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» 2020年03月26日 13時17分 公開

鈴木淳也のモバイル決済業界地図:コロナウイルスの自粛ムードで変わる、キャッシュレス決済の形 (2/3)

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

人が動けないことで買い物行動に変化が起きる

 ウイルス感染が急拡大しているEU諸国が3月に入り、外出制限の強化と国境封鎖を相次いで打ち出したが、それに続く形で米国でも渡航制限を一気に強化し、事実上の国境封鎖を進めている。米国全土で警戒態勢が続いているが、特に厳しい外出制限が課されたニューヨーク州やカリフォルニア州では、生活に必要な最低限の商店を除き、飲食店を含む全ての店舗の閉鎖が言い渡された。不要不急を除く外出禁止令を破る市民には罰金などの刑罰が科される状態が続いている。

 学校や公共施設が閉鎖された他、企業にはテレワークがほぼ義務化される形で市民は自宅待機が必要となり、スーパーへは買いだめに向けた買い物ラッシュが発生する。また、客足の途絶えた飲食店はデリバリーや弁当形式の販売を模索するなど、生き残りに向けた試行錯誤を続けている。オンライン経由のデリバリー利用も増えており、特に生鮮品を扱う事業者の需要が高まっている。

キャッシュレス決済 2020年1月に撮影した米ニューヨークのTimes Square。往年の賑わいが戻るのはいつか

 需要の急増に対応すべく、米Walmartは従業員へ5億5000万ドルの臨時ボーナスを支給して、15万人の一時(Temporary)労働者の募集を開始。また、米Amazon.comは10万人の雇用計画を発表した。Amazon.comではAmazon FCのような倉庫での従業員の他にもオンラインで働けるフルタイム労働者の大規模確保に動いており、多くのサービス業や製造業で人員削減の話が出る一方で、需要の急増する企業での人員確保が急速に進みつつある。

 「Temporary(一時的な)」という表現にもあるように、各所の急募では一時的な労働力確保という扱いのようだが、実際のところウイルス感染を発端にした非常事態宣言がどの程度まで続くかは不明であり、仮にその状態が解かれてもすぐに需要が2月以前の状態に復帰することはなないだろう。

 ドナルド・トランプ米大統領は「夏頃まで」のような表現を用いていたが、企業各社などは少なくとも5〜6月くらいまでは現在のような状態が続くことを想定しており、仮に外出禁止令が解かれたとしても集会や建物内における人数制限は今後もしばらく続くと思われ、最悪のケースでは年内いっぱいまで波及することも考えられる。冬が到来すれば再びウイルスまん延のシーズンとなるため、ウイルスとの戦いは数カ月で収まるものではなく、年単位となる可能性もある。ゆえに人々の消費行動や小売店のサービスもまた、そうした変化に多少なりとも順応を求められるだろう。

キャッシュレス決済 米ワシントン州シアトルにある米Amazon.com本社。ワシントン州は比較的新型肺炎罹患者が多く、その影響も少なくない

 一連の買い物制限では2つの興味深い話題がある。1つはオンラインデリバリーのパンクで、3月19日(米国時間)には注文の激増でAmazon Primeユーザー向けに提供されるオンライン配達サービス「Amazon Pantry」が一時的にサービス中断に追い込まれ、[Whole Foods Deliveryのサービスも配達用の時間スロットに空きがなく、1週間以上の先の配達が見込まれるなど、まともに機能していない状態のようだ(筆者がサンフランシスコ周辺のZIPコードを指定したところ、一時的にサービス利用不可になっていた)。

 ここまでオンライン利用が急増したのは、やはり「ウイルスが怖い」という理由が大きいだろう。Whole Foodsなどで提供されるピッキングアップサービスは店員や臨時スタッフが担当することになるが、リアル店舗の作業は彼らに任せ、自身は人との接触時間を極力減らしたいという心理が少なからずあると想像する。

 極端な例だが、Forbesの[「Coronavirus Prompts Whole Foods, Safeway And Other Grocery Stores To Reserve Shopping Times For Vulnerable Customers」という記事は、それを端的に表している。記事中に名前の挙がっているスーパーなどの商店は高齢者や持病持ちの人のための「特別な買い物時間帯」を用意しており、他の利用者と時間を区切るサービスを提供しているという。

 これは新型肺炎に罹患(りかん)したくないという買い物客の心理をくみ取ったもので、オンラインを利用できない(もしくはしたくない)層を時間分割で取り込んでいるわけだ。本来は利用が分散しており供給も十分だったサービスが、これまで利用しなかった層も含めて一気にユーザーが集まったことで、オンラインデリバリーのパンクにつながった。需要が一時的なものと考えているため、企業側もこうしたピークに合わせてサービスを拡充させるわけにもいかず、非常に悩ましいところだ。

キャッシュレス決済 オンラインからのWhole Foods Market利用が急増してサービスが追い付かない状態だという

 まとめると、米国で今後1〜2年ほどで次のような変化が起きると予想している。

  • オンラインショッピング、特にモバイルアプリを経由した買い物がさらに主流になる
  • 決済がオンラインにシフトしてクレジットカードやデビットカード利用が増える他、人の接触時間や現金に触れることを避けるために「チップ」に関する見直しが起きる
  • 人が集まることを避けるトレンドは続くため、アルコールを提供するクラブやバーなどのビジネスモデルの変化や(入場にIDチェックが必要なため一度入店すると外に出ない)、ショッピングモールなどの業態が大きく変わる
  • ここ数年続いていた傾向だが、リアル店舗はショールームやストーリーテリングを意図したレイアウトが中心になり、人を集めての量販店やサービス事業者は衰退へと向かう

 モバイルを使ったオンライン利用の急増は既に中国で起きていた変化だが、これが米国をはじめ欧州などに拡散していくと思われる。それに伴い、モバイル決済はより重要になり、関連するサービスは大きく盛り上がるだろう。リアル店舗では接触時間の低減や集合を避ける傾向が続くため、ウィンドウショッピングも必然的に制限を受ける。小売店など事業者はこれを補完する仕組みの提供で顧客との接点を増やす必要があり、それを意識した店舗レイアウトを目指さなければならない。こうした傾向の結果、キャッシュレス比率はさらに上昇することになるというのが筆者の考えだ。

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