業種や規模を問わず、最適な法人ソリューションを提供する――KDDI 湯浅氏ワイヤレスジャパン2008 キーパーソンインタビュー(1/2 ページ)

» 2008年06月27日 17時29分 公開
[石川温,ITmedia]
Photo KDDI FMC事業本部長の湯浅英雄氏

 契約数が1億を突破するなど、すでに飽和状態にあるといわれている国内の携帯電話市場。こうした中、携帯キャリアが次に狙いを定めるのが法人市場だ。音声通話定額や通信データカード、スマートフォン、ソリューション提案など話題の多いこの市場を、KDDIはどんな戦略で攻めるのか。同社FMC事業で本部長を務める湯浅英雄氏に聞いた。

ITmedia 昨今、法人市場の競争が激化しているように思えます。KDDIとして法人市場の現状をどう見ているのでしょうか。

湯浅英雄氏(以下、湯浅氏) ここ数年、ソフトバンクモバイルやイー・モバイルの参入によって法人市場が活発化してきました。もともと我々は、4年前にモバイルソリューション事業本部としてスタートし、今ではFMC(Fixed Mobile Convergence)事業本部として活動しています。携帯を利用することで企業が業務の効率化を図れるよう、多様なソリューションを提供しており、法人の中でも特に中堅や大企業向けにソリューションを作ってきた実績があります

 業界で認知度の高い「MCPC award」では、我々のソリューションを採用した企業が3年連続グランプリをいただくなど、大企業向けソリューションの開発については評価していただいています。ただその半面、新規参入キャリアが活躍している小規模企業やビジネスコンシューマー、個人事業主にアプローチしきれていなかったのも事実です。今後は、そこもやっていかないと法人市場を拡大できないと思っており、準備している状態です。

ITmedia 法人需要を拡大する上で、どのようなポイントを重視していますか。

湯浅氏 法人需要が拡大する中、すでに外勤者はケータイを持っているケースがほとんどで、これからは“いかに内勤者に持ってもらうか”が重要です。そのために我々は、内線ソリューションを充実させてきました。

 「OFFICE WISE」、「OFFICE FREEDOM」、既存のビジネスフォンには「OFFIMO」。個人事業主向けには「ケータイdeコードレスセット」などを提供し、それにケータイと固定網を組み合わせて使ってもらえるような環境を提供してきたわけです。

ITmedia 実際のところ、内線需要は活況なのでしょうか。

 

湯浅氏 “まだ盛り上がっていない”というのが正直なところです。これは、環境の作り込みに手間も時間もかかることが理由の1つでしょう。無線LANの場合、事前の電波調査やPBXの機能、カスタマイズなどで半年から1年近くかかってしまう。システムを導入するには入れ替え時期が必要なので、1年ぐらい前からベンダーやお客様と打ち合わせをして進めなければならないのです。

ITmedia 最近ではケータイでの定額通話利用が増えてきており、内線通話の需要が必須ではなくなっているようにも思いますが、実際はどうなのでしょう。

湯浅氏 確かに定額通話の場合は、“外でも中でも関係ない”という考えもあります。ただ、中堅以上の企業は社内にPBXがあり、固定網が必要になってくるため、ケータイですべてを巻き取ることはできないのです。そこが我々の知恵の出しどころになってきます。

 次のステップとして、今年度中に固定と移動を融合したFMCサービスにおいて、もう少し進化させたものをリリースする予定ですので、楽しみにお待ちいただきたいですね。

KDDIの強みは“法人専用ケータイ”

ITmedia KDDIは、無線LAN対応の「E02SA」、防水対応の「E03CA」といったように、法人に特化した端末を投入しています。ここは、他社との差別化ポイントになってくるのでしょうか。

湯浅氏 そうですね。お楽しみといったものは……。E03CAという防水タフネス端末を出してからずいぶん経ちますので、“次を”と考えています。ただ、E03CAは今でも、かなりの台数が売れ続けています。いくら薄くて格好よくても、落として壊れたら業務が半日や1日は止まってしまう。耐衝撃性を備えた防水ケータイは、ヘビーな環境下で業務アプリを使っても、壊れたり止まったりしない点が喜ばれており、特に運送業界ではスタンダード端末になっています。

Photo カシオ計算機製の「E03CA」(左)と三洋電機製(当時)の「E02SA」

 現在、ヤマト運輸では全国15万台のケータイが稼働しています。ポケットにケータイがあり、それがハブとなっている。クレジット決済をすれば、その情報がBluetooth経由で飛び、配達すればバーコードで読み取った情報が飛んでいく。荷物を送った人はリアルタイムにインターネットで荷物を追跡できるようになっています。

ITmedia ヤマト運輸のほかにも、興味深い事例があったら教えてください。

湯浅氏 エレベータやコピー機の保守などでも、ケータイが活躍しています。修理の際、これまでは修理先を訪問し、不良部品の手配を会社に戻ってやっていたわけです。しかし、いまでは、ケータイの中で部品在庫の確認と発注ができるようになっています。訪問先で部材を発注し、モバイルプリンタで受注書を発行。その場で金額を提示でき、請求書も発行できます。作業員の残業も部品発注のミスも減らせるという、業務の効率化が評価されています。

 エレベータの保守も、GPSで近くにいるスタッフを派遣できるようにしています。ただ、派遣先のことを知らない作業員を派遣するわけにはいきません。そのため、事前にこれまでの保守履歴をケータイでチェックできるようにしています。

 ソリューションを具現化していくのはとても難しいことですが、それを実現できるとお客様と強固な関係を築けます。この3年間、ヤマト運輸さんやいすゞさん、綜合警備保障さんと一緒にMCPC awardのグランプリを受賞したことが、モチベーションにつながりました。

 お客さん自身のシステム部門の方々は“正しく動いて当たり前”の世界で、グランプリを受賞したことで「社長から評価された」と聞きます。我々はそういうことをまったく想定していませんでしたが、これからは窓口のみなさんが評価されるようにすることで、我々のブランドイメージ向上につなげたいと考えています。

 そのベースを築くのは、“信頼関係”に尽きるでしょう。信頼関係がないと、導入しようと思って聞いてもいただけないですし、どんなにいいソリューションをつくっても意味がないのです。

“1都道府県に1つの支店”で地元大手に強力アプローチ

Photo

ITmedia 地方の法人営業体制について教えてください。

湯浅氏 かつては、全国で東名阪以外は北海道は札幌、東北は仙台といった程度しか支社を置いていませんでした。これが、FMC事業本部になったときに増員されたので、一気に各県に1支店以上を置く体制に変えたのです。この体制変更で、地元大手にソリューションを提案できるようになりました。

 ほとんどの場合は、東京の本社が決めて全国展開する――という流れなのですが、地方の大手メーカーや地銀、信金などの金融機関では、東名阪のノウハウが生かせる。これらのノウハウが生かせる業種をターゲットにしないともったいないのです。地方銀行はメガバンクが使っていると聞くだけで、話を聞いてくれますから。

 ソリューション営業は、昔は情報システムや総務部で完結していたのですが、今では経営企画室や労働組合など、さまざまな部署に行くようにしています。1つの会社の5〜6カ所に行くようにしているわけです。そうすると、お客さんの使い方がよく見えてくる。そうでもしないと、真にお客さんのニーズに合致した提案はつくれません。

 提案のプレゼンテーションにしても、提案先企業の専門的な用語を知ったうえで行えば、聞く方もイメージしやすいのでより耳を傾けてくれる。IT用語を駆使しても、一般論で終わってしまうんです。こうした細かい工夫を重ねながらアプローチしています。

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