ITmedia Mobile 20周年特集
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» 2021年05月28日 15時37分 公開

レッドオーシャン時代のMVNO市場を振り返る 「接続制度」と「公正競争」の行方は?ITmedia Mobile 20周年特別企画(1/3 ページ)

MVNOが登場した当初の市場はブルーオーシャンで、数々の事業者が参入しました。しかし、2015年ごろから市場の様相は変わり始めます。既存MVNOが対抗のために価格を下げ、市場はあっという間にレッドオーシャン化しました。

[堂前清隆,ITmedia]

 MVNOの振り返り企画の前編では、MVNOの誕生から、MVNOが提供する低価格なスマホサービスである「格安SIM」(格安スマホ)の隆盛までを取り上げました。

 2012年以前には存在しなかった「格安SIM」は2014年には230万回線超の契約を獲得するに至ります。格安SIMがわずか数年で急速に成長した要因の1つには、フルサービス・フル価格戦略に突き進む大手主導の携帯電話市場の中で、必ずしもフルサービスを必要としない消費者がいわば置き去りになっていたということもあるでしょう。

 ぽっかりと開いた低価格市場は、登場したばかりのコンシューマー向けMVNOにとってはまさにブルーオーシャンで、これまで通信事業に無関係だった異業種を含め、数々の事業者がMVNOに参入し「格安SIM」「格安スマホ」として営業を行うようになりました。

MVNO さまざまな事業者がMVNO市場に参入し、ユーザーは多くのサービスを選べるようになった

市場環境の変化で苦境に立たされるMVNO

 しかし、2015年ごろから市場の様相は変わり始めます。MVNOに参入した事業者はさまざまな背景を持っているとはいえ、そのビジネスの根幹は「大手キャリアから卸売りを受けた設備を小売りする」というものです。また、大手キャリアは原則としてどのMVNOに対しても同じ費用で設備を提供するため、MVNOにとっての最大のコストである「接続料」はどの事業者でも変わりません。

 そのため、新規参入したMVNOは利益を削ってエンドユーザー価格を下げるという販売手法を取ることが多く、既存MVNOも対抗のために価格を下げ、市場はあっという間にレッドオーシャン化しました。また、初期のMVNOを支えたITリテラシーの高いアーリーアダプター層へのMVNOの浸透が一巡し、市場拡大のためにマジョリティー層開拓に向かったMVNOは、目立つ広告や丁寧なお客さまサポートなど、市場開拓のための高いコストに直面します。中にはマジョリティー層開拓のための積極策が裏目となり、経営に行き詰まるMVNOも出てきました。

プラスワン・マーケティング 「FREETEL」ブランドでMVNOや端末の事業を展開していたプラスワン・マーケティングは、2017年12月に民事再生手続きをする事態となった。MVNO事業は同年11月に楽天モバイルが承継している

 しかし、それでも消費税の増税や長引く経済環境の低迷などを背景に、家計圧縮を求める消費者がMVNOへ移行するという流れは続きます。2018年に開催された「モバイルフォーラム2018」(テレコムサービス協会 MVNO委員会主催)では、有識者から「MVNO市場の成長は依然顕著で、これで市場が飽和していると言ったら他業種の人から怒られる」というコメントが寄せられました。

 ですが、MVNOにとって苦しい局面が続きます。

 この頃顕在化した課題の1つに、通信速度の低下に対する利用者の不満が顕著になったことがあります。スマホが高性能化し通信量が増えること、また、マジョリティー層への普及が進み、動画の視聴など大量の通信を行う用途がモバイル回線上で行われるようになったことにより、1回線あたりの通信量が徐々に増加します。

 初期にMVNOの利用を開始した高リテラシー層は、自宅では家庭用ブロードバンド回線とWi-Fiを使うなど回線の特性に応じた使い分けをしていました。しかし、マジョリティー層の多くはそういった器用な使い分けが苦手です。結果、通信需要の増加に設備の拡充が追い付かず、スマホの利用が集中する時間帯を中心に通信速度の低下が激しくなります。

 ここでMVNOが設備投資、つまり大手から借り受ける設備の大幅な拡充を進められればよかったのですが、激しい価格競争の中で利益を削ってきたMVNOには十分な体力がなく、現状維持で精いっぱいという状況が続きました。

 もう1つは大手キャリアの低価格市場への侵攻です。MVNOに顧客を奪われる形になったKDDIとソフトバンクは、系列の通信会社を通して低価格市場に参入しました。

 KDDIは、当初他事業者によるMVNOを支援するための子会社(MVNE)として立ち上げた「KDDIバリューイネーブラ−」を使い、系列ブランドである「UQ」を冠したMVNO「UQ mobile」を立ち上げます。UQ mobileは、別会社によるMVNOという立て付けではあるものの、KDDIがUQ mobile専用のSIMカードなどを持ち、KDDIグループの一員として戦略的な活動を開始します。

UQ mobile 2014年12月にKDDIバリューイネーブラー(KVE)が提供開始した「UQ mobile」だが、2015年に10月にUQコミュニケーションズがKVEを買収し、UQが提供することになった写真右はKVEの菱岡弘社長(当時)

 一方のソフトバンクは、買収したイー・モバイルの吸収過程で誕生したY!mobileブランドを使い、「格安スマホ」市場に分け入ってきました。イー・モバイル時代から展開してきた路面店や量販店のインストアショップなどを足掛かりに、実店舗での販売に力を入れます。従来MVNO向けの売り場だった大手量販店のSIMフリースマホ売り場に立てられた「SIMフリー始めました」というYahoo!ロゴの赤い旗は、まさに戦場で陣地を主張するフラグだと感じられました。

 こうしてUQ mobileとY!mobileは大手キャリアの「サブブランド」として、それまでMVNOの市場であった低価格帯で大きな存在感を示すようになります。

 また、それと並行するように、大手キャリアが独立系のMVNOを買収などの手段で傘下に収めるということも起りました。欧州など海外でも一定規模に成長したMVNOがキャリアに買収され、系列化されるような動きもありましたが、日本市場においても同様の現象が起きたのでした。

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