便ではあったが「そういうことをされては困る」と書かれていた。当時、近所に某教団の入っていた建物があり、騒ぎになっていたりしたから、「怪しい住民」としてマークされてしまったようだ。
その後、「一度は駄目といわれたが、後日ADSLが利用できるようになった」という話を聞いて、NTT東日本に3回ばかり申し込んでみた。しかし、返ってくるのは丁寧なお断りばかり。
ちなみに、ケーブルテレビインターネットは、私の住居がある地域のケーブル局から、「マンション全体に工事を行うには、2000万円余の金額がかかる」という返答があり、これも事実上敷設不可能……。
光ファイバも断念
回線が光化されているなら、FTTHでいこう! と、2001年Bフレッツ導入可能地域となった当日、いち早く電話で申し込みをしたところ、電話窓口の女性から「お客さまのお住まいは集合住宅なので、現在は申し込みを受け付けておりません」といわれた。
それでもしつこく、インターネット経由で申し込んだら、「集合住宅でもファミリータイプ、ベーシックタイプともに利用できます」と電話受け付けと正反対の返事が来て、現場確認作業をしてもらうまでに至った。ところが、現場検証に来てくれたNTT-MEの担当者から、「いやあ、マンションの共有部分からお客さんの部屋は距離がありまして、ここまでケーブルを敷いてくるのは物理的に難しいですねぇ。マンションの管理組合からマンションタイプを申し込んでいただかない限りは対応しようがないですね」と宣告を受け、私は途方に暮れたのだった。
ADSLのときに管理人と掛け合い、「危ない居住者」という目で見られた経験がある私としては、管理組合から申し込みを行うべく話を持っていくのはかなり高いハードルに思えた。以前のこのコラムを読んだ方から、「住民側でブロードバンドの重要性を訴えて、Bフレッツの先進導入マンションとなった」というメールをいただいたことがあったが、私は自分の住んでいる集合住宅のほかの住民とまったく接触がない。すれ違えばあいさつくらいはするものの、親しくしているところは1軒もない。住民の総意としてBフレッツの申し込みを行うべきだ──なんて論調を作り出すのも難しい。はっきりいって、もう断念するしかないのか……と思っていた。
インターネット・マンションへの道
そんなあきらめ気分の昨年の秋、管理組合から「インターネットの利用について」というアンケートが届いた。いきなりだったのでびっくりしたが、よくよくアンケートを見ると、ADSL利用ができないことを受けて、マンションとしてインターネットサービスを申し込むべきか否か、そもそもどのくらいの住人がインターネットを利用しているのかなどを調べる内容で、どうもマンションの管理会社が仕掛けたものらしい。
アンケートには、具体的なブロードバンド導入案として、Bフレッツのマンションタイプから、昨年になって出てきたマンション全体のブロードバンド化を請け負う企業数社からの提案までが記されていた。1年前、私に危険住民の疑いの目を向けた管理人がいるマンションとは思えない変わりぶりである。
アンケートが配られてから、約1カ月後、アンケートの結果がまとめられて住民に公開された。中には、「なぜ、管理組合がインターネットという極めて個人的なものにかかわらなければならないのか。個々の家庭で解決すべき問題ではないか」という批判もあったようだが、基本的には「ぜひ、ブロードバンド環境を整えてほしい」という回答が多かった。その結果、「本マンションにもブロードバンド化を実現する」という決定がなされたのだった。
その後、時間は少々かかったものの、物事は淡々と進んでいった。まず、アンケートにも記載されていた数社から実績のある業者が選ばれ、マンション内にイーサネット・ケーブルを敷くことが決定。Bフレッツを導入しても、思うようなスピードが出ないのではないかということで、この方式が選ばれたようだ。
業者に関しては、私の予想では管理会社系列のところに決定するのかと思っていたのだが、まったく異なる業者が選ばれた。選定理由は、すでに幾つかのマンションをブロードバンド化した実績と、住人側は数万円の金銭負担が必要ではあるものの、管理組合側は金銭負担をしなくて済むことが挙げられていた。
その決定から5カ月。その間に、説明会・申し込み会が実施され、3月から建物内工事が始まり、4月下旬から各戸の宅内工事が行われている。私の部屋はゴールデンウィーク明けの週末に工事が行われる予定だ。
世の中のほうが変わっていた!
決定から実際の工事まで5カ月かかるのは、正直なところ「長い……」という気持ちもないではないが、一度あきらめていたブロードバンド化が実現すると思うと明るい気持ちでいっぱいだ。
冷静になって考えてみると、「光収容」でさえなかったら、もう2000年にはADSLユーザーだったはずなのにという思いも残る。しかし、聞くところによると、公団住宅にお住まいの方は、「光収容」であっても、Bフレッツさえ利用できず、建物全体がブロードバンド化される見通しも立たないとか。さらに都市部以外では、NTT局との距離の問題でADSLが利用できない人も少なくない。それを考えれば、私なんて自分自身で行動を起こさずにブロードバンド化されるのだから、「幸せだ」と思わなければならないだろう。
この体験を通じて痛感するのは、ブロードバンド化はまさにインフラ問題であり、個人の力ではどうにもならない部分が大きいということだ。しかし、時代は急速に動いている。
今回の件も、マンション管理会社にとっては、「住宅の資産価値を高める」ことが目的となっているのだろう。私が住む集合住宅を管理しているのは比較的大手のマンション管理会社で、そこの会社のWebサイトや定期媒体などを見ると、ブロードバンドに関して説明されていた。オフィスビルではIT対応の有無で賃料が違うなどの話は以前からあったが、マンションなどの住宅関連の業界もこの1年で、取り組み姿勢は大きく変わっているようだ。
集合住宅のブロードバンド化に関していえば、こうしたIT化に積極的な大手のマンション管理会社の系列にマンションブロードバンド化の専門会社があるので、それらの動向を管理組合で研究してみるというのが1つの手だろう。地方や公団に関しては、ブロードバンドが利用できない不便さをいろいろな場で訴え続けるというのが、時間はかかるかもしれないが、正道のようだ。
Profile
三浦 優子(みうら ゆうこ)
1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。
メールアドレスはmiura@bcn.co.jp
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