12月1日、ウィルコムがNTTドコモのFOMA網を利用するMVNO方式で、データ通信事業を開始する報道された。ウィルコムは「さまざまな可能性について検討しており、その中でNTTドコモ様も含め、色々な可能性について話し合いを行っている」とコメント。詳細こそ明らかにしなかったが、MVNOによる携帯電話事業(データ通信)へ参入する可能性を示唆した。
現在、国内では唯一のPHSキャリアとなったウィルコム。これまでも、ADSLのホールセールや、公衆無線LANサービスの再販など、ほかの通信事業者と協業することはあったが、それは自社エリア内でより速い回線を提供するのが目的だった。また、自社の通信網をMVNOに提供するMNOとしても実績がある。
そのウィルコムが、中核事業である移動体通信について他社との協業を模索する背景には、現行PHSの通信速度が約64kbps〜約800kbps程度と3G端末に比べて遅いことや、「WILLCOM CORE」というサービス名で2009年春の開始を予定する次世代PHS(XGP)の普及に時間がかかるためとみられている。同社は今年に入ってから加入者数が伸び悩み、夏頃からは純減が続いた(10月29日の関連記事)。要因は多々あるが、法人を中心としたデータ通信分野の顧客流出が大きく影響しているとみられる。
こうした苦しい状況が続く中、ウィルコムはどのような高速化のロードマップを描いているのか。11月28日に行われたmobidec 2008でウィルコム 次世代事業推進室 上村治氏が行ったセッションを通じて、同社の今後について占ってみよう。
ウィルコムのWILLCOM COREは、広帯域無線(Broadband Wireless Access:BWA)の1つである。このほかにも、NTTドコモが推進しているLTEや、KDDIが導入予定のWiMAXなどもBWAの1つと考えられる。
BWAの大きな特徴は、通信速度の速さだ。現状の移動体通信は実質の通信速度が数百kbps〜数Mbps。しかしBWAでは、一気に数十Mbps〜数百Mbpsへと高速化する。FTTHなど、現在の固定ブロードバンド回線でなければ実現不可能だった高速通信が、モバイル環境でも可能となる。特にWILLCOM COREは、基幹技術であるマイクロセルネットワークによって高品質で安定した高速通信が行えるという。
同社はこれまでも、現行PHSが採用したマイクロセル方式による通信品質の高さをメリットとして掲げてきたが、今回のセッションにおいても同技術の優位性に関する説明に多くの時間を割いた。
BWA時代における通信速度の向上と通信量の飛躍的な増大に対応できる十分なキャパシティ、柔軟なアンテナ設置が可能な自立分散制御方式、そして多数のユーザーが同時に使用しても実効速度の大きな低下が起こらない緻密(ちみつ)な置局設計など、上村氏は「BWAで求められるのはカタログスペックではなく、その実効速度と通信品質である」と強調した。
基地局を網の目のように細かく設置するマイクロセル方式は、そのメリットがそのまま課題にもなっている。それは、基地局の設置などのエリア展開に時間が必要なことだ。
現在ウィルコムが所有するPHSの基地局は、全国に約16万局。これだけのネットワークを構築するまでに、開業から10年を要している。WILLCOM COREは、既存基地局に新しい機器を追加することでエリアを展開できるため、基地局の用地確保などをゼロから始める丈ではない。しかし、これだけの基地局をWILLCOM COREに対応させるには、相当の時間(と費用)がかかるだろう。
またウィルコムは、すべてのエリアでマイクロセルを採用しているわけではなく、山間部などのルーラルエリアでは、携帯電話とおなじ数キロ四方をカバーするマクロセル方式を採用している。もちろんWILLCOM COREも、マクロセルネットワークの構築が可能なように規格化されており、サービス開始当初は首都圏などの主要都市部はマイクロセル的に、郊外ではマクロセル的に基地局を配置することで迅速なサービス展開を図る計画だ。
その中にあっての、今回のMVNOサービスの発表である。来年4月に試験サービスを開始し、来年10月に正式運用が予定されているWILLCOM COREだが、その全国展開には2〜3年はかかる見通しだ。そこで、現行のPHSデータ通信とHSDPA方式を利用した通信サービスを提供することにより、WILLCOM CORE普及までの穴埋めを狙おうというのだろう。
WILLCOM COREのスタートを間近に控えたウィルコムが、MVNOによるデータ通信サービスを検討するということは、それが今日の3G網のように全国津々浦々で使えるようになるには、まだまだ時間がかかるということだ。BWA時代の本格的な到来は、まだ先のようだ。
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