携帯電話業界に流行語大賞があるとしたら、今年のトップ3には間違いなく「次の5年」というフレーズが入るだろう。NTTドコモ プロダクト&サービス本部マルチメディアサービス部の夏野剛部長の言葉だが、これほど日本の携帯電話市場を的確に表した言葉はない。
「次の5年」には2つの意味があると、筆者は考えている。
ひとつは、“ケータイの進化”における意味だ。周知のとおり、携帯電話は1999年のiモード誕生によって、その役割と価値が大きく変化した。メールとコンテンツアクセス機能、少額課金システムを備えた“ケータイ”は、コミュニケーションと情報メディアの2つの世界に革命を起こした。その後、アプリやカメラ、3Gによるリッチコンテンツといった新分野が次々と開けていったが、その礎は1999年のiモードにあり、そこから生まれた流れが今に至っている。
しかし、ドコモは自らが生み出した「iモード以降の世界」に限界が来ているとし、ケータイの新たな進化として“リアル連携/生活インフラ化”のビジョンを示した(6月16日の記事参照)。
一方、2003年以降、ドコモを猛追するauもまた「iモード以降の世界」に新たなパラダイムが必要だと考えている。auが打ち出したのが、3Gの高速データ通信・定額制を前提にした“メディアインフラ化”というビジョンだ(5月28日の記事参照)。
この2つのビジョンがプロダクトとして結実したのが、今年登場したドコモの「おサイフケータイ」とauの「着うたフル」である。どちらもまだ発展途上であるが、次の5年に向けた新たなケータイの進化が始まったのだ。
もう1つの「次の5年」は、携帯電話ビジネスの質的な転換である。
TCA(社団法人電気通信事業者協会)の最新資料によると、今年11月末までの携帯電話総契約者数は約8500万人(12月7日の記事参照)。1994年にドコモが端末売り切り制度を導入して以降、右肩上がりに契約者数が増加してきたが、未だ携帯電話を持たない純粋な意味での「新規顧客」市場には限界が見え始めている。
今年はツーカーセルラーが「ツーカーS」で高齢者市場に切り込むといった動きもあったが(12月7日の記事参照)、これもまた携帯電話市場のメインターゲット層が飽和してしまったことの証左だろう。
一方で、「メールとコンテンツによってデータ通信ARPUを上げていく」というビジネスモデルも、2003年から2004年に大手3キャリアが導入した「パケット料金定額制」によって行き詰まった(5月28日の記事参照)。いわゆる「iモードモデル」は、音声通話が主体だった時代に、ドコモが将来予想される過度な価格競争と市場ニーズの飽和を避けるために生み出した戦略だった。だが、iモード誕生から5年後の今年、それが崩壊したのだ。
残された新規顧客の数は少なくなり、開拓の難易度が上がっている。かといって既存ユーザーのARPU増大も定額制や通話料金競争によって限界が見えている。
これまで携帯電話キャリアのビジネスは、新規顧客の獲得と既存ユーザーのARPU向上を目指すことが第一義だった。しかし次の5年は既存ユーザーを囲い込みつつ他社のシェアを切り崩す形になる。未開拓地の陣取り合戦から本格的なシェアの奪い合いになるのだ。キャリア同士の攻防戦である。
この攻防戦をさらに熾烈化させる要因が、2006年夏頃に導入される予定の「番号ポータビリティ」(MNP:Mobile Number Portability)だ(3月30日の記事参照)。
ユーザーが利用中の携帯電話番号を変えることなくキャリア変更が可能なこの制度。ユーザーにとっては福音だが、キャリアにとっては他社のシェアが狙える反面、自らのシェアが切り崩される可能性がある「諸刃の剣であることは間違いない事実」(KDDI幹部)だ。
すでにMNPの前哨戦は始まっている。
まずドコモのおサイフケータイとauの着うたフルのどちらも、その背景にあるのはMNP対策だ。前者は電子マネーやポイント、電子鍵など実用系サービス、後者はリッチなエンタテイメントコンテンツとアプローチの仕方は異なるが、MNPで移動できないバリューを携帯電話に取り込むことで、ユーザーがキャリア変更しにくくなるようにするのが狙いだ。このような傾向は今後、さらに強くなっていくだろう。
また、新端末や新サービスの市場投入でも、MNPの影響が見え始めた。
今年の冬ケータイでは、auが着うたフルやau design project、CDMA 1X WINで積極的に新市場の開拓にチャレンジしたのに対して、ドコモの901iはサービスと端末全体のリファイン(洗練)に努めて堅実な進化にとどまったのが対照的だった(11月17日の記事参照)。
これはなぜか。
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