ガンホー森下氏とコロプラ柳澤氏が語る「スマホゲームの作り方」と「求める人材」SPAJAM2014

» 2014年07月07日 11時42分 公開
[田中聡,ITmedia]

 7月4日から6日にかけて開催されているスマートフォンアプリの競技会「スマートフォンアプリジャム2014」(SPAJAM2014)にて、審査員を務めるガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長CEOの森下一喜氏と、コロプラの柳澤康弘氏によるパネルディスカッションを実施。ガンホーは「パズル&ドラゴンズ」、コロプラは「魔法使いと黒猫のウィズ」がおなじみだが、こうしたスマホゲーム開発の舞台裏や、求める人材などについて、ざっくばらんに語り合った。

photo 司会進行は、アンドロイダー プロデューサーの野村絵里奈氏(左端)が務めた。アンドロイダーのアイドル社員「種ちゃん」も参加(右端)

2〜3週間で開発するゲームもある

 パネルディスカッションは、SPAJAMの出場者に募った質問をピックアップして両者が回答する形で進められた。

 まずは「1タイトルの開発期間はどれくらいか?」という質問から。森下氏は「開発期間を決めて開発をすることはない。短いと5〜6か月、1年半かかることもある」と回答。ちなみに、パズル&ドラゴンズは「企画を始めたのが2011年8月、リリースしたのが12年2月」で、6か月ほどで完成したそうだ。

 一方で、ガンホーでは「ゲームとしては完成されている状態でも、そこからのブラッシュアップ(レベルバランス、チューニング、UIの最適化)に重点を置いている」(森下氏)。「Appleに申請を入れた後のリリースの2週間前に、UIを変えたこともある。デザイナーからめちゃくちゃ怒られたけど……。『何で今言うんですか?』と聞かれて『今思ったから』と(苦笑)。期日を決めないで、納得するまでやってリリースすることを念頭に置いている」と妥協しない姿勢を語った。

 コロプラも同様のスタンスで開発を進めており、「リリース直前の、ほぼ形になっている状況の中で、ゲーム性をガラッと変えたタイトルもある」と柳澤氏は話す。森下氏も「うちはほとんどのタイトルが、もとの企画から最終形は全然違う形になっている」と話す。「自分の頭の中でどうしてもアイデアが出てこないので、チームのメンバーに開発中止することを話そうと思って……席に座った瞬間に『こうした方が面白くなるんじゃないか?』と気がついて、1週間くらいでプログラマーに直してもらったのが、『ケリ姫スイーツ』だった」というエピソードを紹介。同タイトルは当初「ボツにしようと思っていた」そうだ。

 柳澤氏によると、スマートフォン向けゲームに特化しているコロプラの開発期間は半年〜1年のものが多いが、2〜3人のスタッフが2〜3週間、長くても1か月くらいで手がけるカジュアルなゲームも多いという。森下氏は「(開発期間が)長ければいいという問題でもない。ひらめきと、そのときのチームのモチベーションにもよってくる」と話した。

企画の決定権は森下氏1人にある

photo ガンホーの森下氏

 続いて挙がった質問は「ゲームの企画は、誰がどうやって作っているのか?」。森下氏は「コンセプトはたいがい僕が出している」と回答。「例えば、アクションゲームを作るときに、アクションはパンチやキック、刀ばかりじゃないし、ジャンプするだけでもない。もっとカジュアルで、スマートフォンのUIを生かしたアプリを作ろうと思いついたのが『パズドラ』だった」と明かす。

 また森下氏は「ぶっちゃけパズルゲームはあまり好きな方でない」という。「(ゲームは)アクションの要素が重要で、ユーザーのスキル、修練度、ドロップが落ちてくる(システム)、運の要素を兼ね備えた形で、プロデューサーと考えてパズドラを作っていった」。企画の流れは、コアになるお題を投げて、合っている人や共感してもらえる人に話しかけてチームを作っていくそうで、「開発本部には部も課もない。しょっちゅう人がプロジェクトごとに異動している」(森下氏)。

 企画から開発に進めるうえでの決定は、ガンホーはすべて森下氏が行っている。「こう言うと独裁者のように聞こえるかもしれないが(苦笑)、企画は僕1人が決定している。会社は大きくなると、部長とか本部長とかに上がっていくけど、そういうのが大嫌いなので。並行して10タイトルを見たり、1日に5タイトルのミーティングをしたりすることもあるので、出張にも行けない(笑)」

 コロプラでは「企画書や仕様書をがっつり作らず、早いタイミングで動くものを作ること、手触りがいいか」(柳澤氏)を重視する。その後、社内でフィードバックを受け、社長の馬場氏が最終リリースをチェックしているという。「馬場は『これ、面白い?』と聞く。馬場自体が判断するというより、作った人たちの顔を見れば分かる。どこか面白くないなと思って作っているとばれてしまうので」(柳澤氏)

