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ソニーはきらめきを失ったか麻倉怜士のデジタル閻魔帳(4/4 ページ)

» 2009年04月21日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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麻倉氏: それはともかく、アップルは特定のコンテンツとそうした関係を持たないので、どの会社ともオープン、対等につきあえます。実はソニーもiPodを連想させるポータブルHDDプレーヤーや、iTunes Storeを連想させる配信サービスは90年代後半から考えていました。しかし、ソニー・ミュージックへ協力を得るべく話を持っていったら、協力どころか、「そんなCDビジネスをつぶすようなことは、とんでもない」と大反対されました。

 現在のソニーは、これらソフトや金融など、手を広げすぎている感があります。これによって、どのような影響が出ているのかを再考するべきではないでしょうか。とはいえ、同社グループには15万人以上の従業員がおり、これらの従業員を食べさしていかねばなりません。そのためには、製品の「数」が売れることも大切です。でもこうした数を担保する一般的な製品も、やはり「ソニー製品である」から買われるわけで、そのためにこそ、上位の製品で「さすが、ソニーはやっぱり違うぜ」と思わせなくてはなりません。

 クオリアは製品としてはよくできていましたが、既存のソニー製品と関連づけられていないのが問題でした。ですが、“クオリア的”ともいえる部分は、テクノロジーのゆりかごであり、ソニーのイメージを先端的なものにしてくれました。そうした意味では、ストリンガー氏の目指すところは間違っているのです。先端的な部分にリソースを投入し、垂直型のもの作りをして、シャワー効果を発揮させない限り、ユーザーから期待されるソニーの復活はないでしょう。

photo ハンディカム「HDR-XR520V」

 最近の例で言えば、“ハンディカム”「HDR-XR520V」は撮像素子からレンズまでを自社生産するという垂直統合で作り出され、圧倒的な存在感を放っています。そうしたワン・アンド・オンリーの考えや展開を、テレビやレコーダー、ウォークマンに対しても行って欲しいですね。個人的には、配信が一般化していくなか音の出口はプアなままという状況を打破できる、高音質なネットワークレシーバーの登場に期待したいです。もちろん有機ELも大期待です。これから流行する3Dも、ソニーのテレビでは観たら最高という性能が欲しいものです。

 それはさておき、戦略的には技術や方向性は持ちながら製造自体は他社に任せる――モノを作らないという方向性も現実にはあり得るでしょう。単純にOEM購入することもあるでしょう。ストリンガー氏は高コスト体質の改善を進めるという目標も掲げているので、そうした方向にかじを取る懸念もあります。

 そうなっても、もの作りのリーダーたる吉岡氏(執行役 副社長 吉岡浩氏:テレビ/オーディオ・ビデオ/デジタルイメージング/ケミカル&エナジー/電子デバイス/半導体の各事業を担当)には大いに踏ん張ってもらいたいところです。

 彼の部署がソニーとしての高い開発力や技術を保ち、ソニーの魅力を、圧倒的なソニー的な価値のある「もの」で訴えない限り、ソニーの復活はないでしょう。ストリンガー氏がそんなわけですから、吉岡氏に課せられた責任は非常に重いのです。大いに期待したいです。

麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作


「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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