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» 2020年03月26日 13時17分 公開

鈴木淳也のモバイル決済業界地図:コロナウイルスの自粛ムードで変わる、キャッシュレス決済の形 (1/3)

政府が関連各社を巻き込む形で2019年以降に活発化したキャッシュレス決済施策は、2020年初期の段階で早くも転機が訪れている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、米国では人々の現金に対する意識が変わりつつある。日本では政府の後押しによるポイント還元施策が継続的に行われる可能性が高く、これをうまく事業者が取り入れていくことが重要だ。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 「2020年はオリンピックイヤー」とばかりに政府が関連各社を巻き込む形で2019年以降に活発化したキャッシュレス決済施策は、2020年初期の段階で早くも転機が訪れている。本来、この原稿は2019年時点での日本を含む世界のキャッシュレス決済の状況を俯瞰(ふかん)しつつ、2020年以降に起こる変化を予想するものだったのだが、さまざまな状況が大きく変わってしまった。そのため、既に執筆した内容を破棄しつつ、最新事情を整理し、2020年以降の日本と世界のキャッシュレスにおける展望をまとめてみたい。

キャッシュレス決済 現金とキャッシュレス決済を巡る事情は日々刻々と変化している

“汚い”現金を集める理由

 まず、過去1〜2週間ほどで出てきた「現金」にまつわる興味深いニュースが2つあったので紹介したい。CBS Newsが3月9日(米国時間)に報じた「Can you catch the coronavirus from handling cash?」というニュースだが、連邦準備銀行(FRB)がアジア方面から戻ってきた“現金の処理”を遅らせるという。

 具体的には、現金や“人の触れる可能性のあるもの”全てについて、少なくとも10日間の放置期間を設けるというもの。つまり、現金を含むそれらは全て「新型コロナウイルス」によって汚染されている可能性があり、ウイルスの残存期間を考慮して感染を防ぐという措置だ。

 この他、CBSの記事ではパリのルーブル美術館(現在は閉鎖)がキャッシュでの入場料支払いを拒否した話や、間接感染を避けるためにイランでは国民に現金使用を止めさせている話なども紹介されており、現金がウイルスの感染源になり得る可能性に触れている。日本では2月に銀行員がウイルス感染するケースが報じられており、少なからず感染ルートの1つとなっているのは確かなようだ。

キャッシュレス決済 最近は海外出張でもめっきり現金に触れる機会が減った筆者だが、2月末にアフリカのルワンダを訪問した際はそれなりの額の現金を現地で両替した。正直、紙幣がかなり汚れているため、保管方法は少し工夫した

 実際、現金は“不衛生なもの”という認識は既に多くの人々の間で認識されていたようで、例えば中国では煮沸消毒しようと紙幣をお湯に突っ込んだり、韓国では消毒のつもりで紙幣を電子レンジに突っ込んで火災を起こしたりというニュースも出ている。これはSouthCoastTodayという、米マサチューセッツ州のサウスコースト地域周辺をカバーする地元紙の3月19日(米国時間)の記事だが、同地域の代表が地元レストランに向けてウイルス対策として店内清掃の徹底と現金取り扱い時の手袋着用、そしてオンラインでの注文受け付けを推奨している。

 オンライン発注の理由は接触時間の低減に加え、支払い手段としてクレジットカードやデビットカードを利用させることで極力現金に触れないようにするためだ。同様の話題は他にも出ており、現金の取り扱いに注意が必要というのは、特に飲食店やスーパー、衛生関連の職種での共通認識となりつつある。

キャッシュレス決済 ニューヨークにあるラーメン屋ではキャッシュオンリーの店がいまだある。こうした店では今後現金をどう扱っていくのだろうか

 ニュースの2つ目はその真逆の話題だ。これはNew York Timesが3月14日(米国時間)に報じた「A Bank in Midtown Is Cleaned Out of $100 Bills」という記事だが、米ニューヨークのある銀行支店で100ドル紙幣が枯渇したという話題だ。枯渇したのは100ドル紙幣のみで、5万ドル(日本円で約550万円)近い引き出しがあった直後に発生したという。似たような状況は、問題となったBank of Americaのミッドタウンにある支店の周囲でも発生しており、2日間といった比較的短い期間で大量の現金引き出しに向かう利用者が少なからずいたことを示している。

キャッシュレス決済 筆者がATMで現金を引き出すのはだいたい100〜200ドル程度で、紙幣はほぼ20ドル札のみ。100ドル紙幣を必要とするのは少なくとも1000ドル程度の現金を必要とするケースだろう

 この要因の1つは、引き出しのあった週に株価の急落が始まり、翌週月曜日の16日にはダウ工業平均指数が1日で過去最大の2997ドル下落するなど市場が不安定な状況にあり、現金確保に走ったというものだ。実際、このレベルの引き出し金額であれば、仮に銀行が倒産しても預金は補償金額内に収まるとみられ(ケース・バイ・ケースだが最大25〜35万ドルが補償される)、取り付け騒ぎにはならないだろう。

 現金の大量確保は保管の問題もあり、セキュリティ的に不安だ。また14日時点では予想できなかったかもしれないが、外出禁止令が強化された今となっては、前述のサウスコーストのケースのように現金が使える場面は限られると考える。「非常事態に備えて現金確保」という考えだろうが、大量の現金が短期間に必要になり、臨時ATMが出動する事態になったハリケーン「サンディ」の事例とは異なり、今回のケースはどちらかといえば「現金を手元に持つ安心感」という精神的側面が大きいと思われる。

 だが現実問題として、現金は昨今の事情でいささか扱いにくいものという認識が広まりつつある。人の心理とは裏腹に、物理的に「現金は“汚い”」という認識が商店側で広がることで、今後数年をかけて人々の消費行動に大きな変化をもたらすかもしれない。そうした兆候は既に起きつつある。

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