店舗のキャッシュレス化は、特に中小規模の店舗や、個店にとっては大きな労力が伴う。キャッシュレス化を行うには、それを補って余りあるメリットが必要で、そのメリットが判断できずに導入をためらっている店舗も多いだろう。
そこで、本連載では、実際にキャッシュレス化を果たした店舗に、そのメリットや課題を語ってもらう。今回話を聞いたのは、「PayPay」を導入した、東京都四ツ谷の居酒屋「飯酒処 よつやのうさぎ」。石川県・能登半島の食材や日本酒を中心に提供する同店は、2019年に入ってコンセプトを変え、能登半島を広めようと地域を限定して特色を出そうと考えたそうだ。周辺の勤め人を中心とした顧客層で、幅広い年齢層が訪れているという。
このよつやのうさぎがPayPayを導入したのは2018年12月。もともと、現金払いに加えてクレジットカード決済に対応していた同店だが、機材の故障でクレジットカード支払いが停止してしまったのがきっかけだ。
仕方なく現金のみを受け付けていたが、PayPay導入に至る背景として、この店舗の特色の1つである「常連客と友達になりやすい」という雰囲気があった。そう語るのは、店主の小原洋紀氏だ。常連客の素性は詮索されないが、話の流れで1人の常連客の職業を聞いたところ、PayPayの社員だったそうだ。
当初、PayPayがどういった会社かも分からなかったという小原氏。そこで話を聞いているうちに興味を持ったという。もともと、クレジットカードの決済端末が故障して困っていた中、渡りに船とばかりに導入を決めたという。利用客の多くが比較的若い社会人ということもあり、スマートフォンアプリでの決済には違和感がないだろう、という点もポイントだったそうだ。
それに加えて、導入の大きな理由となったのが「Alipayとの連携」だったという。中国からのインバウンドも想定し、中国人の利用率が高いAlipayへの対応に期待した。中国人客が食事をして現金が足りないこともあり、クレジットカードが使えた頃も銀聯カードで使えないこともあったことから、Alipayが使えれば喜ばれる、という判断もあったという。
実際に導入したところ、中国人よりも「若い人がどんどんPayPayを導入し始めた」そうだ。タイミングもよかった。2018年12月といえば、PayPayが「100億円あげちゃうキャンペーン」の第1弾を実施した頃で、キャンペーン自体はすぐに終了したが、話題性が高まっていた時期だ。
小原氏は、PayPayの「マーケティングのうまさ」に感心する。このキャンペーンによって若者の利用率が高まり、よつやのうさぎでもPayPayの利用者が増えたのだ。PayPayを使うと、「PayPay!」という決済音が鳴ることも、店内では好評だったという。居酒屋、常連客が多いという店の特徴も手伝って、決済のたびに「ナイスPayPay!」と歓声が上がるようになったそうだ。
こうした盛り上がりは、PayPayを使っていない高齢の客にも影響を与えて、興味を持った人も多かったという。使い方を教えて使ってもらうようにして、ますます利用者が増えるという好循環になった。
その結果、1カ月の売り上げにおける決済比率でPayPayが45%に達した月もあったという。キャッシュレス比率が2割程度といわれる日本で、しかもPayPayだけで45%に達するのはかなりの利用率だ。
PayPayだけを導入したのにも理由があり、「LINE Pay、メルペイといろいろ導入してしまうとお年寄りが混乱してしまう」と小原氏。複数のコード決済を導入することで混乱を招くよりも絞って提供することを選んだ。
同店で利用率が増えるPayPayだが、クレジットカードと比べたメリットとして小原氏は、「カード決済手数料」を上げる。小原氏は決済ごとにクレジットカード会社に支払う手数料が、「この規模(の店)だと(影響が)大きい」と強調する。
さらに、小原氏はPayPayの入金タイミングの早さも評価する。「ほぼ現金払いと変わらない入金サイクル」と同氏は喜ぶ。これによって営業キャッシュフローが改善し、取引銀行からも好印象を得られたそうだ。
同店ではPayPayの入金サイクルが2営業日。早期に入金されるため、新メニューなどの新しい戦略も立てやすく、キャッシュがすぐに手元にあるというのは心強いと小原氏は話す。クレジットカード払いによるメリットをあまり実感していなかったという同氏だが、PayPay導入後は、客単価の上昇を体感しているという。
PayPay導入以前の客単価は3500〜4000円だったが、導入後は4000円台後半から5000円台前半になったそうだ。さらに直近の6月は客単価がさらに上がっているそうで、PayPay効果を感じているようだ。
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