“独自コンテンツ”に活路を求めるケータイ動画配信サービスmobidec 2008

» 2008年12月03日 22時58分 公開
[あるかでぃあ(K-MAX),ITmedia]

 ディスプレイの大型化や処理能力の向上といった端末機能の高度化と、通信速度の高速化、パケット通信の定額料金が定着したことで普及が期待されるケータイ向け動画配信サービス。以前はPCでしか楽しめなかった動画共有サイトのYouTubeも、2008年1月にドコモ端末に、5月にau端末に対応した。また日本のニコニコ動画も主要3キャリアのケータイで見ることができる。

 しかし、着メロや着うた、ケータイ向け電子書籍と異なり、予想ほどのブームにはなっていないのが現実だ。これまでのケータイコンテンツとは異なる広がり方をみせる動画配信サービスについて、mobidec 2008で講演を行った2社の動向から、ケータイ動画業界の実情を見てみよう。

ユーザーコンテンツをビジネスへ昇華させる「魔法のiらんど」

photo 魔法のiらんど コンテンツ事業部 部長の草野亜紀夫氏

 魔法のiらんどは、ドコモがiモードを開始した1999年にサービスを開始した老舗のケータイサイトだ。ケータイ向けの無料Webページ作成を軸に、コミュニティやショッピングなどのサービスを用意しており、現在も10代から20代前半の女性層を中心に、約600万人の月間利用者を集める。

 さまざまななコンテンツサービスを展開する魔法のiらんどの主力コンテンツが、「ケータイ小説」である。ドラマや映画にもなった「恋空」をはじめ、ユーザーが生み出した作品をコンテンツとして成長させ、書籍として出版することで1つの大きなブームを起こした。

 そのユーザーから生まれたケータイ小説を、映像作品として再びユーザーへ還元する試みが始まっている。これまでのビジネスモデルは、ユーザーが生み出した作品を書籍として商品化するもので、商業コンテンツにすることでユーザーの創作意欲も掻き立ててきた。現在は作品をさらに映像化し、ケータイ向け動画配信サービス「魔法のiらんどTV」で配信することで、魔法のiらんどユーザーが直接映像作品を目にする機会を増やしている。

 魔法のiらんどTVには無料版と有料版があり、無料版では各作品の第1話のみを無料で配信する。無料で見られる作品は日替わりで変わり、“できるだけ無料で動画を見たい”というユーザー心理に配慮する一方、有料版では購入した作品を複数話まとめて視聴できるなど、有料ならではの利便性も訴求。コンテンツ課金へのスムーズな導線を敷いた。

 というのも、動画コンテンツは音楽コンテンツと違い、製作コストや話題性などの点で、シビアなビジネス展開が必要になるからだ。ケータイ小説を連続ドラマ化し、動画配信するという手法は、コストや話題性の壁をクリアしやすいという性質があるという。

 また、TVドラマ「恋空」のオリジナルキャストが出演するスピンオフ作品をケータイドラマとして制作。特にTV版では映像化されなかった原作エピソードを映像化するなど、ファン層の注目度をもう一度高める工夫をしているという。また、ドラマの放送終了と同時にケータイで配信するなど、ケータイならではのプロモーションも積極的に行っている。

 ケータイドラマに対するユーザーの声は、料金や配信品質、配信方法など、まだまだ多くの要望を抱えている。それだけ若い世代の女性に注目されているコンテンツであると、魔法のiらんど コンテンツ事業部 部長 草野亜紀夫氏は説明する。

photo メディアミックスによる宣伝効果とケータイコミュニティならではの“口コミ効果”を狙う

 魔法のiらんどでは、TV局からの協賛やスポンサードによるケータイドラマの制作や配信を推進し、ケータイドラマを再編集してDVDとしてパッケージ販売するなど、さらなるビジネス展開を模索している。

 ユーザーの創造性を引き出し、発信される作品をビジネスコンテンツとして昇華させるという同社の手法は、YouTubeやニコニコ動画などCGMの原点ともいえるだろう。ただ異なるのは、その“かじ取り”をユーザー任せにするのではなく、運営側が率先して牽引している点だ。

