会員7万5000人突破。好調の韓国のモバイル放送について聞く

» 2005年07月11日 13時02分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 5月の本放送開始から2カ月が経った衛星DMB(モバイル放送)。その事業者である「TU Media」は7月1日、6月末に加入者が7万5000人を突破したと発表した。

 日本より後発でありながら(2004年10月4日の記事参照)、より多くの会員を誘致している韓国の衛星DMB人気の秘密は何だろうか。TU Media広報室課長のホ・ジェヨン氏へのインタビューも交えリポートする。

携帯電話自体の魅力が、若者層を引きつける鍵

 先のTU Mediaの発表によると、会員7万5000人のうち、放送を携帯電話で見る人は7万700名で、車載用端末で見る人の5100名を大きく上回っている。年齢比では、20〜30代が70%以上を占め、男女比では男性が多数を占めるという。比較的若い男性が、携帯電話で放送を見ることが多いという事実は、20〜30代をターゲットとしている同社の狙いとぴったり合っている。

 現在、市販されている衛星DMB対応端末は全部で4種類──Anycall「SCH-B130」「SCH-B100」、CYON「SB-120」、SKY「IMB-1000」。いずれも60万〜80万ウォン(約6万〜8万円)程度はする高価な端末だ。若い層がそれほどの端末を買い、さらに一定の視聴料も払ってまで衛星DMBを見るというのは驚きだ。

 「韓国では補助金が出ないため、デザインや性能が良い携帯電話は高額にならざるを得ないが、逆にそれを持っているということがステータスとなるため、ユーザは高くても端末を買う。衛星DMB対応端末はいずれもクリアで見やすい画面が特徴なので、ユーザは1日2時間程度は番組を視聴しているようだ」と、ホ・ジェヨン氏は話す。

 なかにはデザインが気に入って買った端末が衛星DMB対応だというのを後で知り、加入する人もいるという。それほど端末は、ユーザを引きつける大きな魅力となっている。現在の会員の特徴として、デジタル機器に関心が高く新機種が出るとすぐに飛びつく傾向が強いという共通点が挙げられる。TU Mediaではこれを一般層にまで拡大したい考えで、「20〜30代にもっとアピールしていきたい」(ホ・ジェヨン氏)としている。

左から、中間の画面がスライドするという、ユニークな作りのSKYの「IMB-1000」。韓国国内初の衛星DMBフォン、Anycallの「SCH-B100」。CYONの「SB-120」。画面が360度回転し、折りたたんだ形で番組を見られるのが特徴。Anycallの「SCH-130」。外装メモリはRS-MMC。

人気番組の再放送や生放送で付加価値のあるプログラム提供

 衛星DMBのチャンネル構成は現在のところ、ビデオ7チャンネル、オーディオ24チャンネルとなっている。オーディオチャンネルには、DJがさまざまな音楽を紹介する「DJ Zone」、漫談から中国語会話まで、多様な音声プログラムを提供する「Variety Zone」、最新歌謡からジャズ、演歌まで、幅広いジャンルの音楽が聴ける「Nonstop Zone」が用意されている。一方ビデオチャンネルには、音楽、ニュース、映画、スポーツ、ドラマ、ゲーム、そして「ch.Blue」がある。ch.Blueは、TU Media独自の芸能・娯楽チャンネルで、コメディプログラムやドラマなどを放送している。

 「人気なのはドラマとスポーツ。ドラマは男女問わず韓国人にとって大きな関心事の1つなので、数年前に放送していたものから、視聴率40%を超える最新人気ドラマまで、多様なプログラムを再放送という形で流している。スポーツでは、韓国人選手が登場するメジャーリーグの生放送が人気」(ホ・ジェヨン氏)

 現在放送中のドラマの再放送も行っている地上波放送のプログラム、ニュースやスポーツなど生放送もふんだんにあるケーブルテレビのプログラム、衛星DMBでしか見られないch.Blueと、プログラム内容は個性的かつ選択肢が多い。なんといっても韓国ユーザにとって一番の関心事である地上波を取り入れたのは大きなポイントといえるだろう。

