開発陣に聞く「Xperia PRO-I」 1型センサーで“高速・高精度”のカメラを実現した秘密とは（2/3 ページ）

[小山安博，ITmedia]

実は1型センサーをフルに使っているわけではない？

　1型センサーは、総画素数約2100万画素の1型Exmor RS CMOSセンサー。像面位相差AFセンサーを搭載し、最大秒60回の演算処理によってAF／AE追従で最大約20コマ／秒の連写性能を誇る。高速読み出しにより、高速で動く被写体がゆがんで写るローリングシャッターゆがみを抑える「アンチディストーションシャッター」も備えている。

　こうした高速性能を実現した1つの工夫が、有効画素数を1220万画素に抑えるというものだ。もともとXperia 1シリーズでは有効画素数を1220万画素でそろえており、それを踏襲した形ではあるが、八木氏は「1220万画素で得られるメリットがある」と強調する。

　それが連写などの画像処理やリアルタイム瞳AFといったスピード性能。1220万画素あれば、「一般的なA3サイズに300dpiでのプリントもできる」と八木氏。仮に2010万画素で撮影した場合と比較しても「A3プリントぐらいだとほとんど差はない」（同）としている。

　「解像度よりもスピード性能を担保する方が、ユーザーに提供する価値として大きい」（同）というのがソニーの判断だ。1型センサーの一番の価値として八木氏は、2.4μmという大型のピクセルピッチが実現できる点を挙げ、これによって大型センサーらしい感度の高さやダイナミックレンジの広さが可能になる、と話す。これを実現しつつ、スピード性能も両立させるための工夫が1220万画素の有効画素数なのだという。

1型センサーを登載することで、Xperia 1 IIIよりも大きな2.4μmのピクセルピッチを実現した

　八木氏自身も、「解像度が足りないという声もある」と認めつつ、Xperiaにおいては1220万画素で現状は十分であり、感度やスピードを担保する方が重要だという判断をしたとしている。

　2100万画素のセンサーから1220万画素分を使うことで、センサーサイズは1/1.31型相当のサイズになるが、2.4μmというピクセルピッチを実現していることで、1型センサーと同等の感度やダイナミックレンジとなる。ソニー製の「1型1220万画素センサー」がないため、ピクセルピッチが最大になる組み合わせといえる。

　ただし、このスペックはSamsung製のスマートフォン用センサーである「ISOCELL GN1」と同等だ。総画素数は5000万画素だが、ピクセルビニングの技術によって4画素を1つの画素として扱うことで、1250万画素・2.4μmのピクセルピッチになる。Pixel 6シリーズに搭載されたものとされているが、単純なスペックとしては同等になっている。

　これに対して八木氏は、「1220万画素にした一番の目的はAFと画像処理の性能」と改めて言及。ビニングをすることで画像処理に要する時間に影響があるのではないか、として、そうした処理が不要なXperia PRO-Iのセンサーのメリットを強調する。

1型センサーを登載しながら、Xperia 1 IIIと同等の撮影スピードを実現した

　ただ、「1型センサー搭載で有効1220万画素」と聞くと、センサーサイズが13.2×8.8mmの1型センサーをフルに使って1220万画素の有効画素数を実現しているように感じる。それがセンサーサイズとしては1/1.31型相当のエリアしか使っていないとなると、誤解を招く可能性もある。

　事実として、1型センサーを使っているのは間違いではない。その結果、2.4μmのピクセルピッチとなっている点も変わらない。異なるのは、おおむね「画素数が違う」という点だ。基本的に、センサー全体の画素数（総画素数）に対して、写真として使われる画素数（有効画素数）は少なくなるため、2100万画素が2000万画素ぐらいだったら問題にならないだろう。

　ソニーでは過去に「サイバーショットRX0」で同じセンサーを使って有効画素数を1530万画素に抑えたこともあって、その当時はそこまで問題視されていなかった。仮に同じセンサーを使って有効2010万画素と有効1220万画素で画質差があるかといわれるとないはずだ。センサーの中心部を使うため、同じレンズであれば周辺画質はむしろ向上するだろう。

　2010万画素と1220万画素の最大の違いは解像度で、細かい描写で差は出るが、スマホカメラでそれがどこまで重視されるか、1型センサーと同等の感度やダイナミックレンジで、1/1.7型センサーと同等の速度と機能を実現するという「バランスを取った」のが今回の仕組みだと八木氏。

　1/1.31型で有効画素数1220万画素のセンサーまたは1型1220万画素のセンサーが存在すれば、今回のような「1型かどうか」という問題はなかったかもしれない。ただ、現状は市場に存在せず、その分、変則的な製品となっている面は否めない。八木氏も、市場からの声には耳を傾ける意向を示している。