「気合いと覚悟」が必要なケータイ動画ビジネス――アクセルマーク

photo アクセルマーク 取締役 モバイル事業統括本部長 田島満氏>

 気合いと覚悟がない方には参入をお勧めしません――。アクセルマーク 取締役 モバイル事業統括本部長である田島満氏の講演は、こんなスライドから始まった。

 「これまで、音楽も電子書籍も“専用端末”を作ってはことごとく失敗してきた。ところがケータイにその機能が搭載されるや、一気に利用が広まった。つまり、ケータイの中だけで済ませたいというニーズが若い世代を中心に増えている。動画も、ケータイで手軽に見られることで、一気に普及するのではないか」というのが、田島氏の考えだ。

 しかし、これまでケータイに実装されてきた機能と違い、キャリアによる後押しの弱さが懸念されるという。音楽プレーヤーや電子書籍は、ケータイの基本機能としてキャリアやメーカーが率先して開発を行ってきたが、動画(特に長編動画)の再生アプリについては、サードパーティのコンテンツプロバイダーが中心に開発してきた。

 田島氏はその背景として、キャリアのトラフィック事情を挙げる。長編の動画配信が本格的にブームとなった時、現状でも苦しい通信トラフィックをさらに圧迫することになるからだ。田島氏はキャリアによる動画再生時間の制限を例として挙げ、「キャリアが我々の動画ビジネスを必ずしも後押ししてくれている訳ではない。着うたや電子書籍とは環境が違う」と断言する。

 こうしたハードルの高さはあるものの、動画に対するユーザーニーズは非常に高い。動画配信を行うのであればその注目度を生かし、広告モデルによる無料の動画配信サービスが最も適しているのではないかと、田島氏は提案する。ただし、映画作品などの著作権料を支払いつつ、無料で動画配信することになることや、また独自で映画並みの動画を製作する必要があることから、相当な資本力が必要とも補足した。

photo 有料動画配信を成功させるには絶対的な作品人気などの付加価値が必要だと田島氏は語る

 ここまで動画配信に対して“ダメ出し”とも言える否定的な見解を続けてきた田島氏だが、現実的な方法論として「ケータイでしか観られない特別な動画コンテンツの制作」と「ライブ中継のように違法コピーの配信が不可能なコンテンツの配信」という2つを挙げた。

 これらはトラフィックが集中するなどいくつかの課題は残るものの、目指している部分は“ケータイ専用の動画コンテンツの配信”に集約される。また有料動画配信の可能性として、ハリウッド映画のように確実な知名度や人気を誇る作品をラインアップすることが重要であるとも語った。

キーワードは「ケータイ独自のコンテンツ配信」

 魔法のiらんどとアクセルマークが主張する動画配信サービスの内容は、一見すると相反するもののように見える。一方はユーザーの創造性をビジネスへと昇華させるもの、一方は資本力によって高い付加価値のコンテンツを用意するというものだ。

 そのアプローチは異なるが、目指すテーマは同じといえる。それは、“ケータイ独自のコンテンツを生み出す”という点だ。ケータイでなければ見ることができない動画をキラーコンテンツにしなければ、ケータイの動画配信サービスは成り立ちにくい。

 また、ユーザーがケータイ動画を見るきっかけを用意することも重要だ。魔法のiらんどはTVドラマのサイドストーリーを配信することでユーザーを引き付け、アクセルマークはケータイ専用動画やアーティストのライブ中継といったコンテンツでそれを実現しようとしている。

 ケータイ向けの着うたや電子書籍では、ブームのけん引役として既存の作品を流用する手法が広く使われてきた。しかしケータイ向けの動画配信では、ブームを起こすためにケータイオリジナルのコンテンツ作りが求められている。

 ビジネスとしての動画配信を模索する各企業は今、これまでとは異なる方向性のケータイビジネスを考えなくてはいけないだろう。それは、ケータイが社会に浸透し、ユーザーがケータイを生活の一部として活用し始めたからこそ成り立つビジネスモデルなのかもしれない。

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