iPhone 5を日常的に使い始めて、すぐに実感するのが「あらゆる場面でスムーズ」だということだ。さまざまなアプリの利用からWebブラウザやメールまで、iPhoneを使うあらゆるシーンがサクサクと快適に動く。
もちろん、CPUのパフォーマンスは向上している。iPhone 5が搭載する新開発のApple A6チップは、デュアルコア仕様だが、パフォーマンスは先代のA5チップより最大2倍の高速化を実現している。iOS 6自体がA6チップに最適化されているため、クアッドコアのAndroidスマートフォンよりも体感速度は速い。一方で、A6チップとiOS 6の両方で消費電力マネージメントの最適化が進んでおり、高速化をしてもバッテリー持続時間が減っていない点も高く評価できるだろう。
そして、今回は通信部分の進化による体感速度の向上も著しい。iPhone 5では、次世代モバイル通信である「LTE」と「5GHz帯の802.11nのWi-Fi」に新たに対応したが、この貢献が大きいのである。
まず、LTEを見てみよう。
今回、筆者が試したのはソフトバンクモバイル版のiPhone 5だったが、LTEエリアに入ると、(まだ利用者がいない状態ではあるが)20〜30Mbpsの通信速度を弾きだした。これだけ速いと、ブラウザでのWeb閲覧がサクサクと快適なのはもちろん、TwitterやFacebookで写真・動画のやりとりをするのも苦にならない。3Gが一般道だとすれば、LTEはまさに高速道路である。iPhone 5が搭載するA6チップの処理速度が、LTEの通信速度の速さによって“生かされる”という感じだ。
テスト | 下り速度 | 上り速度 |
---|---|---|
1回目 | 35.13Mbps | 9.66Mbps |
2回目 | 34.62Mbps | 9.71Mbps |
3回目 | 34.66Mbps | 9.81Mbps |
4回目 | 30.63Mbps | 9.78Mbps |
5回目 | 34.42Mbps | 9.90Mbps |
平均 | 33.892Mbps | 9.772Mbps |
iPhone 5で測定したLTEの通信速度。テスト時はiPhone 5発売前だったので他のユーザーがいなかったこともあり、かなり理想的な状況で通信ができている。今後、iPhone 5ユーザーが急増した時にどれだけ実効通信速度が維持できるかに期待である |
LTEエリアの拡充については、今後、KDDIとソフトバンクモバイルが競争を繰り広げることになるだろうが、LTEが利用できる状態での快適さは3Gとは比較にならない。LTEがどれだけ使えるかは、iPhone 5にとって重要なポイントである。
また、自宅や商業施設・オフィスといった屋内環境においては、iPhone 5のWi-Fiが、5GHz帯の802.11nに対応したのも大きなメリットだ。周知のとおり、5GHz帯は2.4GHz帯と違ってさまざまな無線機器で混み合っておらず、同じ802.11nを用いても安定して高速な通信ができる。実際、筆者宅では、2.4GHz帯と5GHz帯の両方でWi-Fiのネットワークを構築しているのだが、iPhone 5を後者につないだ方が実効速度が速く快適だった。iPhone 5を使うならば、Appleの「AirMac Expressベースステーション」などを用いて、自宅のWi-Fi環境も5GHz化しておくといいだろう。
刷新・変更の多いiPhone 5の中でも、とりわけ大きな変更となった部分が「Lightningコネクタ」の採用だろう。これまでのiPhoneは、2003年にiPodが採用した30ピンのDockコネクタを採用し続けていたが、今回それを一新。新たに8ピンに小型化したLightningコネクタを採用した。
筆者はこれまでのコラムでも何度か書いてきたが、iPhoneの強みは、「豊富なアプリ」「Dockに対応した周辺機器」「多種多様なケース」という3層からなるエコシステム(経済的な生態系)が強固に構築されていることだ。特にDockコネクタは、iPod時代を合わせれば10年近い歴史を持ち、充電用のケーブルから高級スピーカー、さらにはBMWやメルセデスベンツ、トヨタなどがクルマ連携のポートとして採用する由緒正しいものだ。これが刷新されるとなれば、その影響はかなり大きい。
DockコネクタからLightningコネクタへの転換は、スムーズに進むのだろうか。
ここでポイントになるのが、Lightningコネクタでは小型化と合わせて、すべての信号がデジタル化されたということだ。これまでオーディオ出力などで存在していたアナログ部分はなくなる一方で、デジタル部分の互換性はきちんと取れているのである。
その1つの実験として、今回BMWの車載マルチメディアシステム「iDrive」と、iPhone 5をLightningケーブルで接続してみた。
BMWは2010年からAppleのiPhone/iPadなどiOSデバイスを正式サポートしており、純正の車載マルチメディアシステムのiDriveから直接接続・コントロールできるようになっている。クルマ側にはUSBポートが設けられており、従来であれば、ここにDockケーブルを接続することでiPhoneと連携。iPhone内の音楽の再生はもちろん、カバーフローの表示や、クルマ側のiDriveコントローラーやステアリングスイッチからiPhone内のオーディオ機能を操作できる。
今回、筆者は2012年型のBMW純正車載マルチメディアシステムを搭載したBMW 1シリーズ/3シリーズのUSBポートにLightningケーブルをつなぎ、iPhone 5を接続。iDriveとiPhone 5との連携を試してみたところ、これまでのiPhoneと同様に問題なくオーディオ機能が利用できた。カバーフローの表示や、クルマ側のコントローラー/ステアリングスイッチでの操作も問題ない。BMWの車載マルチメディアシステムは、iPhoneなどとの接続をデジタル方式で行っているため、ケーブル部分がDockコネクタからLightningコネクタのものに変わっても影響を受けなかったようだ。デジタル部分については、DockコネクタとLightningコネクタの互換性はきちんと取れていると言えるだろう。
他方で、Dock対応の外部スピーカーやカーオーディオでは、デジタル信号ではなく、アナログ出力を利用しているものも少なくない。これらはLightningコネクタをそのまま利用することはできない。しかし、10月に発売される予定の「Lightning - 30ピンアダプタ」にはデジタル/アナログ変換のチップが搭載されており、これを用いれば従来のDock用周辺機器はほとんど使える模様だ。
このようにLightningコネクタの互換性は予想以上に高く、Lightning - 30ピンアダプタまで含めれば、Dockの周辺機器エコシステムはそのまま継承されそうである。また周辺機器メーカーのLightning対応は、スムーズに進みそうだ。
一方で、既存のiPhoneユーザーはこれまで貯めこんだDockコネクタの充電器や充電用ケーブルが使えなくなってしまうのは頭の痛いところだろう。Lightning - 30ピンアダプタを買えばいいのだが、前述のとおり、このアダプターはデジ/アナ変換チップを搭載するため、2800円(20センチのケーブル付きは3800円)とやや割高で、充電ケーブルの変換目的で使うにはちょっともったいない。出張や外出先でも充電をしたい人は、iPhone 5と合わせて予備のLightningケーブル(1880円)購入を検討してもいいだろう。
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