さて、2回にわたってテレビ放送をしゃぶり尽くす全チャンネル録画&掘り起こし機能や、高画質テレビを選ぶなら、という視点で今年のテレビを振り返ってきたが、最後はやはり“スマートテレビ”について触れざるを得ないだろう。
とはいえ、昨年はもちろん、今年になっても一貫してスマートテレビが話題になっているにもかかわらず、筆者は“スマート”とは何か? について、商品性も必要な機能も将来像も、なんら確信を持てずにいる。そもそも、スマートテレビが欲しいと思ってテレビを買っている人たちは、どのぐらいいるのだろうか?
そもそも、スマートテレビの定義が定まっていない。クラウド型のネットワークサービスとテレビ受像機を結びつけたテレビ、という定義ならば、とっくの昔から存在している。スマートフォンやタブレットと連動できるテレビというのなら、多少は理解できなくはないし、ユーザーインタフェースが進化し、ネットワークデバイスと連動することでスマートなテレビになったのだ、という主張にも多少の理はあるかもしれない。しかし、その部分は、もやはテレビ(受像機)と言えるのだろうか?
もちろん、インターネットや家庭内LANに接続されて、なにかとつながって格別に楽しい機能やサービスが利用できるようになるなら、そこを否定するつもりはないのだ。しかし、新しいカテゴリとして「スマートテレビ」が注目され、さらには総務省がいうような「日本発のスマートテレビというモデルを、対応機器やサービスモデルと一緒に輸出」なんてことができるとは想像しにくい。
と、小難しいことを考えず、もっと単純化してみよう。
テレビの買い替えサイクルは昔の10年よりもずっと短くなったといわれるが、5年以内に買い替える人は少ないと思われる。両親や親類に譲ったり、自宅内の別の場所に移動させてより大きなサイズのテレビを買うといった人は、5年以内に買い替えている人も多いが、だからといって多数派ではない。
ところがネットワークサービスは常に変化している。例えば身近なところでYouTubeを思い起こしてほしい。以前は投稿されたユーザー動画を紹介したり、検索させることを前提にした作りだった。しかし、現在は映像制作や音楽制作の会社など、コンテンツのプロが映像をYouTubeに積極的に流し、チャンネルを開設して”ながら”見をしてもらおうという意図を感じる。
このため、YouTubeへのアクセス機能を備えるテレビのユーザーインタフェースはガラリと変化し、ジャンルやカテゴリを選び、そこからチャンネルを選択。人気度など並べ替え順を指定し、チャンネル内の任意の映像を楽しむ、といった作りに変化してきた。
ところがテレビ側はそう単純ではない。昨年までのモデルは従来型のYouTube向けに設計され、もちろん今でも使うことはできる。しかし、新しいYouTubeのサービス構造に合わせた製品の方が、受け身で映像を楽しむことに集中できる。
これはテレビ受像機の普及・買い替えサイクルとネットワークサービスの進化速度が違っていることを示す一例に過ぎない。テレビ受像機は、コンテンツを受け止めるプラットフォームでなければなならないのに、コンテンツ側の更新にしたがってハードウェアを更新しなければならないようだと長期間、魅力的であり続けることはできない。
テレビ番組、インターネットサービス、ソーシャルネットワーク、それらを滑らかにつなぐユーザーインタフェース技術などで、いつかスマートな家庭用ディスプレイが実現できるのかもしれないが、現時点では超小型化が達成されているIPTV端末をHDMI端子に取り付け、そこにネットワーク対応機能を付ける方が、ユーザーにとってはいいのでは? と思いはじめている。
もちろん、コンテンツ制作サイドからみると、民放各社がさまざまなネットワークサービス連動番組を仕掛けているように、別のシカケ方があるのだが、ハードウェアサイドからみると、KDDIやソフトバンクが取り組んでいる小型HDMI端末を安価、あるいは無料で配布して、テレビに向いたサービスプラットフォームを提供する方が現実的かもしれない。いざとなったら安価な端末を入れ替えさえすれば、最新のサービスやアプリケーションにアクセスできるのだから。
そうした意味でも、日本ケーブルラボの技術仕様を基礎にしたテレビ向け小型端末が、今後どう進化していくかは注目したいところ。おそらく来年早々に米ラスベガスで開催される「2013 International CES」でも、いくつかの提案を探すことができると思う。
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