ITmedia Mobile 20周年特集

5G時代にMVNOはどんな進化を遂げるのか カギを握る「非スマホ領域」と「VMNO」ITmedia Mobile 20周年特別企画(2/3 ページ)

» 2021年07月29日 06時00分 公開
[堂前清隆ITmedia]

非スマホ領域にMVNOが活躍するチャンスがある

 このように、携帯電話業界が導入を進めている5Gは、携帯電話を含めた多様な無線通信の需要に応えるシステムです。実は、この5Gのコンセプトは、MVNOが現在抱えている課題の解決に相性がいいと考えられます。

 現在「格安スマホ」「格安SIM」として展開しているコンシューマー向けMVNOが抱えている課題の1つに、昼休みを中心とした一部時間帯における大幅な速度低下があります。この問題の一番の原因は、設備投資(キャリアから借り受ける設備の拡張)に十分な投資ができないレベルまでMVNOが価格競争を進めてしまったことですが、状況を悪化させている理由の1つに、コンシューマー向けMVNOの用途がスマートフォンに偏っていることがあります。

 MVNOの例として筆者が関わっているIIJmioモバイルサービスの時間帯ごとのトラフィック(通信量)をグラフで見てみると、午前8時台の通勤時間、12時〜13時の昼休み、夕方18時以降に通信量の増加が見られます。中でも最も激しいのが平日12時〜13時で、12時になった瞬間に急激に通信量が増え、13時を過ぎるとストンとグラフが落ちています。話を聞いていると、他のコンシューマー向けMVNOでも同様の傾向があるということです。これは昼休みになった学生や社会人が一斉にスマホを操作し始めるためだろうと想像しています。

 前述の通り、現在のコンシューマー向けMVNOではこの需要に応えられるだけの設備を用意できず、それが速度低下として現れています。その中でも各MVNOは、できる限り大きな容量の設備を確保して速度低下の緩和に当たっていますが、そこで新たな悩みが生まれます。

MVNO コンシューマーMVNOのトラフィックグラフ (イメージ)

 大きな容量の設備を借り受けることで昼休みの混雑は緩和できますが、その代わりに通信需要がさほどでもない時間帯においては、借り受けた設備が使われないまま余剰として放置されることになってしまうのです。これは、MVNOにとっては借り受けた設備の稼働率が低く、投資効率が悪いことを意味します。

 こうした状況に対する1つの策としてIIJが進めているのは、MVNOの利用者を「格安スマホ」以外にも広げる、通信の用途を多様化することです。スマホと異なる利用パターンの通信需要、できれば設備の余剰がある時間帯での通信需要を獲得できれば、スマホによる通信需要とその他の需要がうまく組み合わさり、設備の稼働率を向上させることができます。設備の稼働率が高くなれば投資もやりやすくなり、結果的に昼休みのスマホの混雑緩和にもつなげることができます。

 幸いにしてIIJはもともと法人向けの営業部隊がある会社であり、さらにMVNO以外にもクラウドなどのビジネスを行っています。こうした環境を生かし、法人向けにモバイル通信とクラウドを組み合わせた、いわゆる「IoT」サービスを強化しています。実際にIIJが提供するMVNOサービス全体の中でも、こういった法人向けIoTを中心とした非スマホ向けの回線数の伸びが大きくなっています。

MVNO IIJ 2020年第三四半期決算説明資料より。IIJでは法人向け回線が好調に伸びている

 前の節でも述べた通り、5Gではネットワークスライシングを核にして、これまでの携帯電話網がカバーしてこなかった需要にも対応する方針です。これはMVNOが進める通信用途の多様化と同じ方向を向いています。

 こうした非スマホ用途の通信需要は、その要求がさまざまです。IIJの法人向けモバイル回線で利用の多い「ネットワーク型監視カメラ」を例にすると、同じ監視カメラでも防犯用途、設備の監視用途、農業用途などによって映像を送信するタイミングや画質(データ量)などが変わってきます。そしてこれは監視カメラの用途によって通信サービスに対する要求が変わって来ることを意味しています。単に「監視カメラ用通信サービス」というような大ざっぱなくくりではなく、そのカメラをどのような用途で利用するか、それによってどういった通信が発生するのかをしっかりと想定して通信サービスのスペックを決めていく必要があります。

 しかし、機器の利用者やメーカーが無線網の特性を把握して通信サービスのスペックを決めることは難しいのが実際です。そのため、通信事業者のスタッフが最終的な需要を含めてしっかりとコンサルティングを行う必要が出てくるでしょう。

 もちろんキャリア自身もそういったコンサルティングの強化は行っていくでしょうが、これまで以上に多様化する需要に対して、キャリアだけで対応していくことは、案件の量的に困難になってくると思われます。こうした場面で、MVNOが通信の専門家としてキャリアと横並びの立場で活躍していけるのではないでしょうか。

 キャリア、利用者、機器メーカーの間に立ち、実際の用途に沿った通信サービスのスペックをデザインしつつ、スマホを含めたさまざまな通信需要を束ねて、一定容量の無線システムを高稼働率で運用する……そうした姿がMVNOの1つの未来のありようになるかもしれません。

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