NTTドコモの第3世代携帯電話「FOMA」が、低空飛行を続けている。FOMAのサービス開始は2001年の10月。しかし、現在でも契約台数は約15万台に過ぎない。同社の立川敬二社長は11月初めの中間決算発表の席上、「今年度末のFOMAの目標契約台数を、当初の138万台から32万台に引き下げる」と大幅な下方修正を表明せざるを得なかった。しかも、「当面は現行方式のカメラ付き携帯に注力する」と戦略の後戻りを示唆する発言さえ飛び出した。
限界が見えてきたiモード、FOMAへの切り替えが急務
現行のPDC方式からFOMAへの切り替えは、NTTドコモにとって最大の経営課題である。というのも現行のPDC方式のiモード端末が使っている800MHz帯でドコモに割り当てられた周波数帯域では、最大で約4400万人の契約者を収納するのが限界と言われている。ドコモの契約者数はすでに4100万人を超えている。第3世代(FOMAは2GHz帯を利用する)への切り替えがスムーズに進まなければ早晩、成長は頭打ちになるわけだ。
一方KDDIは、ドコモから半年遅れの今年4月に第3世代サービスの「CDMA2000 1x」を開始した。こちらはドコモとは対照的に好調で、契約台数はすでに300万台を突破している。
FOMAが採用した「W-CDMA」方式は、現行方式とまったく互換性がない。それに対してCDMA2000 1xは、音声通話だけならKDDIの現行方式であるcdmaOneと互換性がある。1x端末は、サービスエリア外でもcdmaOne端末として利用できるのだ。基地局も現行の800MHz帯の基地局を改修するだけでよく、既存のインフラ設備を活用して開始当初から全国規模でのサービス提供が可能だった。KDDIはすでに主力機種をCDMA2000 1xに切り換えており、「新規や機種変更のお客さんは、意識せずに第3世代に乗り換えている」(KDDIの小野寺正社長)。
FOMAとiモードの差とは
ドコモの現在の苦境は、ユーザー側の利便性に十分に配慮せず新サービスを導入しようとしたマーケティング面での失敗が引き起こしたものだ。昨年10月からのFOMA開始には、携帯電話機メーカーなどからだけでなく、ドコモ社内からも準備不足を心配する声が強かった。
「通話エリアが狭い」、「価格が高く電池の持ちの悪い電話機」といった問題を抱えたままの見切り発車の結果、「FOMAは使い勝手が悪い」との評判を定着させてしまった。FOMAを新規で契約したのに、再び現行方式に戻ってしまう客は決して珍しくないという。10月強行の背景には、経営陣が世界初の第3世代サービス開始にこだわったからというのが定説だ。
ドコモが苦境に陥ったのはこれが始めてではない。1998年には、急増する契約者にインフラが対応できなくなり、「つながりにくい」「音質が悪い」との評判から、新規契約者数で他社の後塵を拝する時期が続いた。このとき救世主となったのが、1999年3月に始まったiモードだった。
iモードの開発では、松永真理氏(現バンダイ取締役)や夏野剛氏(現NTTドコモ iモード企画部長)など外部の人材が中核となったことは有名な話だ。接続時間ではなく通信データ量に応じた課金や、習得が容易なCHTMLの採用、インターネットのように誰でも対応サイトを開設できる仕組みなど、iモードのユーザーや、iモードを利用してサービスを提供しようとする企業にとっての利便性を徹底的に追及している。こうした点は、FOMA導入でかいま見えたドコモの体質とは異質なものだ。
ドコモの追撃は実るか?
ドコモは2003年2月には、FOMAの人口カバー率を約90%に拡大する予定。待ち受け時間が100時間を超える端末や現行方式と併用できる端末も投入し、KDDIを追撃する構えを整えつつある。
しかし、電電公社時代の独占時代を知る社員が数多く残るNTTグループ各社には、「技術的に良いものを作れば、ユーザーは後から自然とついてくる」「われわれが定める仕様が日本の標準である」といった意識が未だに強いといわれる。それが必ずしも正しくないことを証明したのが、iモードの成功ではなかったか。
技術力とマーケティング力が新商品開発の両輪であることはいうまでもない。両輪のバランス感覚を失ったままであれば、たとえドコモであっても第3世代携帯を巡る競争に勝利することは、決して容易ではない。
Profile
高橋智明(たかはし ともあき)
1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。
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