政府主導による料金値下げの功罪 MVNOが戦うために必要な競争環境とは?モバイルフォーラム2021(2/3 ページ)

» 2021年03月12日 06時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

大臣の発言とアクション・プランは矛盾しない

 総務省が2020年10月に発表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン(以下、アクション・プラン)」は、乗り換えを簡単にして競争を促進し、それによって料金が自然と下がることを狙ったと読める。しかしその後、トップである総務大臣が直接的に値下げを要求した。キャリアが値下げをすることでむしろ他社やMVNOへの移行が減り、相反する面があるように見える。今回の値下げの意図について、総務省 料金サービス課企画官の大内氏は「これを語り出すと、たぶん1晩くらいかかる(笑)」としながら、以下のように説明した。

モバイルフォーラム2021 「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の主な内容。公正な競争を実現することが大きな目的だ(総務省の資料より)

 「10月に出したときのアクション・プランの基本的な考え方は、『行政は、値下げを直接的な目的として、全ての施策を組み立てているわけではない』という政策宣言みたいなものだったと思う。値下げは1つの結果ではあるが、競争の成果はいろいろあり得ると思っている。アクション・プランでは2番目の柱だが、あくまで公正競争を柱とした。乗り換えの促進などもパッケージとして、棚卸し的に政策を出した。

 値下げについては、むちゃなやり方じゃないかという指摘もあったが、われわれとしては矛盾していない。実際にはサブブランドでの値下げが先行した。総務大臣も明確に申し上げたが、サブブランドだからいけないわけではない。いろいろ確認してみると、メインからサブに移行、いわゆるダウンセルする際、キャリアを変えるくらいの手数料や乗り換えの手間があった。こういったものが見直されないままではユーザーの理解が十分得られないという問題意識で、それだったらメインを引き下げた方がユーザーに優しいのではという政策的な問題提起をした。われわれとしてはあくまで公正競争、乗り換え促進の環境整備にこれまでも努めてきたし、これからも努めていきたい」(大内氏)

MNOと戦えるだけのプランを出さないと存在意義がない

 とはいえ、MNOが値下げするとMVNOへの打撃は計り知れないところがある。ドコモからahamoへの移行は進むだろうが、異なるキャリア間の移行は停滞してしまう可能性が高い。接続料や音声卸料金の低廉化の動きも見られるが、着地点がまだ見えない中、1月にMVNO委員会が総務省に要望書を出した。MVNO委員会委員長の島上氏は、この要望書について「イコールフッティング確保のための緊急措置の実施要望として出した」と意図を説明した。

 データ接続料の可及的速やかな引き下げ、音声卸料金の低廉化、プレフィックス番号自動付与機能の早期実現といった内容自体は、MVNOの競争政策の中でずっと言われてきたことだと島上氏は指摘。携帯電話事業がMNOに寡占されている中、MVNOが参入することで競争を活性化し、引いてはユーザーに利益をもたらす状況を作り出すべく、さまざまな施策が展開されてきた。しかし、そこに今回のMNOの大幅料金値下げが敢行された。

 「キャリアさんが値下げすること自体は、基本的にいいこと。ただ、MVNOからすると、エンドユーザー料金が驚くべきスピードで下がる中、去年(2020年)の頭から話が出ている音声卸料金に関しても、見直しが全く行われていない。MVNOとしての役割を果たすためには、MNOと戦えるだけのプランを出さないと存在意義がない。この状態をただ見ているだけにはいかないので要望書を出した」(島上氏)

モバイルフォーラム2021 テレコムサービス協会MVNO委員会が要望に至るまでの経緯(MVNO委員会が総務省に提出した資料より)

 この要望書に対し、大内氏は「役人人生の中で、これほど要望を真正面から受け止めたことはないというくらい、毎日、この要望書を眺めながら仕事をしている」と真摯(しんし)に受け止めている。

ahamo、povo、LINEMOはコスト割れになっていない?

 要望に対する具体的な取り組みも紹介した。データ通信の接続料は、現在「将来原価方式」というルールを導入して算定しているが、現状のままでは喫緊の課題に対応できないだろうということで、「MNO3社に対して、ahamo、povo、LINEMOがコスト割れになっていないかを検証した。エンドユーザー料金に照らして、接続料、音声卸料金の水準が不当に高く設定されていないかということについて、テストさせてもらった」(大内氏)

 各社とも検証はパスしたが、「採算ギリギリのライン」でやっており、「データ接続料の引き下げは待ったなしということが客観的にも判明した」と大内氏は言う。基本的に、接続料はコストを需要で割っている。既存の設備で廉価プランを出せば、需要が高まるので単位当たりの接続料は下がる。将来原価方式で精緻に算定すれば、接続料は下がるはず、という考え方だ。

 コスト割れの検証を行った翌日、総務省通信基盤局からMNO3社に対し、接続料を精緻に算定するよう要請を出したという。まだ結果は公表されていないが、「恐らく、この数字はアクション・プランに書かれている目標を前倒しして実現できるものに近づいていると思う」と大内氏は期待を寄せた。

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