テリー・ゴウ鴻海会長がシャープ本社に乗り込み7000億円の直談判――決断できないシャープは2月末までにどちらを選ぶのか:石川温のスマホ業界新聞

» 2016年02月12日 10時00分 公開
[石川温]
「石川温のスマホ業界新聞」

 経営再建中のシャープ本社に、2月5日、鴻海精密工業のテリー・ゴウ会長が乗り込んで、資金援助に関する交渉を8時間以上に渡って行ったという。

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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2016年2月6日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額540円)の申し込みはこちらから。


 シャープは前日に決算会見を実施し、「産業革新機構と鴻海精密工業の再建案を検討し、どちらかにするかを1ヶ月の間に結論を出す。ただし、鴻海精密工業にリソースを割いている」としていたが、それを聞いたテリー・ゴウ会長が夕方5時に台湾を飛び立って来日。翌日朝から最終的なサインをしようとシャープに乗り込んだようだ。

 5日夕方、テリー・ゴウ会長は「優先交渉権を得た」と発表したが、その直後に、シャープはその事実を否定している。いずれにしても、シャープ、産業革新機構、鴻海精密工業で水面下の探り合いが続いているようだ。

 実際にシャープの決算会見に取材にいったが、高橋興三社長の語り口を見ていると「自分で決められないんだな」という印象を持った。院政を行う、過去の社長たちなのかはわからないが、とにかく自分だけ決められず、ずるずると引き延ばしている経営判断が、いまのシャープの惨状につながっているようにも思えた。

 個人的には産業革新機構の再建案で、東芝や日立などの国内メーカーがくっついても、弱者共同体で終わってしまい、結局はすべてが壊滅してしまうような気がしてならない。

 一説には富士通の携帯電話事業部門も統合するという話もあるようだ。白物家電や携帯電話部門が一緒になったところで、シナジーは生まれず、リストラは避けられない。結局、優秀な人材が海外メーカーに引き抜かれるのであれば、産業革新機構が懸念する「技術流出」するのと変わらないだろう。

 シャープの人たちにとっては嫌かもしれないが、7000億円という値付けをしてくれた鴻海精密工業と一緒になった方が、企画力を生かしてくれるだけでなく、世界規模で戦える舞台が整うだけに、メリットは大きいかもしれない。

 過去を振り返ってみると、NECのパソコン部隊がレノボに買収されたことで、シェアはレノボが稼いでくれ、部材の調達力が上がった。

 一方で、NECの人たちは自分たちが作りたい超軽量ノートパソコンの開発に集中できるという恵まれた環境になったようだ。IBMがノートパソコン部門をレノボに売却したことで、これまでシンクパッドを作っていた人たちも、活躍の場が広がった。

 日本の開発者たちが、海外資本に入ることで、やりたいことをやれるようになったのだ。

 もちろん、その背後には数え切れない程、リストラで会社を去った人たちがいる。ただ、同じ日本メーカー同士がくっつき、小さな市場を開拓しても先行きが暗いのは明らかだ。

 仮に産業革新機構のもとで日本メーカーがくっついても、海外市場に進出できるかといえばかなり未知数だ。それならば、鴻海精密工業と組んで、世界規模で戦った方が楽しいだろう。

 ただ、ひとつ思うのは、鴻海精密工業も「ものづくり」の会社であるという点だ。日本メーカーが強かった時代は「いいものづくり」だけをしていれば評価されていた。 

 鴻海精密工業がこれほど成長できたのは「安くものづくり」ができるからだ。

 シャープを傘下に収め、技術や企画力を手にすることで、これからの鴻海精密工業は「安くていいものづくり」ができるようになるのかもしれない。少なくとも、テリー・ゴウ会長の狙いはそこにある。

 しかし、今世界で求められているのは、アップルやグーグルのような「しくみづくり」に他ならない。

 アップルがiPhoneというビジネスモデル、いわゆるしくみをつくった。シャープは液晶パネルをアップルに納入したが、LGやサムスンなどと常に戦う必要があった。

 鴻海精密工業は、iPhoneを製造するというポジションを得たが、いまではライバルメーカーも増えている。彼らに勝とうとシャープを傘下に収める気だが、今後も厳しい環境は変わらないだろう。 

 アップルやグーグルのように「しくみ」をつくり、発注する立場にならないと、生き残っていくのは難しい。鴻海精密工業がシャープを買収したところで「しくみづくり」をできるようになるかといえば、かなり疑問だ。

 鴻海精密工業は、将来的には「巨大な日本メーカー」のような存在となり「昔はものづくりで強かった」と言われるだけのメーカーになる可能性もありそうだ。

 ちなみにテリー・ゴウ会長は「40歳以下はリストラしない」と明言しているようだが、自分の知る限り、シャープの人たちは40代以上に、いまでも優秀な人が多いように思える。シャープの成功体験を知り、「シャープらしさ」を実現できるのは40代以上のような気がする。

 テリー・ゴウ会長が40歳以上をリストラするようだと、シャープを買っても失敗し、意味がなくなってくるように思える。

© DWANGO Co., Ltd.

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