ゼロレーティングサービスには、大きく「通信の秘密」「ネットワーク中立性」において課題があるとされる。この点はワーキンググループやその母体となった研究会でも指摘されている。
しかし、研究会の構成員からはこれら2つに加えて、他にも考えるべき点があるという指摘があった。まとめて解説する。
ゼロレーティングサービスを提供する場合、キャリアは何らかの方法で契約者のデータ通信内容を把握しなくてはならない。手法は複数考えられるが、主立ったものを挙げると以下のものがある。
程度に差はあるが、いずれの手法もキャリア側で通信内容をチェックする必要がある。そのため、このサービスを提供すること自体が、日本国憲法や電気通信事業法上の「通信の秘密」を侵害する可能性がある。
現状でゼロレーティングサービスを提供している事業者の多くは、このサービスを「正当業務行為」とみなすか、あるいは通信の秘密を侵害される当事者(契約者)から個別に明確な同意を取得した上で提供している。一方で「ゼロレーティングは正当業務行為と見なすのは困難」「契約者から個別に明確な同意を取るのは難しい」という立場からゼロレーティングサービス自体に否定的なキャリアもある。
端的にいえば、ゼロレーティングサービスと「通信の秘密」の法的な整理がなされていない状態なのだ。
本来は違法行為に相当するが、業務を遂行する上でやむを得ないものは違法性がないものとみなし、処罰されないという考え方。
特定のアプリやサービス“のみ”無料とすることは、対象外となるアプリやサービスを“不公平”に扱うということにもなる。
“不公平”と聞くと真っ先に思い浮かぶのが「対象サービスだけ優遇する」ということ。ゼロレーティングサービスは対象サービスの通信量をカウントしないため、ある意味で確かに優遇を受けることになる。
しかし、この“不公平”は「対象サービスが不遇を受ける」という形で表れる可能性もある。例えば「対象サービスはゼロレーティングだけれど、通信速度(あるいは音声や動画の品質)は制限する」ということは、現実的にあり得る。
インターネットには、全ての通信やサービスを公平に扱う「ネットワーク中立性」という考え方がある。その観点からすると、ゼロレーティングサービスはネット中立性を阻害する可能性がある。
少し視点を変えてみよう。アプリやサービスの提供者(コンテンツプロバイダー、以下「CP」)からすると、通信サービスで自社のアプリやサービスに関する通信が優遇されれば、ユーザーや収益を増やすチャンスでもある。一方で、キャリアにとってはCPから通信ネットワークの運用費用の一部を捻出してもらえれば、願ってもないことである。
そこで出てくるのが「スポンサードデータ」という考え方。特定のアプリやサービスに関する通信料の一部または全部をCPが負担するという仕組みだ。筆者の知る限り、日本ではこのサービスを提供するキャリアはないが、海外では実際に運用しているキャリアも存在する。
アプリやサービスの提供者はプロモーションの一環で通信料金を負担する。ユーザーは当該アプリ、サービスの通信料を減らせる。そしてキャリアは通信料収入を確実に増やせる――ある意味で“Win-win-win”なサービスといえる。
しかし、広義でのゼロレーティングサービスともみなせるスポンサードデータは、同一キャリアのネットワークにおいて、資金力のあるCPと資金力の乏しいCPとの間でネットワーク中立性が損なわれる可能性は否定できない。
要するに、広義でも狭義でも「ゼロレーティング」と「ネットワーク中立性」の関係はしっかりと整理する必要があるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.