楽天モバイルは1月23日、2019年10月から実施している「無料サポータープログラム」を拡大することを発表した。前回は抽選で5000人が選ばれる形だったが、2次募集は先着順に仕組みを変更。同日23時45分には予定数に達し、申し込みは終了しているが、初回で“落選”した応募者には自動的に申し込みできる権利が与えられた。あわせて、ユーザーから料金を取る本格サービスを4月に開始することも正式に発表した。
もともと、楽天モバイルは自社回線を引っ提げ2019年10月に新規参入する予定だったが、サービス開始は事実上、延期されていた。代わりに同月に開始したのが、ユーザー数や地域を限定した形での無料サポータープログラムだ。限定的にサービスを開始し、ユーザーのフィードバックを受け、ネットワーク品質を改善していく目的があった。
当時募集した5000人のユーザーは、東京23区、大阪市、名古屋市、神戸市に居住地も限られていた。楽天モバイル側は、無料サポータープログラムを導入した理由として、完全仮想化ネットワークを安定的に運用するため、「慎重には慎重を期した」(代表取締役社長 山田善久氏)と説明するが、基地局の建設が間に合っていなかったとの見方も根強い。
一方で、無料サポータープログラム開始時点と比べると、エリアは徐々に広がっている。2019年10月には2000局を下回っていた基地局は、2020年1月時点で3020局にまで増加。本サービスを開始する4月には、「現在の見込みで4400局ぐらいになる」(同)という。これは、楽天モバイル側の当初の見込みを上回る数値だ。結果として、首都圏では東京都だけでなく、埼玉や神奈川の一部にエリアが拡大。関西圏では「京都でも電波の発射を開始している」(同)という。
実際、無料サポータープログラムで楽天モバイルの回線を使ってみると、東京都内の屋外は、エリアがかなり広がっていることが分かる。山田氏も「屋外については、ほぼつながる状況になっているのではないかと思っている」と自信をのぞかせる。屋内はauローミングに頼ることも多いが、完全に「圏外」になってしまう場所は思いのほか少ないという印象だ。
急ピッチでエリアを拡大できたのは、楽天グループ総出で用地の確保に動いたことも大きいという。山田氏は「執行役員まで入れると役員が何十人といるが、それぞれに担当エリアを割り振り、例え楽天証券の役員にもビルのオーナーを見つけてくださいということをやっている」と明かす。無料サポータープログラムを2万人拡大する根拠は、「総合的に判断した」(同)と明確には示されなかったが、エリアやネットワークの厚みが一定のしきい値を超えたということなのだろう。
ただ、ユーザーのライフラインとして見ると、まだ不安も残る。2019年12月には早くも通信障害を起こしており、対策を施したばかりだ。ユーザー数が一気に5倍になれば、楽天モバイル側の想定を超えた負荷がかかり、別のトラブルが発生する可能性もある。山田氏も「2万人となると、『コーナーケース』と呼ぶ一般的ではない使い方も増えると思っている」と語る。裏を返せば、ユーザー数が増えたとき、ネットワークを安定的に運用できるのかを実地で確認するのも、無料サポータープログラムを拡大した狙いといえそうだ。
山田氏によると、電話やメッセージサービスを統合した「楽天Link」のβ版が始まることも、無料サポータープログラムを拡大した理由の1つだったという。楽天Linkは、RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)を使った統合コミュニケーションサービス。大手3キャリアが採用する「+メッセージ」と同じ規格を利用したサービスだが、+メッセージでは音声通話機能が除外されている。
これに対し、楽天Linkでは、通話やSMSも含め、全て同一アプリ内で扱うことが可能。音声通話もデータ通信の上で行うため、auのネットワークにローミングで切り替わった際にも通話が切断されない。データ通信限定になっている国際ローミング時にも、音声通話やSMSを利用できる。現状ではあくまでβ版という位置付けだが、楽天Linkを使えば、携帯電話の基本ともいえるコミュニケーションサービスを大きく改善できるというわけだ。
+メッセージと同様、回線の種別は問わないため、Wi-Fi接続でも利用可能。自宅や職場などが圏外の場合でも、Wi-Fiにさえつながっていれば電話やSMSの着信を逃さないのは大きなメリットだ。特に楽天モバイルの場合、屋内のエリア化がまだ十分ではないため、その補完にもなる。楽天Linkの開始は、無料サポータープログラムの拡大に踏み切るための重要なピースだったといえる。山田氏は、「通信の中心になるように育てていきたい」と語る。
ただし、同じRCSでもドコモ、au、ソフトバンクの+メッセージとは相互接続を行っておらず、他社とメッセージをやりとりする際には、SMSが利用される。技術的な規格は同じだが、その上のレイヤーのサービスが異なるため、スタンプなどの送受信もできない。他キャリアや海外キャリアと相互接続する「可能性はある」(同)としながらも、現時点での予定は「まだ白紙の状態」だという。他社との接続については、今後の展開を期待したい。
屋内エリア対策については、フェムトセル(小型基地局)が導入されることも発表された。ただし、こちらの提供時期は未定。フェムトセルは小型とはいえ、基地局であることに変わりはなく、自由に移動したり、電源を切ったりできないなど、管理に手間がかかるため一気にエリアを拡大するのは難しいが、自宅で電波が入らない場合の解決策にはなりそうだ。
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