2002年11月、興味深い調査結果が発表された。電子商取引推進協議会(ECOM)が三菱総合研究所とともに行った、「電子自治体構築におけるアウトソーシング活用に関する実態調査結果」がそれで、全国の地方自治体の2割に当たる686団体が寄せた回答をもとに、地方自治体IT化のためにアウトソーシングがどう活用されるべきかを示唆している。
地方自治体IT化の問題点は「発想不足」
まず、簡単にこの調査の内容を見てみよう。調査ではまず最初に、どのような行政サービスを電子化しているかをまとめている。それによると都道府県レベルでは「申請様式等のダウンロード」(80%)、「統計情報提供サービス」(70%)、「条例規則データベース」(60%)などのIT化は進んでいるが、「電子申請」「電子調達入札システム」「電子申告」などについてはおよそ7割が「検討中/構築中」となっている。これが市町村レベルになると約8割が「未計画」となる。
もちろん、その中のいくつかは現行法とのすり合わせが未定で実現不可能なもの(電子申告など)もある。だが、問題の本質は、ほとんどの自治体がIT化に対して独自のイメージを持ち合わせていないところにある。もう少し具体的にいうと、「IT化はあくまで国が主導するものであり、地方自治体は国が並べた“電子政府”のイメージの中からIT化メニューを適当にチョイスし、それらをIT施策に並べておしまい」という安直な発想が透けて見える点に問題があるのだ。
例えば人口数万人の町に必要なのは、公民館予約のシステムや、自宅から住民票を取り寄せるシステムだろうか。高齢化が進んでいるなら、そこには高齢者のコミュニティを支援するITシステムや、遠隔医療システムを真っ先に推進する取り組みが欲しい。また若い住民が多い地域なら、子育て支援のためのシステムを、電子入札や県民ホームページ構築より優先させるのが血の通った行政というものではないだろうか。
地方のIT化──といったとき、すぐに「ホームページだ、電子メールのご意見募集だ」と画一的な施策が次々に行われるのはなぜだろう。横並びを良しとする日本風気質だからという以上に、「発想不足」を感じるのは筆者だけだろうか。現実には、地方自治体はITが持つ可能性、すなわち「場所や時間、(ネットワークにアクセスするための)個人の資質や環境にとらわれず、自由に必要な情報を受信/発信できる」情報技術の可能性を最大限に活用するために、もっと知恵を絞るべきなのではないだろうか。
アウトソーシングに秘策あり
では、実際に地方自治体はどのようにIT化に取り組むべきか。その秘策はアウトソーシングにあると考える。といっても、企画書段階から外注して自治体はただ選ぶだけ、などという馬鹿げたものではない。役所はとにかく絵を描くべきだ。企画を練り、それが実現可能かどうか、可能であればいかにリーズナブルに実現できるのかを徹底的にリサーチすべきで、そこから先の具体的なシステム構築などは有能な民間企業に委譲すればよい。
実際、さきのECOMの調査でも、電子自治体構築で「アウトソーシングしたい」と答えた自治体は57%にのぼった。しかし、一方でアウトソーシングは「業者の選定基準が難しい」「トラブル時の対応に問題がありそうだ」「予算確保」「機密保持」が心配だ、といった声もある。
これらはほとんどの場合、杞憂といってよいだろう。アウトソーシングの際の機密保持が心配なら、業者との契約時にペナルティを明確にし、なおかつ契約から構築の進捗状況を透明化して市民団体などの監視を受け入れればよい。多くの目にさらされることは一番の抑止効果になる。また、電子自治体の確立の目的は、「行政サービスの向上、効率化」にある。効率化が進めば、コストダウンも期待できるし、なにより、専門家の最先端の技術を活用することで、よりサービス向上が図れる。また、アウトソーシグは地方経済の活性化にもつながる可能性がある。
現時点で筆者は、地方自治体においては、少なくともバックオフィス部分のアウトソーシングに関して、どんどん取り入れるべきではないかと考えている。言い換えると、地方自治体はIT化の理念、目的意識をはっきりと持ち、行政サービスのあり方や可能性を独自の視点でどんどん探っていくべきだし、そこに集中することが必要だ──ということでもある。
しかし積極活用例はまだわずか
例えば、IT化に熱心に取り組んでいる三重県では、県内のすべての市町村にCATV網を利用したブロードバンドネットワークを整備、それを活用した行政情報ネットワークやビジネスプラットフォームを構築した。さらに、北川正恭知事は「行政にITを導入するには、現行の制度や仕事の仕組みを見直し、次長・課長を廃して組織のフラット化を図った」と話す。IT化が行政システム全体の改革にまで発展した例は、まだほかでは見られないものだ。また、市町村レベルでも、神奈川県横須賀市はいち早く電子入札制度を実現し、入札の透明化とコスト削減を達成している。
面白い取り組みとしては、岐阜県が元経済企画庁長官で作家の堺屋太一氏と企画したWebサイト「全国自治体 善政競争・平成の関ヶ原合戦」がある。自治体が政策を競い合いながら地方分権を実現させようというもので、それぞれの自治体がテーマ別に実際に実施している政策を登録、お互いのアイデアを共有するシステムだ。現在、善政モデル施策を登録、参加している自治体は30にのぼる。
ただし、積極的にIT化を推進している自治体の例は残念ながらまだわずかだ。地域住民への行政サービスの最前線に立つ地方自治体にはもっと具体的かつ革新的な「IT活用」施策のアイデアがあっていいはず。いっそのこと、国もIT推進のため、施策アイデアコンテストを行い、優秀な企画を立案した自治体には優先して助成金をつけてみてはどうだろうか。もちろんその実現に際して、まず地域住民投票による企画への支持(サポート)と、全国民による人気投票をぜひ実現してもらいたい。
Profile
磯和 春美(いそわ はるみ)
1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日インタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。
メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp
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