ボーダフォン時代はラインアップが乏しく、「ださい、分厚い、使いにくい」と言われ、魅力に欠けるとされていた端末群は、この1年でがらりと変えて見せた。
機種数は、2006年の3月から8月にかけては新モデルが10機種しかなかったものが、2007年の第1四半期は春モデルの一部と夏モデル合わせて計23機種の端末を投入。色数に至っては、各機種のカラーバリエーションを足すと99色にも上り、さまざまなセグメントのユーザーに満足してもらえる端末をそろえた。
「端末が重くて分厚いと、それだけでださいといわれる。ポケットに入れたくないと思われてしまう。だからソフトバンクはスタイリッシュでファッショナブルなものを目指し端末を開発している。薄くて軽くて華やかで、デザインもかっこいいのがソフトバンクのケータイだ」(孫氏)
孫氏はドコモやauの携帯電話の重さと厚さを表にプロットし、ソフトバンクの端末が両社の端末よりずっと薄くて軽いことをアピールした。「主観のかっこよさも1番だと思うが、そこはあくまで主観なので除外するとしても、重さと厚さに関しては他社に負けていない」(孫氏)
なお、同社の端末平均仕入れコストは「4万数千円の下の所」であることが今回孫氏の発言から明らかになった。ちなみに販売奨励金は平均で3万700円。この半年ほどの間に発売された端末は、コストダウンよりもラインアップ拡充に力を入れていたため、コスト効率という点ではまだ今後見直す余地があるという。今後も機能は進化させていくが、これから先はコスト効率も改善していく。孫氏は「(コスト効率の追求は)今年の後半から徐々に効いてくる。来年はだいぶコスト改善が前進するだろう。平均仕入れ単価は下げていく」との見通しを示した。
ユーザーが利用するコンテンツも、Yahoo!ケータイを開始したことで大幅に充実したと孫氏は話した。端末に用意された[Y!]ボタンを押すだけでニュースや株価、音楽、ゲームなどあらゆる情報やコンテンツにアクセスできるという手軽さがユーザーに支持され、Yahoo!ケータイのトップページへのアクセスは、ボーダフォンライブ!へのリンクをYahoo!モバイルに変更する前の2006年6月比で、66倍に増えているという。
1ボタンでアクセスできることから、孫氏自身も「1日に10回以上アクセスしている」。Yahoo!ケータイのポータルページのデザインは、孫氏自身がフォントサイズから画面のレイアウトまで細かく作り込んだというエピソードも披露した。
「今までも、Yahoo!モバイルなどでPCと同等の情報を得ることはできたが、やはり1ボタンでアクセスできるということが重要だ。PCとほとんど同じ操作感で使えるのもポイントで、PCで慣れ親しんだコンテンツを携帯でもほぼそのまま見られる、使えるのが大きい。携帯に、Y!ボタンのようなPCと同等のサイトに飛ぶ仕掛けを用意しているのは、世界中でも我々だけではないかと思う」(孫氏)
なお同氏は、現在低下傾向にあるARPUの改善にも、このコンテンツが重要なカギを持つとした。現状ではトータルのARPUが約5000円で、そのうちデータのARPUは1400円程度にとどまっているが、Y!ボタンによってデータ通信の利用頻度を上げ、パケット通信量収入の増加につなげたい考えだ。
「Y!ボタンは、見たい情報にたどり着くまでのクリック数が減るので、短期的にはその分のPVやパケット通信料が減るかもしれない。しかし、ユーザーが“これは便利だ”と感じてサービスを利用してくれるようになれば、1回の情報を見るために発生するパケット通信の量は減るが、利用頻度は上がる。短期的にちょっと損をするかもしれないが、中長期で見ると、ユーザーに喜んでもらい、利用頻度が高まればそれでいい」(孫氏)
携帯対応の動画のコンテンツを増やしていることも、いずれはパケット収入の増加に寄与してくると考えてのことのようだ。中長期の戦略としては、グループ内のコンテンツやサービスなども融合して、データARPUを増やしていきたいと考えだ。
ソフトバンクモバイル躍進の原動力の1つとされている、月額980円の料金プラン「ホワイトプラン」は、新規加入者の98〜99%くらいが選ぶほど人気になっている。孫氏は「ソフトバンクらしいユニークさが打ち出せた」と胸を張った。
ホワイトプランの契約数は、8月7日時点で690万回線に達しており、今月中にも700万契約を超える勢いだ。たくさん通話をしてARPUの上昇に貢献するヘビーユーザーが多い「Wホワイト」も170万契約を獲得しており、「いいペースで増えてきている」と孫氏は言う。5月10日に発表した、家族契約であれば24時間通話が無料になる「ホワイト家族24」も好評だ。
