「iPad mini(第6世代)」で起きる「ゼリースクロール」とは? その原因を解説(2/2 ページ)

» 2022年01月02日 06時00分 公開
[島徹ITmedia]
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ゼリースクロールの原因をハイスピードカメラで考察

 ではなぜ、ゼリースクロールと呼ばれる現象が起きるのだろうか。そこには、液晶パネルの描画の仕組みが関係してくる。

 現在販売されている大半のiPadやPCはリフレッシュレート60Hzという、1秒間に画面全体を60回書き換える液晶パネルを採用している。人はリフレッシュレート60Hzの液晶パネルに、秒間60フレーム(60fps)で描かれたアプリや動画、ゲームなどの映像が表示されると滑らかに動いていると認識する。

 ちなみにiPad Proや、一部のゲーミングPCやゲーミングスマホで採用されている、リフレッシュレート120Hzや240Hzといった液晶や有機ELは、画面をより高速に書き換えることで秒間120フレーム(120fps)や240フレーム(240fps)のより滑らかな映像を表示できる。その代わりに、例えばゲームの場合は60フレーム(120fps)の2倍や4倍の映像を描画する必要が出てくるので、活用するには高性能なGPUが必要になる。

iPad mini(第6世代)ゼリースクロール iPad Proや最近のハイエンドスマホ、ゲーミングPCには、120Hzや240Hz対応の液晶や有機ELを搭載するものがある

 先ほどリフレッシュレート60Hzの液晶パネルは「1秒間に画面全体を60回書き換えられる」と説明した。では、液晶パネルはどのように画面を1回、1フレーム分を書き換えているのだろうか。人によっては、画面全体が同時に書き換わると考える人もいるだろう。だが、実はそうではない。

 リフレッシュレート60Hzの液晶パネルが、1フレームの画面を書き換えるタイムは、わずか約0.0167秒(1/60秒)にすぎない。そこで、実際の画面の書き換えプロセスをより高速なハイスピードカメラ(960fps)撮影で見てみよう。

スローで撮影したスクロール中の画面

 どうだろうか。この動画では約0.0167秒(1/60秒)の間に1フレームを書き換える瞬間を、約16コマの映像で捉えている。ちなみに、液晶の表示内容は8コマ程度で切り替わっているので、液晶パネルの応答速度はIPS液晶で一般的な8〜10msあたりとみられる。

 まず、一般的なiPadが縦向きの状態だと水平方向の描画は一瞬だが、画面の上端から下端へと約0.0167秒(1/60秒)の時間をかけて順に画面を書き換えていく。この場合、水平に並んだ文字や画像がズレて見えることはなく、ゼリースクロールだとは指摘されない。だが、ブラウザで画面を上下スクロールした場合にゆがんで見える現象は発生している。上下にスクロールすると画面が伸び縮みするように見えるのがそれだ。

iPad mini(第6世代)ゼリースクロール 一般的なiPadの、上スクロール中のハイスピード撮影。約0.0167秒(1/60秒)の間の中間地点で、画面上部の内容は上方向へスクロール済みだが、画面下部はまだ上方向へスクロールできていない。だが、文字の水平は保たれており画面がゆがんでいるという印象は受けない

 ではiPad mini(第6世代)の縦向き状態はというと、垂直方向の描画は一瞬だが、画面の右端から左端へと約0.0167秒(1/60秒)の時間をかけて順に画面を書き換えていく。この状態で画面を上にスクロールすると、約0.0167秒(1/60秒)の間に画面の右側の文字や画像は先に上へ移動し、左側の文字や画面はまだ下に残っているというズレが起きる。

 これが連続すると、人の目には水平に並ぶ文字や画像が斜めにゆがんでいるように見える、ゼリースクロールと呼ばれる現象を確認できるわけだ。

iPad mini(第6世代)ゼリースクロール iPad mini(第6世代)の、上スクロール中のハイスピード撮影。約0.0167秒(1/60秒)の間の中間地点で、画面右側の内容は上方向へスクロール済みだが、画面左側はまだ上方向へスクロールできていない。水平に並んだ文字が途中で上下に分断されており、これが連続するとゼリースクロールと呼ばれるゆんだ見え方になる

 なお、iPad mini(第6世代)で一般的なアプリの利用や動画を視聴する場合、画面が縦向きでも横向きでも表示内容がゆんでいるように見えることはまずない。肉眼では、画面1フレームを約0.0167秒(1/60秒)で書き換えている瞬間は見えない上に、1フレームごとの描画内容は止まった状態か、描画内容は不規則に書き変わることが多いからだ。

 ちなみに現行のiPad Proでも、画面が縦向きの状態でブラウザや画像のサムネイルを上下にスクロールすると、少しだがゼリースクロールと呼ばれるゆがんだ見え方になる。だが、iPad mini(第6世代)ほどゼリースクロールは目立たない。

 理由はリフレッシュレート120Hzの液晶を搭載し画面の書き換えが速く残像感も少ないことや、画面サイズが大きくあまり顔に近づけて見ない、画面の表示範囲が広く上下スクロールの頻度が少ない、横向きでの利用割合が多い、といった理由が挙げられる。

縦向きの画面スクロールのゆがみは慣れるしかない

 長々とした話になったが、シンプルに言えばどのiPadもブラウザなどで上下スクロールすると、文字や画像の並びがゆがんで見えるゼリースクロールと呼ばれる現象は起きる。だが、多くのiPadでは横向きの状態で起きていたのであまり話題にはならなかった。だが、今回のiPad mini(第6世代)ではよく利用する縦向きの状態で起きる設計なので、このゼリースクロールと呼ばれるゆがみが話題になったわけだ。

 これまでiPad miniを横向きにして使っているという人には問題ないが、大きいiPhoneという感覚で縦向きにして使っている人だと、このゆがみは確かに気になるだろう。確かに今回のモデルは横向きでの動画の視聴機能が強化されたモデルだが、画面サイズの小さいiPad miniに関しては、従来通り縦向きでは画面のゆがみが気になりにくい設計のままの方がよかったのではないだろうか。

iPad mini(第6世代)ゼリースクロール AppleのiPadのサイトでも、iPad mini(第6世代)のメインカットは他のモデルと違い、縦向きのイメージとなっている

 ではどうやってゼリースクロールに対処すべきかというと、そういったものだと我慢して使う、正確な画面スクロールを心掛ける、横向きでの利用割合を増やすぐらいしかない。この問題はiPad mini(第6世代)にどのような液晶パネルの設計を搭載したかという問題なので、ソフトウェアアップデートでの解決は難しいだろう。アプリごとに画面スクロールの描画を不規則にする手もあるが、わざわざ手間をかけるアプリメーカーはないだろう。

 8型前後のタブレットは、他にライバルとなる圧倒的な性能と高コスパを両立したライバル機種がないだけに、このクラスの製品が欲しい人はゼリースクロールを知った上でもiPad(第6世代)を買わざるを得ない。次善の策は、以前のiPad mini 5を中古などで購入するぐらいだ。次期iPad miniやminiの上位モデルに期待しようにも、もともと2年半周期で投入されている製品なので、短期的な状況の変化は期待薄だろう。

 とはいえ、このゼリースクロールが気になるのは縦向きでのブラウザの利用や、写真のサムネイルを上下スクロールしているときぐらい。動画視聴やゲームを楽しむ分にはほぼ問題ないので、そこは安心して活用してほしい。

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