ベネッセ・データ流出事件で想定される被害小寺信良「ケータイの力学」

» 2014年07月22日 13時50分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 本来ならば前回に引き続き、ベネッセの「チャレンジタッチ」の実際をお伝えすべきところではあるのだが、その間すでにご承知のように、大規模な個人情報流出事件が起こった。事件と教育コンテンツの中身は別の話なのだが、おそらくそこまで割り切って記事を読んでいただける方は少ないと思われる。話が中途半端になってしまって申し訳ないが、今の現状でチャレンジタッチの話を続けても仕方がないだろう。

 また機会があれば続きをお伝えできるかもしれないが、今回はこれもひとつの機会だと考え、事件に巻き込まれた側の立場から、今後考えられる家庭への影響を考えてみたい。

 まず今回の事件で流出したデータは、以下のものである。

  • 郵便番号
  • 保護者氏名(漢字・ふりがな)
  • 子供氏名(漢字・ふりがな)
  • 住所
  • 電話番号
  • 子供の生年月日
  • 子供の性別

 流出したサービスとしては、同社の人気コンテンツである「こどもちゃれんじ」や各学年向け「進研ゼミ」など、26にも及ぶ。数としては最大で約2070万件漏洩の可能性があるとされているが、1件につき親子のデータが含まれる点には留意すべきだろう。もっともサービスの中には、子供が関係ないものもある。

 複数サービスの情報なので、重複がある可能性も捨てきれないが、ベネッセでは各サービスごとにバラバラだったデータを統合化している最中だったという事なので、当然「名寄せ」は行われていたはずだ。名寄せとは、各データベースに含まれる同一人物や同一世帯を統合していく作業である。これによりデータベースはコンパクトになり、各個人のデータはより詳細になっていく。

 名寄せの結果が2070万件ということであれば、これを世帯数で考えると、日本の世帯数はだいたい6000万弱なので、実に日本の世帯3件に1件の割合で情報が漏洩した可能性がある。クレジットカードなどの金融情報は含まれていないので、ダイレクトに詐欺などの被害が発生するわけではない。だが子供の情報が抜かれたのは、かなり痛い。

 日本はまだまだ学歴社会から脱却できたとは言い切れず、高校、大学受験は子供たちにとっては大きなハードルである。塾にも予備校にも行かずに目標の学校に入れる子は少ないだろう。

 子供の生年月日が流出したということは、当然受験する年が算出できるということである。その時期になれば、なんらかの教育機関からこのデータを使ったダイレクトメールなどの勧誘が来るのは、避けられないだろう。

 手紙などは捨ててしまえば終わりだが、面倒なのは住所と電話番号が知られていることだ。手紙やEメールと違って、訪問営業や電話セールスは、必ず対人となる。筆者も詐欺まがいのしつこい塾の勧誘を相手にしたことがあるが、情報が漏れた方々は、これからお子さんの受験が近づくにつれて、相当イヤな思いをすることだろう。

犯罪に利用される可能性

 流出情報としてマークされたこのデータは、できる限り回収するのが望ましい。だが紙の名簿じゃあるまいし、すべてのデータが綺麗に回収できるはずがない。そしてそのデータは、アンダーグラウンドで流通していく事になるだろう。

 今はまだ多くの人がこのデータの行く末に注目しているので、すぐ悪用はされないだろうが、ほとぼりが冷めた頃にまず懸念されるのは、ハガキによる架空請求である。

 ハガキの架空請求が大流行したのは、今からちょうど10年前の2004年の事である。消費者センターに寄せられる相談のうち、実に35%を占める年間68万件が、ハガキによる架空請求事件であった。現在はそれがメールに変わってきたわけだが、ハガキで来るというのは当時年頃の子供が居なかった保護者にしてみれば初めての経験だろうから、引っかかる可能性は高いかもしれない。

 これはアダルトサイトなどのサービス利用料金が未納のため、裁判を起こすなどとして、利用料を振り込ませる手口である。これに子供の名前がフルネームで、しかもふりがなまでふって届くことになるわけだから、信じてしまう。

 当時これに多くひっかかったのは、年頃の息子を持つお母さん方だ。もしかしたらそういうこともあるかもしれないと勝手に勘違いし、誰にも相談せずにそっと払ってしまう。金額も数万円程度と、やりくりすれば払えなくもない金額であることも大きい。

 当時は住所しか分からない相手に手当たり次第に送られてきていたが、今回の流出では電話番号も知られている。ハガキが届いた頃に電話で脅されるという合わせ技で来たら、お母さん方は震え上がってしまうだろう。

 架空請求ハガキの文例とポイントは、名古屋市消費生活センターの架空請求のページがよくまとまっているので、もうお忘れの方、あるいは見たことがないという方は、一応覚悟として目を通して置いた方がいいだろう。ご覧になったら、この情報を配偶者にも伝えておいて頂きたい。

 筆者が考えつくのはこの程度だが、今後どのような例が出てくるか分からない。漏えいが疑われるご家庭では、今後も定期的に警察や消費生活センターなどからの情報に注意していただきたい。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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