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コロナウイルスの自粛ムードで変わる、キャッシュレス決済の形鈴木淳也のモバイル決済業界地図(3/3 ページ)

» 2020年03月26日 13時17分 公開
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日本のキャッシュレスは進展するが、小売店にとっては試練の時期

 以上を踏まえて2020年、そして少し先の日本の決済事情を予想する。2019年夏時点での国内のキャッシュレス決済比率は24.4%という話を聞いているが、本稿執筆時点ではさらに増加し、恐らく2020年を通じて20%台後半には達していると思われる。

 現状でいくつかヒアリングをしている限り、クレジットカード(デビットカードも含む)の利用率はそれほど上昇していないとみられるが、QRコードを使ったアプリ決済、特にPayPayが健闘しているという話は各方面から聞いており、ある程度の上昇効果が見込まれる。

 電子マネーも含んだ全体で見れば、30%に達するのは時間の問題とみられるが、「2025年までに40%」を達成するには現状の上昇ペースでは頭打ちが近いとも予想しており、キャンペーンに頼らない利用場面の増加、例えば前項でも触れた「モバイルアプリを使ったオンライン決済」など、利用場面の幅を広げる施策が必要だろう。現状では店舗の会計時にしか開かれない決済アプリだが、これのアクティブ時間を増やすことが利用場面の増加につながるのではないだろうか。

 もう1つは、既存の現金決済の置き換えだ。主に地方の商店や地場スーパーなど、キャッシュレス決済導入があまり進んでいなかった領域では、ハウスカードを使った独自マネー、楽天EdyやWAONなどの電子マネーシステムと連携した地域(店舗)カードの提供、手数料無料(あるいはクレジットカード契約よりも低い手数料)をうたうPayPayなどのアプリ決済サービスなどの拡大で、徐々に「現金のみ」という場所が開拓されつつある。一方で、交通系電子マネー含めてあらゆるキャッシュレス決済手段が利用できる都心部でさえも、いまだコンビニやカフェなどの支払いで現金を使う人は多い。

キャッシュレス決済 草津温泉ではPayPayとキャッシュレス推進で提携を発表しており、「キャッシュレス決済ではPayPayのみ利用可」という店舗が少なからずある

 こうした層に向けて、タッチ方式のクレジット/デビットカードの提案が進んでいる。非接触対応の手持ちのカードをそのままタッチするだけで支払える点が特徴で、ローソン、マクドナルド、すき家などのチェーンで導入が進んでいる他、現在少しずつ対応店舗の増えているイオン、2020年6月に導入されるセブン-イレブンまで、利用可能な店舗は増えている。これを下支えしているのは主にVisaで、東京五輪の公式スポンサーという立場も踏まえ、タッチ決済を一気に普及させるためのプロモーションをひそかに進めている。

 筆者の聞く範囲で、セブン-イレブンにとどまらず、導入効果の大きい小売大手各社に水面下でアプローチを行っており、手数料減免などの条件とバーターで一気に利用可能店舗を増やしていく計画だ。現状、VisaカードはApple Payに登録してNFC決済やオンライン決済ができないという問題はあるが、現在発行されているVisaカードの多くでタッチ対応が行われている他、ウェアラブルを含むVisaのタッチ決済対応機器はそれなりにあり、使い勝手は悪くない。

 もし、現状でキャッシュレス決済ではなく現金を利用している人々が「利便性」をその理由としているなら、少額決済でも気軽に使えるクレカ/デビットのタッチ機能はキャッシュレス利用を後押しするだろう。ましてや、「現金は不潔」という認識が今後広まることを考えれば、「タッチ決済」「スマートフォンを使ったアプリ決済」というのは食品を扱う事業者の安全性をアピールする格好の材料になるかもしれない。

キャッシュレス決済 三井住友カードが発表した決済端末の「stera」。オンライン決済にも対応した一体型POSでいくつかの特徴を備えるが、そのうちの大きなものの1つがクレジット/デビットカードのタッチ決済に対応したこと

 そして2020年の話題で欠かせないのがポイント還元事業だ。10月1日にスタートした現行のキャッシュレス/ポイント還元事業は6月中で終了するが、9月には「マイナポイント」が控えている。マイナンバーカード普及のための事業であり、同カードにひも付けた1つのキャッシュレス決済手段に対して購入額の最大25%、5000円を上限にポイントが付与される。詳細についてはまだ情報が公開されていないため不明だが、現行のような「普段の買い物で気付いたら2%または5%の還元や割引が行われている」といったものとは若干異なるものになりそうだ。

キャッシュレス決済 2020年9月からスタートする「マイナポイント」。マイナンバーカードにひも付けた1つのキャッシュレス決済手段に対してポイント還元が行われる

 加えて、現在政府では消費税増税ならびにコロナウイルス問題で自粛モードに入って困窮する事業者や個人救済のため、国民一人一人に資金給付を検討しているという話が出ている。効果を考えれば早期に実行されるべき政策のため、恐らくマイナポイント開始を待たずして支給が行われ、同時並行的に消費を下支えする流れになる可能性が高い。

 問題は金額とその方法で、リーマンショックを受けた2009年当時の麻生太郎政権では1人あたり1万2000円が支給された。複数の報道を見る限り、少なくとも倍額程度、一部には米国と同様の10万円という意見もある。だが問題は金額よりも支給方法にあり、経済対策について現副総理兼財務大臣の麻生氏は、消費税減税や現金支給などの手段には否定的な姿勢を示している。

 現金でなければ現行の還元事業通りにキャッシュレス決済へのポイント支給など、別の手段を拡充すべきという意見もあり、決定までにはまだ少し時間を要しそうだ。現金支給で難しいのは、比較的高価な現金が一律で配られた場合、本来政府が意図した生活の下支えや市場への環流による経済浮上効果ではなく、貯蓄や射幸目的での利用、国内企業への環流があまりない、海外メーカー製品の購入などに用いられる可能性がある。

 給付金の使途は個人の自由ではあるが、財政出動をする以上はその効果を最大まで高めたいと政府は考えるだろう。ゆえにキャッシュレスな決済手段でも「用途が限られる」「大きな支出に使えない」など、いくらか制限を設けた手段を検討するかもしれない。

 まとめると、今後1〜2年かけてPayPayをはじめとしたアプリ決済の対応店舗は増え続ける。クレジット/デビットカードのインフラは2020年3月のIC対応義務化を契機に店舗の決済システムが一新され、Visaをはじめとした国際カードブランドやアクワイアラ、イシュアの尽力によって大手小売を中心にNFCを使ったタッチ決済の普及が進む。

 恐らく2025年までには、これらキャッシュレスのインフラ整備はかなりの域まで進み、仮に欧米などから外国人が来訪しても「日本円を入手することなく滞在する」ことを実現するには十分な程度の環境が整うと考えている。あとは利用者側がどこまでキャッシュレスを活用しているのか、各種サービスの拡充や意識の変化がキャッシュレス決済比率を40〜50%の領域まで押し上げる要因となるだろう。

 前段のように政府の後押しによるポイント還元施策は今後も継続的に行われる可能性が高く、これをうまく事業者が取り入れていくことも重要だ。いずれにせよ、コロナウイルス拡散の影響で国内外ともに今後数年は人の往来は減少し、小売店は大きなダメージを受けざるを得ない可能性が高い。必要最低限の投資でどこまで顧客行動の変化に対応できるのか、小売事業者にとって大きな分岐点が近付いてきている。

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