半年ほど前、中国各地のインターネットビジネスの関連企業を取材して回った。ユニクロなどの例を引くまでもなく、いま中国は世界の生産基地として俄然注目を集めている。日本のネットビジネス関係者にとっても、中国はハードの生産地としての印象しかないかもしれない。しかし現地を直接見てきて、工場としての役割ばかりに目を取られていると中国の本当の姿を見誤るのではないかと感じた。
ネットビジネス市場も確実に発展する中国
中国人の平均賃金は、日本人の約10分の1と言われている。しかし中国を語るときに、平均値はあまり意味を持たない。上海の繁華街にはスターバックスやマクドナルドが軒を並べ、東京やニューヨークにあったとしても違和感のない洗練されたレストランも珍しくない。価格も日本とほとんど変わらない。それでも客層の中心は外国人ではなく、比較的若い中国人だった。若者の多くは2〜3万円もする最新の携帯電話を所有しており(中国では販売代理店へのキックバック制がないため、携帯電話の本体価格は日本より高い)、日本円で1通2円ほどのメールのやりとりを盛んに行っていた。
上海や北京、広州といった大都会には、日本人とそれほど変わらない購買力を持った層が確実に増えつつあると考えていいだろう。こうした層が今後、大量にネットに流れ込んでくると見ている企業は少なくない。例えば、ドイツの大手メディア企業のベルテルスマンは、昨年から中国向けサイトを開設し、書籍のネット販売を開始している。中国では日本のように宅配便が発達していないため、自社で配送網を整備するという力の入れようだ。
一方で、都市間を移動する際に列車の中から目にした農村風景は、牛車で畑を耕しているなどもう日本では見られないものだった。現代と50年前とが同居しているのが、現在の中国の姿なのだ。
ネットで成功する中国人経営者も
中国人の消費パワー以上に印象深かったのが、中国のネットビジネス企業の経営者たちである。日本でもネットバブルのころは、ソフトバンクの孫正義社長や光通信の重田康光社長、楽天の三木谷浩史社長など、何人もの若き経営者達が話題になったが、中国の経営者達はもっと若い。30歳前後がほとんどであった。
例えば、上海でECサイトM18.COMを運営するメコックスレーン社のアルフレッド・グ(中国のネットビジネス企業の経営者は、西洋風の名前を名乗るのが普通だ)CEOは33歳。大学を卒業後、アメリカン・エキスプレスなど外資系企業を渡り歩いたのち、同社にスカウトされた。若くても経営手腕は確かなようだ。「ECサイトは扱っている商品の数が多ければ多いほど良いと思われているが、当社は別の戦略をとっている。品数を絞ってランニング・コストを下げ、より低価格で販売できるようにした方が価格に敏感な中国市場では受けるはず」と、就任後に取り扱い商品を厳選する戦略に切り替え、売り上げを伸ばすことに成功している。
同じく上海で、中国最大級の就職サイト、51job.comを運営する企業の副社長を務めるノーマン・ルイ氏は31歳。米国のカリフォルニア大学バークレー校の出身だ。51job.comを利用して求人を行っている企業は10万社に達しており、同社は1999年以降、売り上げは10倍以上に伸ばしている。同時に黒字も維持しているという。
若きエリートが中国を変える?
正直言って取材を始める前は、共産主義の国には優れた経営者はそれほどいないだろうと思いこんでいた。しかし実際に話を聞いてみると、彼らの市場分析力や経営戦略の立案力には驚かされた。インターネットブームを滅多にないチャンスと捉え、がむしゃらに成功しようとするどん欲な姿勢はビットバレーやシリコンバレーの人たち以上と感じた。
彼らには共通点がある。年齢もそうだが、「中国でも一流と言われる大学を卒業している」「米国の大学を卒業している」「外資系の企業に勤務した経験を持つ」という3つの条件のうちのどれか、あるいは複数に当てはまる人物ばかりなのだ。
中国で本当の意味で経済が自由化され、資本主義的な企業が生まれてからまだ10年ほど。40歳以上では、株式会社の仕組みさえよく分からないだろう人が大半だろう。中国のネットビジネス企業の多くは、香港や外国企業の資本系列下にある。若き経営者たちは、こうした中国本土以外の企業が多くの若者から選りすぐった人物なのだ。
Profile
高橋智明(たかはし ともあき)
1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。
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