IIJが「フルMVNO」で目指す世界 MVNOの正常進化ではなく、ビジネスモデルが変わるMVNOに聞く(1/4 ページ)

» 2018年03月29日 14時43分 公開
[石野純也ITmedia]

 インターネットイニシアティブ(IIJ)が、3月15日に加入者管理機能(HSS/HLR)を活用したフルMVNOのサービスを開始した。まずは法人向けに、SIMカードの「ライフサイクル管理」を提供。サスペンド時の料金は、わずか月額30円(税別、以下同)と割安になるのが特徴だ。これによって、一時的かつ定期的にデータ通信を利用するような機器に、通信機能やSIMカードを組み込みやすくなった。

IIJmioフルMVNO 従来のライトMVNOとフルMVNOの違い

 フルMVNOの特徴を生かしたサービスは、今後も順次投入される。直近では、訪日外国人旅行者向けのプリペイドSIM「Japan Travel SIM」のフルMVNO版が4月2日に発売される他、2018年度上期には法人向けの国際ローミングサービスや、IoTサービスも発表される予定だ。さらに、個人向けMVNOサービスのIIJmioにも、フルMVNOのネットワークを使った「タイプI」(仮称)が追加される。

 これまで、「格安SIM」「格安スマホ」と呼ばれていたライトMVNOから大きくビジネスの幅を広げつつあるIIJだが、フルMVNOで目指しているのはどういった世界観なのか。フルMVNO化を決めた経緯や、今後の展望などをIIJに聞いた。インタビューには、MVNO事業部 MVNOセールス・プロモーション部 事業統括室 担当部長の佐々木太志氏、同事業部 MVNO技術開発部 MVNOサービス開発課長の阪本裕介氏、サービスプロダクト事業部 第三営業部ネットワーク営業課 課長の竹内信雅氏、広報部 技術広報担当課長の堂前清隆氏の4人が答えた。

「フルMVNO」になることを決めたきっかけ

IIJmioフルMVNO キャリアとの協議を主に担当した佐々木氏

―― まずは、IIJがフルMVNO化を決めたきっかけや経緯を、改めて振り返っていただけないでしょうか。

佐々木氏 もともと、フルMVNOまで自由度を高めると、MVNOにはこんなことができるのではないかということは、漠然と考えていました。レイヤー2接続を2009年にローンチしたときのことです。それが完了した時点で、次のステップとして、もう少し広い範囲でシグナリングの部分まで見てという話になり、具体的な検討に上がったのが、2011〜12年ごろです。

 そのころは、日本通信さんもHSS/HLRの開放をさかんに言われていましたが、ユースケースとしてどんなものが考えられるのか、キャリアとしてどうやっていくのかをイメージしていましたが、それが具体的になったのが2014年ごろです。2014年にはMobile World Congressにも行き、IIJとして海外での情報収集を広げていこうとしていました。同時にフランスで開催されたMVNO World Congressというイベントには、私が行き、実際に現地に集まっている経営者の方やエンジニアの方とディスカッションさせていただきました。

 そこでは、フルMVNOというビジネスモデルが、さも当然のように展開されているのを目の当たりにしています。そういう中で、IIJとしてもフルMVNOの検討を進めた方がいいとなったのが、先ほど申し上げた2014年の話になります。その年の夏ごろからは、ドコモさんと具体的な協議に入っています。

―― 具体的な協議からサービスインまで、およそ3年半かかっています。なかなか長いですね。

佐々木氏 協議が妥結したのが一昨年(2016年)の8月で、そのときに記者発表をしています。あの前後で妥結し、オフィシャルに申し込みをするフェーズを経て、今に至ります。大体、協議自体に2年間、そこから実際にドコモさんとわれわれでサービスを構築するのに1年半かかっています。

―― 協議の方が長かったんですね。

佐々木氏 決めなければいけないことが、かなり多岐にわたっていたからです。最初は、IIJとして何をやりたいのかというところから始まりました。IIJがやりたいことが、今のMVNOのスキームでできれば、お互いにとってハッピーだからです。フルMVNOはあくまでも手段にすぎないので、フルMVNOで何をやりたいのかというところを、ビジネス面ですり合わせしていきました。

―― 確かに、やろうと思っていたことが今のMVNOでもできれば、ドコモにとってもわざわざ網改造をする必要がなくなりますし、IIJにとってはお金がかかりません。

佐々木氏 もちろんそうです。現実のやり方はいろいろあるというお話をさせていただきました。その中で、こういうユースケースはやはりIIJが自前でHSS/HLRを持たないといけない、ドコモとしても(今の仕組みでは)対応できないというところにフォーカスするのに、最初の数カ月間を要しています。

―― どういったユースケースが決め手になったのでしょうか。

佐々木氏 フルMVNOでは、大きく3つのことを言っています。1つが自前のSIMの発行、もう1つがライフサイクル管理、それから、他の(ドコモ以外の)ネットワークとの接続です。

 SIMカードの発行は、ライトMVNOでも諸外国ではやっている話ですが、ライフサイクル管理の話は、今だとIoTならではのユースケースで、製品の出荷前からSIMカードを組み込むことができます。これは、サスペンド時の料金という形で、サービスに結実しています。3つ目の他のネットワークとの接続については、LPWAライクなテクノロジーとも接続していくということを、かなり初期の段階からドコモさんとお話しています。

どのようにネットワークを構築していったのか

―― それが終わってから、具体的にネットワークを作っていったわけですね。

佐々木氏 それが終わると、パートナーになっていただけるベンダーさんを決めるフェーズに入りました。もちろん、その前には、ベンダーさんの装置が果たしてわれわれの要求を満たせるのかを確認する作業もあります。そのためには、要求も見えていなければなりません。ドコモさんのネットワークのパラメーターを開示してもらったり、接続がどう確立するのかのシーケンスをやり取りしたりで、3カ月以上はかかっています。それを元に、こういうパラメーターで、こういう通信ができることがマストという条件を出し、ベンダーさんにお声がけさせていただきました。

 携帯電話のサービスは、24時間365日稼働するもので、どれだけ高い信頼性で運用するのかという点や、ネットワークの将来性の議論などをしました。それと合わせて、ハードウェアのアップデートサイクルなどを細かに詰めていくという作業をして、これにも数カ月かかっています。

―― HSS/HLRの開放には、ドコモ側も網改造が必要だったというお話でしたが、どういったところを変更しなければいけなかったのでしょうか。基地局ではないですよね。

佐々木氏 もともとドコモさんのネットワークはフルMVNOの受け入れを全く想定していないものになっています。他社のHSS/HLRを置こうとすると、間にゲートウェイを置かなければなりません。例えば、われわれが何かされても、ドコモさんが影響を受けないことは担保しなければならないので、ゲートウェイを置くというのは重要な観点です。

 もう1つはSIMの管理のところです。われわれはSIMカードの管理機能をHSS/HLRで持っていますが、ドコモさんがそれを無条件で受け入れるわけではありません。このSIMを今日から使う、終わるという開け閉めのところは、ドコモさんのネットワーク管理とは別にやっていただいています。あとのオン/オフのコントロールはわれわれでやっていますが、その部分ではドコモさんのバックオフィスのシステムに機能拡張が入っています。

―― 基地局側には、特に何もしてないのでしょうか。

佐々木氏 少なくとも、44003(IIJの事業者コード)をドコモの基地局から吹いていないことは承知しています(笑)。

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