ゲートウェイのスキップと時期を同じくして(5月27日の記事参照)、キャリアの通信ビジネスの根幹を揺さぶる変化も起きようとしている。パケット定額制だ。
昨年11月にパケット定額制「EZフラット」を導入したKDDIに続き(2003年10月22日の記事参照)、この6月からドコモもパケット定額制「パケ・ホーダイ」を始める(3月24日の記事参照)。
毎年の音声料金収入の落ち込みが避けられない状態の中、データ通信(パケット)収入の上昇が、それをカバーする──。各社が描いていた長期的なシナリオは、そうしたものだった(2003年7月23日の記事参照)。パケット定額の導入によって、そのシナリオは書き直しを迫られることになる。
ただし短期的には、定額制がデータ通信収入の減少に結びつくとは限らない。KDDIのパケット定額制「EZフラット」の状況を見ると、過去は2000〜3000円程度しか使っていなかったのに、定額制導入によって月々4200円払うようになったユーザーがかなり多い(4月28日の記事参照)。
定額制はデータ通信料収入の減少をもたらすものではなく、「データ利用の底上げが期待できる」というのがKDDIの公式スタンスだ。
ドコモの場合は、FOMAの定額制を導入することで、2004年度300億円の減収を見込んでいるが(5月7日の記事参照)、収入に対するインパクトは「ファミリー割引の割引率拡大」のほうが大きいくらいだ。
いち早く転換が必要となるのは、実はコンテンツのあり方に関する部分だろう。
携帯機能の進化に伴って、大容量で美しいコンテンツを提供すれば、ユーザーが喜んでくれるかというといえば、話はそんなに単純ではない。「利用料が気になって逆に使ってくれないユーザーも多い。画像の容量が多いとクレームも……」と多くのコンテンツプロバイダが話す。パケット定額制によって初めて、「これからは大手を振ってどんどん使ってくださいと言える」(ジェイ・アニメ・ドットコムの高山晃取締役)ようになるわけだ。
通信キャリアの担当者も、意識の変革を迫られる。コンテンツプロバイダがキャリアの担当者と打ち合わせるに当たっては、「で、このコンテンツはどのくらいパケット使ってもらえるの?」と質問されることが多い。「たっぷりパケットを使わせるコンテンツはいいコンテンツ」という意識が、多分に残っている担当者は多い。
定額制が普及するにつれて、キャリアの担当者は別の観点からコンテンツを評価する必要に迫られることになる。
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ゲートウェイビジネスからの脱却(5月27日の記事参照)、他社に先駆けたパケット定額制の導入──。iモードが確立したゲートウェイビジネスに代わる、新時代のビジネスモデルの構築に、一歩先んじているのがKDDIだ。
「思ったより早く、ドコモさんに追いつかれてしまった」と話す高橋氏だが、“定額ならではのコンテンツ”の試みでは、ドコモの先を行っているのは間違いない。KDDIがイメージする新しいビジネスモデルはどのようなものなのか。
「ディズニーランドができたころを思い出して、定額制を作っていきたい」と高橋氏は話す。これまでの遊園地、アミューズメントパークは、“乗り物に1回乗って○○円”というモデルで運営されていた。ところがディズニーランドでは、「1デーパスポート」を導入。パレードを見たりショウを見たり、無料で見られるものも含めて、世界観をサービスする形をとった。
高橋氏は、パケット定額制も同様だと説く。目指すのは、「WINという世界観に触れていただく入場料として、4200円」。
こうした世界を実現するための具体策は、“携帯のメディア化”だという。そのカギとなるのが、定額専用コンテンツとしてスタートさせた「EZチャンネル」だ(2003年12月16日の記事参照)。
動画も含んだマルチメディアコンテンツを、定期的に配信するEZチャンネルは、携帯の仕組みを作った“放送”ともいえる。誰もが参入できた従来のWebベースのコンテンツとは違い、提供する番組の内容もKDDIが選別を図っていく考えで、コンテンツプロバイダのビジネスモデルも従来とは違うものになる。
「3Gの先を考えると、EZチャンネルの延長線上で考えて行かなくてはならない。次は、携帯のメディア化を狙っている」(高橋氏)
メディア化の具体的な内容は明らかではないが、PCインターネットをモデルにしているのは間違いない。「定額の時代が明らかに来た。PCで成功したモデルが携帯でも生きてくる」(高橋氏)。
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