とはいえ、5Gの周波数帯で広範囲をカバーするのが非常に難しい状況にあることに変わりはない。各社はどのようにして5Gのエリアカバーを広げようとしているのかというと、その1つは4G向けの周波数帯を5Gと共存する「ダイナミックスペクトラムシェアリング」(DSS)の活用だ。
DSSは遠くに飛びやすい4Gの電波と、既存の基地局やロケーションを活用できることから、5Gのエリアを素早く広げるという意味では大きなメリットがある。国内でDSSを利用するには総務省の認可が必要なので実現できていないが、2020年中には認可がなされるとみられていることから、認可後に活用が進む可能性は高い。
ただ、DSSを活用しても電波は4G向けのものを用いるため、通信速度は4Gと大きく変わらず高速大容量通信は実現できない。今後スタンドアロン運用に移行すれば、低遅延や多数同時接続が広範囲で利用できるメリットも生まれてくるだろうが、ノンスタンドアロン運用下の現状では、アンテナピクトが「5G」となる場所が広がるくらいしかメリットがないというのも正直なところだ。
そのため、DSSの活用には温度差もある。特に活用に積極的なのがソフトバンクで、同社はDSSで5Gの全国カバーを一気に進める計画を打ち出している。同社は5Gの全国エリアカバーが他の2社より1年近く早く進むとしている一方、基盤展開率ではなく従来の人口カバー率による全国カバーをアピールしているのはそのためだ。
ソフトバンクは2020年度末に5G基地局を1万局、2021年度末に5万局以上整備して「基盤展開率」ではなく「人口カバー率」90%超を達成するとしているが、その多くがDSSの活用と見られ、エリアが広がっても当面5Gのメリットはあまり得られない可能性が高いKDDIもソフトバンクほどではないにせよ、DSSを一部活用することで5Gのエリアを広げていく方針のようだが、ドコモはDSSによる5Gエリア化のメリットが少ないことから、利用には消極的な見解を示している。同社は衛星干渉の影響が少ない4.5GHz帯の割り当てを受けていることもあってか、あくまで高速大容量のメリットが生かせる5G用の周波数帯を活用し、基地局整備を進めていく方針のようだ。
そしてもう1つ、5Gのエリア拡大に向け活用が進むとされているのが「インフラシェアリング」だ。これはアンテナや鉄塔などの基地局設備を複数の企業でお金を出し合って整備し、シェアして利用することでコストを抑えながらエリアを拡大する取り組みで、海外では多くの国で用いられているものだ。
5G用の周波数帯で広範囲をカバーするには従来以上に基地局を設置する必要があるので、4Gより一層のコストがかかる。そのため、人口が少なく採算性が低い一方、政府が強く求めている地方のインフラ整備をいかに進めるかは、キャリア各社にとって大きな課題となっている。そこで低コストで地方をカバーするため、インフラシェアリングを日本でも推し進めようという動きが進みつつあるわけだ。
実際、KDDIとソフトバンクは、2019年7月より地方を中心とした基地局の相互利用に関する実証実験を進めている。さらに両社は2020年4月に共同で「5G JAPAN」を設立しており、インフラシェアリングを本格化しようとしている様子がうかがえる。
KDDIとソフトバンクは地方でのインフラシェアリングに向け、2019年7月から相互利用に向けた実証実験を実施。2020年4月には共同で「5G JAPAN」を設立し、インフラシェアリングの本格展開を進めようとしているモバイルネットワークはつながってこそ初めてメリットをもたらすものであり、それは5Gになっても変わることはない。周波数などの条件が4G以上に厳しい中にありながらも、いかにして携帯各社が5Gのエリアを全国に広げられるかは、その利活用にも大きく影響してくるだけに、知恵を絞りながらスピーディーに広範囲をカバーしてくれることを期待したい。
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