SIMロック原則禁止後の課題として浮上した「対応バンド問題」を考える(3/3 ページ)

» 2021年10月18日 12時21分 公開
[佐野正弘ITmedia]
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バンド拡大の課題はコスト、iPhoneの対応バンドが多い理由は

 それを一言で表すならば“コスト”ということになるだろう。そもそも多くのバンドに対応し、MIMOやキャリアアグリゲーションなど、高速化のための高度な技術に対応するとなると、アンテナなどの内部構成がどんどん複雑になって開発費の高騰、そして端末価格の高騰へとつながってしまう。また携帯各社のネットワークで快適に通信できるようにするには、単にバンドに対応していればいいというわけではなく、各社のネットワークでの試験も必要になってくる。

 実際、オープン市場で販売されている(従来の)SIMロックフリースマートフォンの多くは、携帯各社の相互接続性試験(IOT)を実施し、各社のネットワークとの相互接続を確認した上で販売されている。だが中にはIOTを受けずに販売されていたり、コストの問題もあって一部のキャリアのIOTを実施せず、「○○での利用は保証しない」とうたったりするケースも時折見られる。

対応バンド KDDIの「OPEN DEVICE DEVELOPER SITE」より。オープン市場で販売されているSIMロックフリースマートフォンのいくつかは携帯大手のIOTを受け、相互接続を確認した上で販売されているが、全ての端末がIOTを受けているとは限らない

 そしてバンド対応や試験を実施するのはあくまで端末メーカーなので、もし4社全てのネットワークで利用できる端末しか販売できないとなれば、その分のコストが上乗せされ、端末価格が大幅に値上がりしてしまう可能性が高いのだ。最近では行政による端末値引き規制の影響から2、3万円台の低価格スマートフォンが人気だが、そうした事態になれば価格高騰で低価格スマートフォンが市場から姿を消してしまう可能性もあるわけだ。

 ではなぜiPhoneが多数のバンドに対応しているのかといえば、それはAppleのビジネススタイルによる所が大きい。Appleは少数かつ高性能なiPhoneを大量に生産し、スマートフォンとしては比較的高い値段で世界各国に大量に販売し、高い利益を上げるというビジネスモデルを築いているため、逆に1つのモデルで多数のバンドに対応した方が効率がいいのだ。

 これをiPhoneより販売数が少なく、モデル数が多くて価格も安いAndroidスマートフォンを提供するメーカーがマネをすると、大幅な赤字を出してしまうことは目に見えている。だがそのiPhoneも、現在は米国向け、日本やカナダなど向け、中国向け、ロシア向け、欧州やアジアなどそれ以外の国々向け……と複数のモデルを用意しており、使われる周波数帯が増え、国による違いが出てきていることから1モデルで全世界のバンドに対応するのが難しくなっていることを付け加えておきたい。

対応バンド Appleの「iPhone 13」「iPhone 13 Pro」シリーズは米国向けモデルのみ5Gのミリ波(n258/n260/n261)に対応。日本などに向けたモデルとは違って、側面にミリ波用のアンテナ部分とみられる色違いの箇所が見られる

オープン市場が問題解決の鍵となるか

 またそもそも、同じスマートフォンを使い続けてキャリアを変えるというニーズがどれくらいあるのか? ということも、この問題を考える上では考慮すべきだろう。ただでさえ端末値引きが規制されているのに、公正競争追及のため端末価格が一層上がることは勘弁してほしい、という声も少なくないはずだ。それだけに全社のバンドに対応した端末を行政が求めるならば、乗り換えより安さを求める人達にコストをどこまで負担させるべきなのか? という議論も求められてしかるべきだろう。

 とはいえ全キャリアのバンドに対応した端末が欲しいというニーズが一定数存在することは確かなので、そうした声にどう応えるべきか? といえば、やはりメーカーがキャリア向けとは別に、そうしたニーズに応えるモデルをオープン市場で販売するのが現実解ではないかと筆者は考える。そうすれば乗り換えより価格を重視する人はキャリアから、価格より乗り換えやすさを重視する人はオープン市場から端末を購入するといったように、ユーザー側で目的に応じた選択ができるからだ。

 既にAppleだけでなく、シャープやソニーなどもオープン市場でキャリア向けより幅広いバンドに対応したモデルを販売している。そうした動きが国内でオープン市場向けモデルを販売していないサムスン電子などにも広がれば、ユーザー側の不満は解消されてくるのではないだろうか。

対応バンド ソニーは2020年より「Xperia 1 II」などキャリアで販売していたスマートフォンをオープン市場でもSIMロックフリーで販売。デュアルSIMの採用に加え、国内キャリアの主要周波数帯に対応させるなどしてネットワーク部分での差異化を図っている

 もちろん、オープン市場での販売は販路の確保やプロモーション、サポートなども自社でする必要があり、キャリア向けより販売数を見込みにくいこともあってメーカー側のハードルが高いのは確かだ。だが行政による“全キャリア対応”という圧力を抑えながらも、SIMロック原則義務化による市場の多様性に応える上では、そうした動きが広がることが期待されるところだ。

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