ゲームをプレイしている様子を録画する

photo コロプラの柳澤氏

 ゲームの企画から携わっている森下氏の場合は「自分が面白いと思ったもの」が判断基準の1つになっているが、周囲の反応も念入りに見ている。その際に単純に意見を聞くのではなく、ゲームをしている様子を録画してチェックするのだという。

 「例えば女子を使ってテストプレイさせたときに、それを録画して、その子がちゃんとチュートリアルをこなして進めているか、面白いと思える指の動きをしているかを見ている。『何かこれを押せばいいんでしょ』という動きだと、やらされている感が出る。昔は自分の子どもを使ってテストさせていた。まず、子どもの前でプレイして、子どもが引かれているか。子どもがやっているのを後ろから撮って、その動画を見て修正をすることもある。間を空けて、子どもが『あのゲームやらせて』と言ってくるかも重視している」

 コロプラでは、社内β版を配布して、数百人にプレイしてもらっている。「普段ゲームをしない財務や総務の人も含めてやってもらい、その結果をフィードバックしている。社内βなので、リセットされることが分かっていても、土日にやり込んでしまうような反応のいいゲームは、ヒットすることが多い」(柳澤氏)

 「でも(社内の意見を聞いて)イラっとすることもあるんじゃない?」と森下氏が聞くと「イラッとしないことが大事」と柳澤氏。「コロプラでは素直であることを重視している。文句を言うことも含めて事実なので。至らないところがあったから、そういう感想を持つ人がいるわけで、そこで改善できるのが結果を残せる人」(柳澤氏)

 森下氏は同意しつつ「バランスが大切だと思う」と話す。「開発していく上で、素直で謙虚な気持ちを大切にする反面、徹底的に我が道を行く考え方、両側面のバランスがすごく大切かなと思う。そこは分かってもらえないかもしれないけど、ここは肝、譲れないという持ち味もある。でも素直にもなるという“二重人格的構造”。両方のバランスをうまく取れていればいいんじゃないかと思う」

世界観よりもゲームシステムを先に作る

 続いての質問は「企画・仕様をどれくらい作り込んでから開発に着手するのか」。

 森下氏は「企画といっても、概要自体は1枚の紙にまとまるレベルで、重視しているのは、ゲーム自体が頭の中でビジュアルとしてちゃんと動いているか」と回答。世界観やストーリーよりも、まずはゲームシステムから着手していく。コロプラも同様で、例えばクイズゲームなら、「いかに手触りよくクイズに解答できるか」を重視するとのこと。

社内イベントや部活動で絆を深める

 出場者には若い学生も多いということで、「人を採用するとき、何を重視しているか? どういう人を採用したいか?」という質問も出た。

 森下氏は「変なやつだな、ひと癖ふた癖ありそうだな、でもなんかこいつ面白そうだなというところを見ている」という。

 一方で柳澤氏は「すごく変な人は求めていないかもしれない」と回答。「ゲームはチームプレイだと思っていて、1人だけですべてが作れるわけではない。ゲームが好きで、素直さを持っていること。自分が望まない(ゲームがヒットしない)ことが起きても、いったん受け止めることができるかを重視している」

 個性的なスタッフをまとめていくのは大変そうだが、ガンホーでは「皆で協力して助け合うことが重要。裏切ることは許されない、それが一番の悪である」という考えを社内に浸透させているという。飲みに行ったり社内イベントに参加したりすることでも、絆を深めているようだ。「全社員が踊るサンバ部というのがある。辛いけど、やってみると、いろいろな部署やプロジェクトの人間と1つのことを達成できるので、社内の雰囲気がよくなったという副産物がある」と森下氏は振り返る。

 コロプラでは仮面舞踏会、夜中にひたすら歩くナイトハイク部、リアル脱出ゲーム部、ディズニーランドに皆で行くウォルト部といったユニークな部活動も行っている。柳澤氏はリアル脱出ゲーム部に所属しているそうだ。

 最後は、森下氏と柳澤氏が今ハマっているゲームの話で盛り上がり、スマホゲームの普及で変わってきたことに触れて幕を閉じた。

 「スマートフォンで最も大きかったのが、今までゲームをそれほどしなかった人が、ゲームに触れる機会が増えたこと。今までとは作り方や考え方を変えないといけないと思っている。例えばパズドラのメタルドラゴンからは、経験値を多くもらえる。僕たちはドラクエ世代なので、メタルといったら経験値がいっぱいもらえると分かるけど、ドラクエをやっていない人は、その理由が分からない。こういうところは気を付けないといけない」(森下氏)

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