「2年に1度なんて買い替えない時代」のスマートフォン選び本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

» 2019年03月06日 08時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

「長期使用」を前提とした商品企画、ブランディング

 冒頭で書いたNuAns NEO [Reloaded]の場合、最も手間(=コスト)がかかったのは、長期的にセキュリティパッチや最新OSへの対応を保証していくことだった。単純にパッチを適用したり、最新OSの端末へのフィッティングを行ったりすればいいわけではなく、さまざまなテストがクリアできるよう、調整を図り、認証を受けねばならない。

 メーカーであるトリニティは、あらかじめ開発コストにアップデート予算を積んでおいたため、当時理想としていたペースはなかなか実現できなかったものの、最終的にはOreoまで3世代のAndroidを動かすことができた。

 しかし3年、4年とさかのぼって新バージョンを提供し続けることは現実的に難しい。メーカーの数も多く、ハードウェアが長期間使われるようになるほど、古いバージョンのAndroid端末は増えていき、OSバージョン細分化の問題は悪化していく。

 一方でiOSはというと、大多数の稼働端末が最新バージョンで動いている。これはアプリ開発者にとっての負担を軽減する意味でも重要だが、端末が長期利用されるという視点に立った場合にも大きな要素になってくる。

 振り返ればAppleは、このところ製品の長期使用を促す戦略を進めている。昨年の「iOS 12」における大きなテーマはパフォーマンスが低い端末における応答性を高めることだった。サポートする最も古い端末であるiPhone 5sの場合、体感できるほどではないが、iPhone 6/6sクラスであれば「改善した」と思えるものに仕上がっている。

 こうしたOS側の対応に加え、劣化した内蔵バッテリーの交換料金値下げもあって、iPhoneの買い替えサイクルは伸びているとApple自身も認めている。当然ながら、スマートフォン市場が十分に成熟した現在、こうしたトレンドは端末の売り上げに対してはマイナスに働く。

 しかし、一方で長期的な使用をサポートすることはブランド、あるいは商品そのものの価値を高めることにもつながる。

 例えば、中古製品の流通が確立されている自動車の場合、品質・ブランド力の高い製品、特に長期的な商品価値を維持しやすいクルマほど中古車の値落ち率が低く、新車を買う際の額面上の価格が高くとも手を出しやすい。

 そうした狙いがあるのだろうか。

 スマートフォン、とりわけiPhoneの中古流通は活発だが、さらにApple自身が端末を買い取る下取りサービスに昨年、「Apple GiveBack」という名称を付けてより強く訴求するようになった。中古製品としての価値がない場合でも、分解してレアメタルなどの希少資源を取り出してリサイクルする仕組みもこの中には含まれている。

GiveBack 「Apple GiveBack」のWebページ

 「長期使用でも快適性を損ねないiPhone」という印象を与えつつ、先進国ではリサイクルや下取りで新製品が欲しい消費者へのニーズを満たし、新興国市場では下取りしたiPhoneを流通させてiPhoneのユーザーコミュニティー基盤を強化する。

 あるいは昨年、iPhone新モデルの中で最も低価格な製品として発表された「iPhone XR」は、これら一連の流れを意識したものなのかもしれない。

端末が長寿命化する中でのお得な製品選びとは?

 iPhone XRはドルベースでみると、「iPhone 8」と「iPhone 8 Plus」の中間の価格で、画面サイズを考えれば妥当な価格設定だった(iPhone 8よりは高価であり安価とは言い難いが)。Appleはいわゆる廉価版は作らず、古い世代の製品を低価格化するという戦略を続けてきた。iPhone XRも廉価版ではなく、あくまで最新ラインアップの一つであり、2017年のときと同じく、使われているSoCは上位モデルと同じだ(搭載メモリは少ない)。

 これも端末の買い替えサイクルの長期化を意識したもの(経年による陳腐化を避けることでブランド力を保つ)と思うのは考えすぎだろうか。これまでのOS更新の実績や比較的高値が付く下取りプログラムを考えた場合、iPhoneを買うならば廉価な「iPhone 7」などではなく、最新プロセッサ搭載機の方が最終的には「お得」になってくる。

iPhone XR 「iPhone XR」は価格を抑えつつ、SoCは上位のiPhone XSと同じ「A12 Bionic」を搭載する

 Android端末の場合、最新OSへのアップデートを長期間期待するには、さらなる改革が必要だろう。しかし、SoCと端末を開発する企業が同じであれば、戦略的に端末買い替えの長期化に対して手を打つことができることも考えられる。

 このところ米中貿易戦争の中で矢面に立たされているHuaweiだが、自社開発のSoCロードマップとAndroidの独自開発部分を同期させれば、Appleと同様の体制を取れる可能性もある。

 あるいは、性能全体の底上げにより、ミドルクラス以下のSoCでも十分なパフォーマンスがある……と思うのであれば、あえて購入しやすい価格帯の(しかしカメラ機能などは充実している)端末に目を向け、これまで通りの2年に1度の新調を楽しむのもいいかもしれない。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年