 「SK Telecom(以下、SKT)のJUNEや、KTFのFimmといったEV-DOサービスでも、一番人気はテレビ番組。ただしこれらのサービスは料金が高額なうえ、画質が衛星DMBと比べてやや落ちる。それなら月定額13000ウォン(約1300円)の衛星DMBを見たほうがいいというユーザが多い」(ホ・ジェヨン氏)というように、内容に対する料金も納得のいくものとなっているようだ。

 ちなみにEV-DOの料金制度は、さまざまある中で一般的なものを挙げると、Juneは月額26000ウォン(約2600円)で、Fimmは月額24000ウォン(約2400円)(150MBまでが見放題)となっている。同じ見放題でも衛星DMBの場合は、月額13000ウォンのほか、1年契約で月額11700ウォン(約1170円)、先払い1年契約で年額132600ウォン(約13260円)といった定額制をしいている。

衛星DMBを受け入れやすい環境が整っている

 これまでデザイン性の高い携帯電話、そして選択肢の多いプログラムという、ハードとソフト面から人気の理由を見てきたが、それ以外に韓国で衛星DMBが受け入れられている理由は何だろうか。その理由としてホ・ジェヨン氏は、衛星DMBを取り巻く環境に関する2つの理由を挙げてくれた。

 1つは「先行投資をしていること。これまでに約3500億ウォン(約350億円)もの投資を行っており、現在、ソウル市内だけでもギャップフィラーを5000カ所ほど設置している。こうして環境整備を行った結果、ユーザからの画像が途切れないとの評価につながった」と同氏。

 現在、衛星DMBを受信できるのは、ソウルを始めとした首都圏、釜山や大田などの広域市(ソウル特別市に続く、広域の行政区域)など37の地域となっており、今年中には韓国全国の市で見られるよう、現在も整備を行っている最中だという。

 2つめは、衛星DMBに対する注目度だ。

 「韓国人は新しいデジタル機器を柔軟に受け入れるほうで、衛星DMB自体も新規の産業として大きく注目されているため、環境的にも良い」と同氏が分析するように、韓国と日本を比べた場合、まず関心度の高さに違いがあることを実感できる。

 国民所得2万ドルを達成するための原動力として、ITと科学技術の8大サービス、3大インフラ、9大成長動力の発展に注力しようという、韓国政府の「IT839政策」中の8大サービスに含まれているDMBは、ニュースや新聞でも大きく取り上げられることが多い。TU Mediaによる広報活動も活発で、バス停や映画館、地下鉄駅などで若者に人気の歌手やコメディアンを起用した大きな広告が目立つ。このほか、大学やキャリアショップ前などでの体験イベント、パフォーマンスなどを通し、認知度拡大につとめているという。

 7月末〜8月初旬になると、SKTだけでなく、KTFやLG Telecomでも対応端末が出てサービスが開始されるということで、夏以降も大いな盛り上がりが期待できそうだ。

まだまだ課題山積みの地上波DMB

 今後の課題としてホ・ジェヨン氏は、「衛星DMBだけで見られるコンテンツを充実させること。また見にくい場所でも切れずに放送を楽しめるよう環境整備をしっかり行うこと。また多様なデザインの対応端末をリリースすること」と語る。

 チャンネルに関しては今年中にビデオチャンネルを14にまでに増やしたい考えで、今月18日に新たに1チャンネルが加わることとなっている。また対応携帯電話に関しても今後は新端末15機種の投入を予定している。さらに現在、再放送となっている地上波の放送を生で見たいという声が多いようで、来年あたりから見られるよう調整中だという。

 ところで衛星DMBに隠れて気になる地上波DMB(地上波デジタル)だが、こちらは現在、放送局間で収入モデルを巡る話し合いの真っ最中だ。

 ビデオ7チャンネル、オーディオ12〜13チャンネルで、無料あるいは一部有料という形で実施予定の地上波DMBだが、放送局側の収入がほとんど見込めないということで、地上波DMB特別委員会と放送局間で現在、議論が行われている。「サービスインは8月からとなるのではないか」(ホ・ジェヨン氏)とはいうものの、状況はいまだ不透明だ。

 現在、SamsungとLGのノートPCが、地上波DMB見られる端末として販売されている。しかし衛星DMB普及のけん引役となった携帯電話に関しては、販売できる端末の準備はまだ整っていないということで、地上波は課題が山積みといえる。


佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。

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