KDDIと米Swift Navigationは7月19日、PPT-RTK方式による高精度測位サービスの提供に向けた業務提携契約を締結したことを発表した。KDDIは同方式に対応する独自基準局を整備し、Swiftの測位サービス「SKYLARK(スカイラーク)」で利用できるようにする。両社は協力して、ビジネスにおける高精度測位の活用も促進する。
【訂正:7月21日22時10分】7月21日付で本件のニュースリリースに一部訂正がありました。それに伴い、本記事の表記も一部訂正しました
カーナビゲーションシステムやスマートフォンにおける測位では、一般的に測位用の人工衛星を用いる「GNSS(全球測位衛星システム)」を用いる。GNSSで用いる人工衛星としては、米国の「GPS」、中国の「Beido」、ロシアの「GLONASS」、ヨーロッパ連合の「Galileo」などが知られている。日本も、独自のGNSS用準天頂衛星システム「QZSS(みちびき)」を運用中だ。
現行のスマートフォンは複数のGNSSシステムに対応していることが多い。しかし、人工衛星から発せられる信号“だけ”で測位しようとすると、さまざまな要因が重なって誤差が発生しやすくなる。自動車や建設機械などの自動運転において測位データは欠かせないが、データの誤差が大きいと信頼性と安全性に難が出る。
そこで登場するのが高精度測位だ。高精度測位では、人工衛星からの信号を補正するための情報を生成し、それを端末に送り込むことで誤差を修正する。
高精度測位における具体的な補正方法には、大きく以下の3つがあり、それぞれに長短がある。
地上に設置した固定式の「電子基準点(基準局)」で補正情報をリアルタイムに生成し、無線やデータ通信を介して測位端末に反映する。
この方式のメリットは誤差補正の精度が非常に高く、収束(初期補正)が短時間で完了することにある。誤差は数cmから10cmの範囲で収まり、特に測位の精度が求められる測量や農業機械/建設機械の運用に向いている。
一方で、基準局を固定(常置)しなければいけないため、全国をカバーするには大量の基準点を設置する必要があることと、移動が高速になると誤差が大きくなってしまう(≒高速移動する自動車や鉄道車両の測位には不向き)という点がデメリットだ。
複数のGNSS用人工衛星からデータを受信し、それをもとに演算することで誤差を補正する。
この方式のメリットは、基準局が不要であることと、無線やデータ通信の通じない場所でも使えることにある。そのため、船舶や航空機の測位などで使われる。
一方で、収束に時間がかかる(最長で30分程度)ことや、RTK方式と比べると誤差が10cm〜1m以内とやや大きめであることがデメリットだ。もっとも、1つの衛星だけに頼って測位すると誤差がさらに大きくなる(※)ことを考えると、十分に高精度といえる。
(※)測位する場所や気象条件によっては100m以上の誤差が生じる場合もある
PPP方式とRTK方式の両方を組み合わせた方式だ。収束時はサーバに自分の位置を通知する一方で、所在するエリアの基準局の補正データを取得する(RTK方式と同様)。その後、測位端末は移動に合わせてサーバから配信される補正情報だけを取得し、誤差を随時修正していく。
この方式では、測位端末は基準局のエリアをまたぐ度に自分の位置を送り直す必要がなくなるため、無線/データ通信量を削減できる。その上、基準局の設置台数が10分の1程度で済む。コスト削減と高速移動中の安定した測位を両立しやすいことが何よりのメリットとなる。誤差は数cm〜1m以内と、純粋なRTK方式より少し幅は大きくなるが、PPP方式と比べれば小さい。
KDDIは2021年2月、投資ファンド「KDDI Open Innovation Fund 3号」を通してSwiftに出資している(参考リンク)。今回の業務提携は、出資時に検討するとしていた「共同事業」を具体化したものとなる。
KDDIはSKYLARKに対応する独自基準局を全国に設置する他、高精度測位のユースケースの開拓と新しいビジネスを推進すべくSwiftと共同のビジネスチームを立ち上げる。
また同社は「KDDI DIGITAL GATE」(東京都港区)において高精度測位を活用したサービスを開発する企業と共同で実証実験やビジネス検討を行う。情報公開やツール/デバイスの提供といった開発者向けの支援活動も実施する。
先述の通り、自動車や建設機械などの自動運転には高精度測位は欠かせない。今回の取り組みが、自動運転を始めとする“位置”を活用したサービスの開発を加速させるかどうか、注目したい。
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