PHS事業者であるウィルコムにとって、「PHSを使わないスマートフォン」の存在は、事業上さまざまなインパクトがあることは想像に難くない。おそらく社内でも相当に議論が交わされたことだろう。それでもなおHYBRID W-ZERO3をリリースするのは、「ビジネスツールとして最強のスマートフォンを作りたかった」からだと開発を手がけた須永氏は話した。
「通信回線がPHSだけでは商品力が弱い、という点はもはや否定できません。ですから、3Gにも対応させた上で、他社のスマートフォンにはないメリットを用意することに注力しました。これによって、次のマーケットが広がっていけばと考えています」(須永氏)
こうした考えのもと、HYBRID W-ZERO3ではWindows Mobile 6.5標準のユーザーインタフェースの上に、「WILLCOM UI」と呼ぶソフトウェアを載せている。具体的には、アドレス帳、発着信履歴、設定メニュー、メニューランチャなどで、日本のケータイユーザーが慣れ親しんだ雰囲気や見た目、操作感をWindows Mobile 6.5 Professional上で実現するしかけを用意している。
例えば待受画面で決定キーを押すとメニューが立ち上がる。ケータイで言えば当たり前の動作だが、Windows Mobile機でこうした動作を実現している機種はほとんどない。同じく待受画面で右や左のキーを押すと、着信履歴や発信履歴を表示できる。アプリ利用中に終話キーを押すとToday画面に戻る、アドレス帳にケータイのように名前や電話番号、メールアドレスが登録できる、メールキーを押すとメールメニューが開くなど、これまでケータイに触れたことがある人なら、OSがWindows Mobileであることを意識せずにHYBRID W-ZERO3が使えるよう配慮した。
メールアプリも専用のものを用意。Outlook MobileのAPIを使っているため、実際にメールの送受信をするのはOutlook Mobileなのだが、ユーザーはOutlookを使っていることを意識することなく、アドレス帳からアドレスを選んで文字を入力し、メールが送れる。
一方、これまでWindow Mobileに慣れ親しんできたユーザーの使い勝手を悪くすることがないよう、Today画面用のプラグインなどはそのまま使えるようになっている。W+Infoも表示可能だ。
HYBRID W-ZERO3では、シリーズ伝統のQWERTYキーボードをあえて採用しなかったが、これにも理由がある。スマートフォンユーザーのすそ野を広げるために、前述のケータイ同様の操作性と合わせ、須永氏やシャープの開発陣が力を入れたのがこのダイヤルキーと十字キーである。
「QWERTYキーボードは、確かに文字の入力がしやすいシーンもあります。でも、一般の人にとっては、それだけで『なんだか難しそう』と思われてしまう側面もあります。また、日本では電車の中などで、一方の手でつり革を持ったり、荷物を持ったりしている状況で、片手でケータイを操作することも多いです。そんなときに操作しやすいのは、やはりテンキーだと考えました。WILLCOM 03で採用した2モードイルミネーションタッチも、押しにくいというご意見が多かったので、今回はクリック感のあるボタンにしています」(須永氏)
QWERTYキーがない点は賛否両論あろうが、すべての操作が片手操作で完結しているのは魅力と言えるだろう。日本語入力システムには、携帯電話で採用されているケータイShoin7をベースに、独自の拡張を施したケータイShoinを搭載している。予測変換の精度も高く、ダイヤルキーでの文字入力には相性がいい。
OSがWindows Mobile 6.5になったことで、アプリケーションストア「Windows Marketplace for Mobile」が利用できたり、データの保管・写真の共有・端末のロック/消去なども可能なMy Phoneが使えたりと、共通機能も大幅に強化されているが、HYBRID W-ZERO3では、独自にWindows Liveサービスと連係して動作する機能も搭載している。
Windows Liveキーをダイヤルキーの左上に搭載したのもそうした取り組みの1つ。一般的に、Windows Mobile機に搭載されている“Windowsの旗”を押すとToday画面が表示されるものだが、HYBRID W-ZERO3はいきなりWindows Liveの画面に接続する。試作機にはまだ実装されていなかったが、Windows Liveキーを押すとMessengerやMy Phoneなどの機能に簡単にアクセスできる画面にアクセスできるようになる。
通常、Windows Liveのサービスを利用するには、Live IDが必要だ。すでにIDを持っていれば問題はないが、まだLive IDを持っていない人は、新たにLive IDを作成してから登録する手間が発生してしまう。こうした面倒な作業や設定が必要ないよう、HYBRID W-ZERO3ではEメールの初期設定を行うと同時にLive IDも取得できる仕組みを用意する。
つまり、ウィルコムのEメールアドレスを登録すると、それと同じLive IDが取得できるわけだ。HYBRID W-ZERO3専用のドメインも用意してあるそうなので、すでにlive.jpドメインで取得されてしまっているアドレスも取れる。須永氏は「Windows Liveの各種サービスを、ほかのアプリなどと同様にシームレスに使っていただければ」と話した。
写真共有機能なども、内蔵コンテンツと同じように手軽に使える。アドレス帳やスケジュール、メモやドキュメントをMy Phoneにバックアップすることも可能。また、Windows Live Hotmailが最初から使えるのも魅力だ。通信事業者が提供しているメールサービスのメールボックス容量は、好きなだけメールを保存しておけるほど大きくはない。だがWindows Liveメールなら、急激に増えることがなければ必要なだけの容量が自動的に追加されていく。保存できるメールの数はけた違いだ。
取得したメールアドレスは、Outlook Mobileに自動的に設定されるため、ユーザーはウィルコムのEメールとHotmailのアドレスを簡単に切り替えてメールの送受信ができる。優先的に利用するアドレスを指定するだけでなく、メール作成時にどちらのアドレスを使うか毎回確認する設定もあるので、ケータイメールとPCメールを使い分けることも可能だ。
「最初からHotmailを使っていただけば、容量を気にすることなく自在にメールの送受信ができるようになります。こまめに削除したりする必要もありません。もちろんPCからもメールを見ることができます。スマートフォンユーザーには、こうした使い勝手を求める方も多いですから、マイクロソフトさんに無理を言って実現しました」(須永氏)
発表直後から早速話題になっているHYBRID W-ZERO3には、ウィルコムがスマートフォンにかける情熱と本気を感じた。多くの人があれこれ批評するのも、関心の高さの現れと言えるだろう。WILLCOM CORE 3Gでの通信速度は果たしてどれくらいなのか、リーズナブルな価格で購入・利用できるのか。2010年1月の料金体系の発表と製品の発売が今から待ち遠しい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.