謎だらけ? 吉野家のWAON導入(2/2 ページ)

» 2008年10月17日 13時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]
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 これまでWAONが利用できる場所は、イオン系列の店舗が中心だった。今回の吉野家導入は、グループ外店舗へ初めての大型導入という点でも意義は大きい。

 イオン広報部ではグループ外店舗への導入について「WAONを始めた当初から、“使える場所”を増やすことがそのまま(ユーザーの)利便性の向上につながると考えている。同じ目的を持ち、ご協力いただけるところとはオープンに提携していきたい」と説明している。

 グループ外企業ともオープンにどことでも組めるなら、すでにWAONを利用しているユーザーが好んで使う(グループ外)店舗でWAONを使えるようにしたほうが、ユーザーの利便性向上につながるはずだ。しかし上に書いたように、WAONの中心的なユーザー像は「(イオン系列の)スーパーやSCで買い物をする女性」である。果たして吉野家への導入は、WAONユーザーにとって“使える場を増やすこと”につながるのだろうか?

男性客が圧倒的に多い吉野家で、なぜWAON?

 電子マネーを導入する側である、吉野家広報部にも取材した。同社では電子マネーを導入する目的について「会計のスピードアップが見込める。オペレーションが速くなることは生産性向上につながる。またこれまで吉野家では、顧客情報を取っていなかった。将来的には、お客様のプロフィールを今後マーケティングやプロモーションに展開していくこともできるだろう」と説明している。

 吉野家で1回食事をすると、支払う金額は500円前後。確かに電子マネーで支払うにはちょうどいい単価である。吉野家ではこれまで、一部商品券やグルメカード、株主優待券なども扱ってはいたものの、ほとんどの客が現金決済を行っていた。本誌で『時事日想』を連載している神尾寿氏が別記事で指摘しているように(参照記事)クレジットカードが利用できなかった場所にFeliCa電子マネーを導入すると、利用率が上がりやすい。吉野家には、FeliCa電子マネーが普及する素地は充分にあるといえる。

 吉野家では、WAONを選んだ理由を次のように説明している。「1つはシステムとの相性が良いこと。WAONを導入する場合、POSシステムのソフトに大きな改良を加えずに導入できることが分かりました。もう1つは導入コストです。イニシャルコスト・ランニングコストをトータルで考えると、イオンさんのオファーが条件としてベストでした」(同広報部)

 しかし、吉野家のユーザー像と、WAONのユーザー像は非常に遠い。「吉野家は現在全国に約1000店舗ありまして、男性のお客様が圧倒的に多いです。年齢は幅広いですが、20〜40歳代がコアですね」(吉野家広報部)。WAONの主な利用者である女性客の取り込みを狙っているのですか、とも尋ねてみたが「特に女性客を増やしたいという考えでもない」という。

WAONを入れた理由は“とりあえず”?

 吉野家がWAON以外の電子マネーを導入することはないのだろうか。現在イオンが導入しているWAON用端末は、WAONだけでなく、JR東日本の電子マネー「Suica」や、NTTドコモと三井住友カードが展開するFeliCaクレジット「iD」も利用できるマルチ端末である。

イオンが現在導入しているWAON用端末。WAON、Suica、iDの中から決済方法を選び(左)、カードや携帯をかざして決済する(右)

 この端末を導入すれば、WAONのほかにSuicaやiDも利用できることになるが、吉野家で導入する端末はこれとは違うもののようだ。「(導入する端末は)今使っているシステムと相性の良いものを、POSの入れ替えタイミングに沿って(店に)入れていきます。マルチリーダーなので、あとで(WAON以外の電子マネーを)追加することはできるでしょうが、当面はWAONです」(広報部)

 実は吉野家では、部分的に電子マネーの導入を行っている。沖縄県では全店でEdyが使えるし(参照記事)、駅ナカではSuica、高速道路のSA・PA内店舗ではEdyに対応している店舗もあるのだ。取材していて印象的だったのが、吉野家広報担当者の「沖縄(の吉野家)でさえ、Edyを使う人は1割程度ですからね……」という言葉だった。

 別記事で詳しく紹介しているが(参照記事)、沖縄は国内で最もEdyが普及しているエリアだ。その沖縄でもEdyの利用率が1割しかないのであれば、首都圏などほかのエリアで大勢の人が電子マネーを使うという事態はすぐにはやってこないだろう。「まずはコストができるだけかからない方法で何らかの電子マネーを導入し、様子を見ながらほかの電子マネーを導入していこう」……あくまで記者の予測に過ぎないが、吉野家はそういった意図でWAON導入を発表したようにも見えるのである。

 いずれにせよ、ファストフード業界におけるFeliCa電子マネーの導入は始まったばかり。吉野家の男性客がWAONを使うようになるのか、WAON以外の“本命”電子マネーも後から導入し、コンビニのようにマルチリーダー/ライターで運用していくのか、それとも――吉野家の動向に、今後も注目していきたい。

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