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大再編必至のプロバイダ業界の行方 メガコンソーシアム誕生と@nifty売却騒動の背景IT Business フロントライン(87)

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 インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)業界に、淘汰の波が訪れようとしている。急成長から低成長へ、高収益から低収益へ。業界の体質が急速に転換しつつあるのが原因だ。

Yahoo! BBにブチ壊された業界の収支構造

 現在、大手プロバイダのユーザー数は飽和気味である。年間の増加率が1.5倍から2倍は珍しくなかったものが、ここ2年は年間10%から30%増程度がやっとという状態だ。かつては1分当たり10円の従量制が当たり前だった料金体系は、ダイヤルアップの定額制を経てADSLなどブロードバンドの定額制に急速に移行しつつある。

 ブロードバンドのユーザーが増えるほど、現状ではプロバイダの収益性は悪化するはずだ。例えば、ニフティ(@nifty)のような非通信会社系のプロバイダでは、ADSLなどの接続サービスを専門業者から仕入れて売っているだけ。自前でアクセスポイントを設置してサービスを提供するダイヤルアップと比べて、利益率は低い。

 加えて、ヤフー(Yahoo! Japan)が昨年夏に月額約3000円のサービスを投入したことで、ADSLの料金も限界まで下がったとされている。ほかのプロバイダから「ヤフーは2、3年先の料金をいきなり提示してきた」と、いまだに怨嗟の言葉が聞かれるゆえんである。最大手のニフティでさえ、売上高約640億円に対して、最終利益が推定で10億円程度しか確保できない状況に陥っている。

BIGLOBEでさえ、“弱者連合”

 こうした中、結果として音を上げ始めたのが、中堅のプロバイダ事業者だ。NEC、KDDI、日本テレコム、松下電器産業の4社が中心となり6月20日に設立した「メガコンソーシアム」も、そうした反応の表れである。

 このメガコンソーシアムは、コストのかさむブロードバンド向けコンテンツを共同で調達したり、開発したりするのがミッション。4社のプロバイダ会員の合計が1000万人を超えることから、“大連合の誕生”と見る向きもあるが、実際は単独ではとても生き残れないとみた企業が寄り集まった“弱者連合”というのが実情だろう。

 もはやプロバイダ事業は、インターネットへの接続サービスだけを目的としては成り立たないものとなりつつある。つまり、「何のためにプロバイダ事業を手掛けているのか」を企業戦略・グループ戦略の中に描けなければ、手を出してはならない事業なのだ。そのことを如実に示したのが、結局はまとまらなかったが、ニフティのソニーへの売却騒動である。

親会社・富士通の事情とソニーの思惑

 この件では、なぜ売られるのが最大手のニフティで、買う側がユーザー数ではニフティの半分以下でしかないソニーコミュニケーションネットワーク(So-net)なのか、という疑問がわく。

 ニフティの親会社である富士通は、グループの中核とすべき戦略事業から、ニフティを外したとされている。富士通の顧客はほとんどが大企業であり、その前提で戦略を練っている限りは、ニフティを活かす道はほとんどない。今後もニフティに対して投資を行うよりも、売却資金を得て戦略事業に投資したほうがグループにとって、より大きなリターンを生むと考えたはずだ。

 一方でソニーにとっては、多額の資金を投資してもプロバイダ事業の拡大は意味のあることだ。実際、ソニーは4月1日に新組織の「ネットワークアプリケーション&コンテンツサービスセクター」(NACS)を立ち上げている。NACSのミッションは、映画やゲーム、音楽などソニーグループが抱えるコンテンツの価値を、ブロードバンドを活用することで高めようというもの。そのためには、プロバイダのユーザー数を増やすことが不可欠となる。富士通とソニーの対照的なグループ戦略が、ニフティ売却という話の背景にあるのだ。

 ある大手プロバイダ企業の幹部は「いまの時代、プロバイダとして生き残るには、最低でも300万人のユーザーを確保する必要がある」と話す。それを満たしているのは、現在のところニフティ、NTTコミュニケーションズ(OCN)、NEC(BIGLOBE)の3社のみ。プロバイダ業界の生き残りをかけた合従連衡は、しばらく続きそうである。

Profile

高橋智明(たかはし ともあき)

1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。


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