続いて、阪神ケーブルエンジニアリングの取締役 通信事業部長である宮川修一氏が、実際にローカル5Gの導入に向けて実験をしている体験をもとに、ローカル5Gの実際の性能と、実利用に適しているのかどうかについて説明した。
同社は阪神電車の子会社で地域BWAシステムを開発しており、自社だけでなく全国のケーブルテレビ事業者にもシステムを提供している。ローカル5Gの実用化に向けては既に28GHz帯の実験免許を取得、2020年8月からはフィールドでの実験を実施する予定だというが、宮川氏は2020年末にローカル5G向けとして新規の割り当てが見込まれている4.8GHz帯が“本命”と見ているようで、想定通り割り当てられれば、そちらの帯域を使って2021年4月に本格運用を開始したいとしている。
同社が現在、実験で導入しているのはHuawei製の機器であり、600台のブレードサーバ上にネットワーク仮想化(NFV)がなされたコアネットワークを構築。基地局にも同じくHuawei製のコンパクトなタイプを使用しているそうだが、高速大容量通信のため下りと上りともに192のアンテナ素子を備え、Massive MIMOを実現しているのが特徴になるという。
一方、端末に関しては、電波の受信感度を高めるため屋外に設置できる、電波利得が高いものを採用しているとのこと。理論値での最大通信速度は下り640Mbps、上り160Mbpsだが、電波暗室内での試験ではそれぞれ約550Mbps、約120Mbpsと理論値に近い速度を記録した他、遅延も3〜4ミリ秒の低遅延を実現したという。
28GHz帯は障害物のない見通しがよい場所では遠くに飛ぶとされている。新型コロナウイルスの影響で国内ではその実験ができなかったそうだが、中国で実験した結果では、約1.16km先まで電波が届き、下り100Mbps、上り30Mbpsの通信速度を実現した。とはいえ28GHz帯はやはり障害物には弱いことから、利用する上では工夫が必要になる。具体的な活用案として、宮川氏は学校のグラウンドに基地局を設置して教室をカバーする、ビルの屋上を結んだ閉域のネットワーク構築などを挙げている。
最後にIIJ(インターネットイニシアティブ)のMVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長の佐々木太志氏が、ローカル5Gの普及に向けたビジネスの取り組みについて説明した。
ローカル5Gは大きく分けて2種類の運用形態があるとのこと。端末の位置が固定されており、工場など特定の場所で独立して運用される「スタンドアロン型」と、端末が移動し、他のローカル5Gやキャリアの5Gネットワークなど、複数の無線アクセスネットワークをまたいで利用する「ハイブリッド型」だ。佐々木氏はローカル5Gのユースケースの多くが、ハイブリッド型になるとみている。
だがハイブリッド型を実現するには、他のネットワーク事業者との接続を考慮する必要がある他、他事業者のネットワーク上でセキュリティや通信品質の担保が必要など、実現には多くの課題が出てくるという。またローカル5Gを導入する上ではSIMカードの調達や、特にハイブリッド型を実現するには他社へのネットワーク接続など厳しい要求を満たしたコアネットワークの構築が求められるなどの課題もあると、佐々木氏は話す。
そこで佐々木氏は、現在のMVNOがローカル5Gの構築を支えるイネーブラーとしての役割を果たすようになれば、各事業者がローカル5Gを展開しやすくなると説明。そのためのMVNO側の取り組みとして、佐々木氏はテレコムサービス協会MVNO委員会で提唱している「VMNO」(仮想通信事業者)を挙げている。
VMNOは欧州のシンクタンクが提言した5G時代の新しいMVNOの形態。中でもキャリアから無線アクセスネットワークだけを借り、自ら独立した仮想コアネットワークを持つ「フルVMNO」であれば、複数の無線アクセスネットワークをまたぐ通信サービスを提供できるようになるという。
それゆえ、フルVMNOの実現によって、現在のMVNOがハイブリッド型のローカル5Gを実現するイネーブラーとしての役割を果たし、多様な通信サービスを生み出し競争を促進することにつながる――と佐々木氏は期待を寄せる。その実現に向けた意欲を示している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.