問題発生時は「事後対応」を基本に――データ通信の「ゼロレーティング」 ルール作りが本格化(3/4 ページ)

» 2019年07月14日 07時00分 公開
[井上翔ITmedia]

課題3:ゼロレーティングの「透明性」「正確性」確保、広告表示

 大きく、ゼロレーティングサービスを提供する上での課題は「通信の秘密」と「ネットワーク中立性」の2つに集約される。だが、総務省のワーキンググループの構成員である東京大学大学院の中尾彰宏教授は、ゼロレーティングサービスには技術面でも課題があるという。

 あるMVNOサービスのゼロレーティングについて、中尾教授の研究室が実際の課金状況を調べた所、本来はゼロレーティング対象となるはずのアプリ(匿名)のほぼ全通信がカウント(課金)されてしまっている事例を確認できたという。

 また、2つのMVNOサービスでゼロレーティングの状況を調べてみた所、対象アプリであっても特定のサーバと接続した場合にカウントされてしまう事象も確認できたそうだ。

 通常、大規模なSNSや配信サービスでは、負荷軽減を目的としてコンテンツサーバを分散して多数設置している。同じデータを読み込む際にも、接続先サーバが都度変わる可能性もある。当然、設備の状況次第でサーバは増設されたり削減されたりすることもある。

 つまり、どちらの「誤カウント」事例も、課金ゲートウェイが新設されたサーバを「対象外通信先」とみなしてしまったことが原因と思われる。ゼロレーティング対象のアプリやサービスであっても、その仕様が変わると課金されてしまう可能性があるのだ。

 ユーザー側から見た場合、普通はデータの配信を受けるサーバが変わったことを検知するすべはない。ましてや、接続先のサーバが新しすぎてゼロレーティング対象外と見なされたなんて分かりようがない。

 このような現状から、中尾教授は「ゼロレーティングの正確性を高める取り組みと共に、適切な広告表示についても考えていく必要がある」とする。

誤課金事例(その1)誤課金事例(その2) 中尾教授の研究室が実施した、ゼロレーティング対応のMVNOサービスにおける課金状況調査。対象サービスであっても正確に把握されないケースが散見されたという(中尾教授の提出資料より)

 このような「誤カウント」について、一部のキャリアでは「対象サービスでも仕様変更で対象外と認識されてしまう場合がある」旨の注意喚起を行っている。

 しかし、ワーキンググループの構成員である英知法律事務所の森亮二弁護士は「(中尾教授の)資料の通りだとすると、誤差が生じうる旨が規約(約款)に書いてあっても、これだけ(誤差が)大きいと『優良誤認』とみなされる可能性が高い」と指摘する。

 優良誤認は、その名の通り商品が実際よりも優れていると誤認させてしまう表示や説明のことで、景品表示法第5条第1号で禁じられている(参考記事)。ゼロレーティングの宣伝方法も大きな課題といえる。

中尾教授の掲げる課題 ゼロレーティングの正確性を高め、課金の透明を確保することが重要(中尾教授の提出資料より:PDF形式)

課題4:プラン選択の合理性確保

 中尾教授は「プラン選択の合理性確保」も重要だと語る。

 繰り返しだが、ゼロレーティングサービスは特定のアプリやサービスに関するデータ通信に課金をしないことが特徴……なのだが、プランとして提供される場合は通常の料金プランよりも月額料金が高めに設定される傾向にある。オプションサービスとしての提供であっても、有料提供であれば合計の月額料金は通常より高くなる。

 この時、「総データ通信量」と「ゼロレーティング対象通信量」を見比べることができれば「この通信量ならゼロレーティングプラン(オプション)じゃなくてもいいかな」とか「ここまで通信するならゼロレーティングプラン(オプション)にした方がお得だ」といった判断がしやすい。しかし、このような通信量の確認システムが全てのゼロレーティングサービスに用意されているわけではない

 また、しっかりデータ通信量の見比べができる場合であっても、ゼロレーティングサービスを使わない場合の“有効な”選択肢を用意されてないと意味がない。オプションサービスとして提供されている場合はそれを解約すれば済むが、プランとして提供している場合、それに代わる“有効な”選択肢がなければ割高なゼロレーティングプランを半ば強制的に契約させられる状態になってしまう。

 ゼロレーティングプラン(オプション)をどうするべきか判断しやすく、不要な場合の有効な選択肢をどう用意させるのかも重要といえる。

中尾教授のポイント 中尾教授の指摘する議論で考慮すべきポイント(中尾教授の提出資料より:PDF形式)

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