低い初期コストで端末を購入できる割賦販売制度「新スーパーボーナス」も、現在630万件に達しており、ソフトバンクモバイルとして当初想定していたより早いペースで広まっているという。
これらの施策がユーザーに浸透した結果、ソフトバンクモバイルは料金が安い、お得というイメージが定着しつつある。2007年1月の時点では、料金が安いキャリアはau、という調査結果が多かったが、最近はソフトバンクがその座を占めている。
また番号ポータビリティを利用してキャリアを変えたユーザーに対して行った調査では、キャリアを変えて料金が安くなったというユーザーが、ドコモとauには3割から4割くらいしかいなかったのに、ソフトバンクモバイルでは74.6%もいたという結果が出たことを示し、「新たにソフトバンクのユーザーになった人たちの圧倒的大半は“料金が安くなった”と感じている。そうしたユーザーが、実感した安さを自分の友達や家族に広め、草の根のネットワークで浸透している」と話した。これはウィルコムの音声定額プランが広まっている状況とも一致する。
ただ、音声定額など、大胆な施策が打てたのは、「たまたま、幸いにして3Gネットワークに余裕があるから」だと孫氏は指摘する。同氏は「ユーザーが少ないからこそ、余剰のネットワークキャパシティを使ってお客様にメリットを還元できた。お客様がどんどん増えたら、いずれはネットワークを増強していかなくてはならなくなる。その点には注意しながら、きちんとした設備計画を立て、お客様にご迷惑を掛けないよう配慮しながら進めていく」と気を引き締めた。
ブランド戦略も、「CMを一生懸命やったおかげで、加入検討候補としてのソフトバンクの認知度が上がった」と孫氏。携帯電話事業に参入するまでは、ソフトバンクのブランドを付けた一般消費者向けの商品をほとんど出していなかったが、短期間でソフトバンクブランドが一気に浸透し、CM高感度もナンバー1を獲得したことを紹介した。
また戦略の一環として、ソフトバンクショップの数を大幅に増やしていることも明らかにした。カウンター数は店舗数以上に増やし、ユーザーを待たせないような施策も打っている。特に2006年10月から11月にかけて、番号ポータビリティの受付システムがダウンしたり、慣れていない店員が多かったこともあって多くの顧客を店頭で待たせてしまったことを反省し、カウンター数を45%増やして迅速な対応ができるような体制を敷いている。
さらに、福岡ソフトバンクホークスの存在が、ソフトバンクモバイルのブランドイメージ向上に大きな役割を果たしたと孫氏は話した。ダイエーホークス買収当時は「金額が高い」「なんの役に立つのか」といった声もあったそうだが、九州地区ではソフトバンクの純増シェアが4カ月連続でナンバー1を獲得しており、純増シェアが67%に上るなど、圧倒的な強さを見せているのは、「九州の多くの地元ソフトバンクホークスファンに応援いただいている」からだとした。
ソフトバンクブランドに対するイメージも好転してきており、それに合わせて解約率も下がってきたという。
会見後の質疑応答では、2.5GHz帯を利用した次世代高速無線の基地局開設計画に関する申請受付開始(8月7日の記事参照)を受けて、ソフトバンクとしてどうするかを問う声が上がった。
ソフトバンクは2.5GHz帯の免許申請に関し、イー・アクセスと共同で「Feasibility Study」(実行可能性、採算性、企業化調査)を行っており(6月21日の記事参照)、既存の3Gキャリアの単独申請を認めず、参入する場合は出資比率3分の1以下の会社経由となる現状で、どういった対応を行うのか、注目されている。
孫社長は「仮に(ソフトバンクとイー・アクセスの)2社で一緒にやろうということになっても、3分の1ルールがあるので、申請までに他の出資者を募ることになるだろう。とはいえ、何らかの形で必ず手を挙げることにはなると思う」と話した。
また、モバイルビジネス研究会がまとめた報告書案で触れられていた、「端末価格と通信料との分離」や「利用期間付き契約」については、「実際に事業をやっている会社に、あまり窮屈に、法律あるいは制度として、何か押し込んでしまうということになると、本当にそれで消費者のためになるのかと思う。基本的な思想としては、“自由”が一番いい。自由にしていても、競争があれば(キャリア同士が)お互いさまざまな工夫を凝らし、最終的には消費者の皆さんが一番いいと思うものを選択していくことになる。あまり統制経済的な形でやるのはいかがなものかと思う」という感想を述べた。
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