世界を変える5G

5G時代にMVNOはどう戦っていくべきか 業界の識者がディスカッションモバイルフォーラム2020(1/3 ページ)

» 2020年03月13日 10時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

 テレコムサービス協会MVNO委員会が3月6日に開催した「モバイルフォーラム2020」では、「5G時代のMVNOを構想する」というテーマで、業界の専門家によるパネルディスカッションが行われた。

 パネリストは、スマートフォン/ケータイジャーナリストの石川温氏、MM総研 常務取締役研究部長の横田英明氏、テレコムサービス協会 MVNO委員会委員長/インターネットイニシアティブ 取締役の島上純一氏の3氏で、モデレーターは(企)代表取締役 クロサカ タツヤ氏が務めた。

モバイルフォーラム 「5G時代のMVNOを構想する」というテーマでパネルディスカッションを実施。イベントはオンライで行われた

5Gの化けの皮が剥がれはじめている

 パネルディスカッションは、5Gが始まることによる影響、5GによってMVNOはどういう状況に置かれるか、5G時代にMVNOが目指すべきビジョンという、大きく3つのテーマで議論された。

モバイルフォーラム モデレーターのクロサカ氏
モバイルフォーラム 左から、石川氏、横田氏、島上氏

 まずソフトバンクが3月27日に開始する5Gサービスについて発表し、他社も続いて5Gをスタートさせる予定の中で、クロサカ氏は「アンリミテッド(無制限)」がキーワードになると予想。5Gの料金プランやサービスはどうなるかと問われた石川氏は「5Gの化けの皮が剥がれはじめている」と辛口で返答した。

 というのも、ソフトバンクの発表会では、ARやVRを使ったサービスが紹介されていたものの、4GやWi-Fiでも利用できるので「基本的に、あまり4Gと変わらない」からだ。「5Gの未来感を出そうとはしているけれど、相当苦労しているように感じる。料金プランも、5G基本料金として1000円かかるが、2年以内は無料なので4Gと同じ」(石川氏)

モバイルフォーラム ソフトバンクは3月27日に5Gサービスを開始するが、当初の5Gエリアは極めて限定的だ

 5Gのエリア展開や総務省に提出した計画書に書かれている5G基地局数から、「ソフトバンクは5Gに対して消極的。4G周波数の5G転用を狙っている」と石川氏はみる。総務省がルールを決めてDSS(ダイナミック・スペクトラム・シェアリング)を導入すると、転用が可能になる。ソフトバンクは2021年末に5Gエリアの人口カバー率90%超を目指しており、2021年が1つのターゲットになると石川氏は語った。

アンリミテッドな競争はMVNOには厳しい

 5Gでアンリミテッド指向が強まると、通信ビジネス全体でどんな影響があるかと問われた横田氏は、韓国の例から「爆発的に利用データ量が増える」と回答した。注目ポイントは、アンリミテッドな料金がいくらで提供されるかだという。楽天は自社網に限るが、約3000円の価格でアンリミテッドな料金プランを打ち出した。

モバイルフォーラム 月額2980円(税別)で楽天網は使い放題の「Rakuten UN-LIMIT」

 「ライバル通信事業者は、楽天が5Gでも同じような価格帯で提供すると思っていないと思うが、5Gでも3000円アンリミッテッドで提供されるようなことになれば価格破壊で、競争環境が変わって戦々恐々とするところも少しはあると思う」(横田氏)

 また、データ量が無制限になるので、カバーエリア内であれば固定回線を使わなくて済んでしまう環境になりかねず、固定回線業界も少なからず影響を受けると指摘。今でも利益を上げにくい環境になっているMVNOも「アンリミテッドになると、さらに競争環境が厳しくなり、事業の規模によっては耐えられなくなる会社が出てくる」と懸念した。

 クロサカ氏も横田氏の意見に賛成。爆発的に増えるデータの主体は動画になると述べた。「動画のニーズが基礎としてある中で、5Gがビットあたりのコストを下げていくことで、通信やサービスの使い方が変わっていくと思う。アンリミテッドになると、ゼロレーティングの議論は意味がなくなる」(クロサカ氏)

大容量を必要としないユーザーも一定層いる

 無制限に通信を利用するようになる状況下で、MVNOは存在価値をどこに見いだすべきかと問われた島上氏は「大容量を必要としないユーザーも一定層いる」とし、現在の低容量で1500円程度のMVNOの料金にはまだニーズがあり、アンリミテッドが広がることでMVNOの存在価値がなくなることはないという認識を語った。

 「12.5%のMVNOのシェアは、まだ増やせる余地があると思っている。無料とどう戦うかといわれると回答に詰まるが、楽天モバイルさんの料金プランとも、まだ価格差がある」(横田氏)

 一方で、通信以外のビジネスから参入しているMVNOも存在し、独自の強みを生かしながら通信と組み合わせて事業展開できるとする。最近、MNOが注力している非通信系のサービスで、アドバンテージがあるMVNOも存在すると述べた。

 アンリミテッドな料金プランが広がることでMVNOの存在価値がなくなることはないとはいえ、低容量でもMNOを選ぶユーザーもおり、MVNOが置かれている状況が厳しいことは確かだ。

 島上氏は、MVNOの方向性は、これまでのようにキャリアの制約を受けつつもライトなMVNOで事業を続けていく方向と、「顧客管理機能(HSS)を持ち、自由にSIMや、SIMの中のプロファイルを扱える、引いてはeSIMのような新しいサービスにもつながる自由度を持つフルMVNOとなる方向性もある」と述べた。コンシューマー事業の伸びは鈍化しているが、「IoTや産業向けに進出して新しいビジネスを作る役割をできるMVNOはもっといる」と語る。フルMVNOはIIJの他、丸紅も2月に開始すると発表している。「ドコモのMVNOではなくても、HSSを持ちながら他の形で新しい通信を作る事業者もいる」(島上氏)

 一方で、楽天モバイルの約3000円という料金や、Y!mobileのようなサブブランド、UQ mobileのようなグループ内MVNOとは、「何もせずに戦えるかといったら、当然戦えない。競争政策で、接続料の見直しや音声卸などにメスを入れてほしい」と要望を語った。

 「携帯電話料金を下げてきたのはMVNOだという自負を持っている。その役割は引き続き果たしていきたい。競争環境の整備は国民の利益につながると思うので、ぜひ続けてほしい」(島上氏)

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