スマートフォンだけでなく、さまざまな業種、業界に影響を与えるとされる5G。その一方で、具体的な利用事例があまり見えていないのも事実だ。では実際に5Gで一体何が実現し、どのような産業に大きな影響を与えると考えられているのだろうか。これまでの実証実験などの事例から追ってみよう。
2020年3月に国内での商用サービスが開始されたことから、いっそうの盛り上がりが期待される5G。先行する海外メーカーだけでなく、国内メーカーも5G対応スマートフォンを発表している。
確かに5Gで実現するとされる、1Gbpsを超える高速大容量通信は、スマートフォンで動画コンテンツをより快適に楽しめるなどいくつかのメリットをもたらすかもしれない。だが、スマートフォンの小さな画面ではGbpsを超える通信速度を生かすのに限界があり、持て余してしまうというのが正直な所だ。
そうしたことから5Gはスマートフォンだけにとどまらない、より幅広い用途で活用されることが想定されているのである。とはいうものの、スマートフォン以外でどのような形で5Gが生かされるのか? というのはピンと来ない人も多いのではないだろうか。
そこで今回は、5Gでどのようなことが実現すると期待されているのかを、5Gの3つの特徴である「高速大容量通信」「超低遅延」「多数同時接続」の3つの観点から確認してみよう。
まずは高速大容量通信で実現できることだが、最も分かりやすいのはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)など、いわゆる「XR」と呼ばれる技術の利用拡大だろう。360度の角度から見られる可能性があるXRコンテンツはもともとデータ量が大きいことから、その普及には5Gによる高速大容量通信が求められているのは事実だ。
実際5GとXRを組み合わせた取り組みは、商用サービス前から多くのキャリアが手掛けている。例えばソフトバンクが2019年7月に「FUJI ROCK FESTIVAL '19」に合わせて実施した5Gのプレサービスでは、VRのヘッドマウントディスプレイを装着することで、新潟県の苗場の会場と、東京・六本木という離れた場所にいる人同士で、アバターに扮(ふん)してコミュニケーションをしながら仮想空間でライブを楽しむというイベントを実施している。
またソフトバンクは、2019年12月から実施されていた「SoftBank ウインターカップ2019」でも5Gのプレサービスを実施。5GとARグラスを活用し、試合の風景に試合情報や別視点の試合映像などを重ね合わせて表示するなど、ARを活用した新しいスポーツ観戦スタイルの提案を実施していた。
だが、XRの普及にはVRゴーグルやスマートグラスのサイズがまだ大きいなど、デバイス面で改善が必要な部分も少なからずあり、5Gが始まったからといって急速に普及が進むとは考えにくい。では比較的早い段階で高速大容量通信が活用されるのはどこかというと、4K、8Kといった高精細の映像配信であろう。
5Gは情報量が多い4K、8Kの映像配信への活用も期待されているが、中でも注目されているのはコンシューマー向けのサービスではなく、ビジネスでの活用である。5Gでは高精細な映像をリアルタイムで配信できることから、遠隔での監視や確認といった用途への活用が期待されているのだ。
例えばKDDIは2019年3月に、日本航空と5Gを活用した航空機整備の遠隔作業支援などに関する実証実験を実施している。これは作業員の作業の様子や、格納庫内にある航空機の様子を、5Gを通じて4K、8Kといった高解像度で伝送することで、遠くにいる熟練工が現場の作業員に指示を出したり、航空機の点検を遠隔で実施したりするというものである。
従来のフルHD画質の映像では、例えばネジの細かな部分まで確認するのは難しい。そこで、こうした用途には4K、8Kの映像が必須であり、同時に場所を選ぶことなく高精細映像を伝送できる5Gが必要とされているわけだ。
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