それはまさに青天のへきれきだった。Appleが、3月25日(現地時間)に米カリフォルニア州で開催される発表会に先立ち、18日に「iPad Air(第3世代)」と「iPad mini(第5世代)」の2機種を発表した。19日にはパフォーマンスが2倍に上ったとうたう「iMac」を発表。これで終わらず、20日はバッテリー駆動時間やQiに対応した、第2世代の「AirPods」を発表し、話題を集めた。
発表会の1週間前に、3日連続で新製品を発表するのは異例の展開。ここからは、サービス事業に収益構造をシフトさせたいAppleの思惑も見え隠れする。ここでは、刷新されたiPadのラインアップを振り返るとともに、発表会の前の連続発表にどのような意味があるのかを解説する。
新しく加わったiPad Airは、10.5型のディスプレイを搭載したタブレットだ。Appleは2018年11月に発売した11型と12.9型の「iPad Pro」でホームボタンを廃し、iPhone Xシリーズと同様のFace IDを採用したが、iPad Airではそれが見送られている。デザイン的には、既存モデルとして併売されてきた10.5型のiPad Proをマイナーチェンジして、Airのブランドを冠したかのようにも見える。
実際、iPad Airは、Proのブランドこそないが、背面に「Smart Connector」を搭載しており、ディスプレイ保護用のケースを兼ねる「Smart Keyboard」も装着できる。Smart Keyboardは、10.5型のiPad Proと共通のものだ。一方で、背面を見ると、カメラの出っ張りがなくなり、背面がフラットになっていることが分かる。あえてカメラのスペックを12メガピクセルから8メガピクセルへと落とし、Airとしてのデザインを優先させたことがうかがえる。
後述するiPad miniと同様、第1世代ながらApple Pencilにも対応。プロセッサはiPhone XS、XS Max、XRと同じ「A12 Bionic」で、ニューラルエンジンも搭載する。8コアのCPUと7コアのGPUを持つ、現行iPad Proの「A12X Bionic」には及ばないが、最新のiPhoneと同じと考えれば、十分なパフォーマンスといえる。iPad Proよりは遅くなるかもしれないが、画像や動画の処理にも十分耐えるスペックだ。
ただし、Apple Pencilは第1世代で、iPad Proに搭載されたUSB Type-Cも見送られており、充電や周辺機器との接続はLightningで行う。先に挙げたFace IDに対応しないことに加え、こうした点がiPad Proと呼ばれなくなった要因といえる。その分、価格はiPad Proより抑えられており、最小構成の64GB版、Wi-Fiモデルで5万4800円(税別、以下同)から。2018年3月に発売されたiPad(第6世代)よりは高いが、その分、スペックを備えたいわば“セミプロ”仕様のiPadで、iPadとiPad Proの間を埋める製品といえる。
もう1つのiPad miniは、iPad mini 4以来、約4年ぶりの新型だ。とはいえ、こちらもデザインは踏襲しており、iPadやiPad Airと共通感を持たせている。7.9型とタブレットとしてはコンパクトで、重量もWi-Fiモデルが300.5gと、片手で持ってもあまり負担にならない。しかも新型のiPad miniはApple Pencilに対応しているため、移動中などにサッと取り出してメモを取るのにも向いている。中身はiPad Airとほぼ同じで、プロセッサはA12 Bionic。Wi-Fiモデルで4万5800円からと、スペックを考えるとリーズナブルだ。
iPad AirとiPad miniを加えたことで、第6世代のiPadと合わせて“松竹梅”のラインアップが出来上がった。その上のiPad Proがプロ用としての立ち位置を明確にする中、一般向けのiPadのラインアップを広げた格好だ。iPadは、最高で年間7000万台程度の出荷台数を記録していたが、2014年ごろから徐々に減少に転じ、2016年度(2015年10月から2016年9月)は通期で4559万台に。直近の2018年度(2017年10月から2018年9月)は通期で4353万5000台に落ち込んでいた。
2018年3月には、低価格路線で教育市場にも焦点を当てた第6世代のiPadを投入したが、ラインアップ全体を見ると、高価格帯のiPad Proが中心になっていた印象もある。iPad AirとiPad miniを加え、低〜中価格帯のiPadを整理するとともに、ラインアップの厚みを強化したと見ていいだろう。
第1世代と第2世代が混在しているものの、全ての製品にApple Pencilが対応した結果、iPadの売りが「クリエイティビティ」にあることも明確になった。第6世代のiPadを発表した際には、Apple Pencilに再び光を当て、デジタルブックに絵を入れたり、文章に注釈を入れたりといった活用方法を提案していたが、こうした応用ができるのも、豊富なアプリがそろうiPadならでは。機能性や利用シーンの広さを訴求することで、Androidタブレットとの単純な価格競争に巻き込まれないのもiPadの強みといえる。
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