ITmedia Mobile 20周年特集

「携帯電話ショップ」の20年を振り返る 2000年代に最盛期も“冬の時代”を迎えた理由ITmedia Mobile 20周年特別企画(2/4 ページ)

» 2022年01月18日 11時00分 公開
[迎悟ITmedia]

2010年代前半:売り手側にスキルが求められる「スマホ時代」に

 大きな苦労をせずにどんどん携帯電話が売れていった2000年代でしたが、そんな楽だった時代もいつしか終わりを迎えます。きっかけは「スマートフォン」です。

 とはいっても、楽だった時代の終わりを告げたのは2008年に登場した「iPhone 3G」ではありません。販売現場の視点から見ると、むしろ大きなターニングポイントとなったのは、2010年に入ってラインアップが充実していくAndroidスマートフォンです。

 2010年代の初頭には、携帯電話の契約回線数は(データ通信専用回線や機械間通信用回線の契約数を含めると)「1人1台」が見えてきました。ここまで携帯電話が普及すると、ケータイ(フィーチャーフォン)も完成度的な意味で“飽和”状態です。

 そこで注目されたのがiPhone……ではなく、Androidスマートフォンでした。というのも、話題性とソフトバンクモバイル(当時)の販売戦略が手伝ってiPhone 3Gは確かに売れたのですが、メールの使い勝手の悪さやケータイ向けに最適化されたサービスに対応していないことから、iPhoneの購入を諦めたり、iPhoneからケータイに出戻るユーザーも少なからずいたのです。

iPhone 4 2008年にiPhone 3G、2009年にiPhone 3GS、2010年にiPhone 4が発売されました。「とてもよく売れた」と記憶している人も少なからずいると思いますが、一方で「ケータイでできたことができない」という理由でケータイに戻るユーザーも少なからずいたものです

 それに対して、Androidスマホはおサイフケータイ(モバイルFeliCa)、ワンセグや防水や防塵(じん)に対応するボディーなど、ケータイのハードウェア的な特徴を引き継いだ機種が多くそろいました。さらに、キャリアメールもケータイから引き継いで利用しやすい環境が整えられました。「ケータイからの買い換え」に特化するなら、Androidスマホの方がiPhoneよりも断然相性が良かったのです。

 事実、ケータイと同じような機能を備えるAndroidスマホは人気を集め、筆者が当時勤めていた店舗では数千台の予約を集める機種もありました。こうなると当然、在庫を確保できたとしても一気に販売することは困難です。そこで、お客さまを複数のグループに分けて、発売日から数日を掛けてご案内(販売)していました。

IS03 Androidスマホとして初めておサイフケータイを搭載したauの「IS03」(シャープ製)は2010年11月に発売されました。ワンセグにも対応しており、これを機にケータイからスマホへ乗り換えるユーザーが相次いだのですが……

 一方で、最初期のiPhoneやAndroidスマホは不具合が多く、特に一部のAndroidスマホは販売後に「クレーム」を複数受けることも珍しくありませんでした。ケータイとは異なり、スマホはユーザーによって使い方が大きく異なり、利用するアプリも多種多様です。ゆえに店舗では不具合の根本的な原因を特定することが難しいこともありました

 「別のアプリを使ってみてください」「スマホの電源を入れ直してみてください」と、お客さまにお願いはしてみるものの、それで解決するなら“良い方”でした。機種によっては「なんでこんなに同じ不具合が起こるのだろうか?」というほどに同一症状の申告が相次いだこともありました。

 このような状況でもスマホは徐々に売れ行きを伸ばし、ラインアップも拡充されていきました。当初はモデルチェンジの度にスペック(特にプロセッサのパフォーマンスとバッテリー持ち)が大きく改善される傾向にあったため、このような「不具合」を根本的に解決するには、「より新しくて、よりスペックの高いスマホに買い換えてもらう」という手が一番手っ取り早かったのも事実ではあります。

2012年頃 2012年4月頃のとある併売店の様子。売り場のメインはケータイからスマホになりました。当時、ドコモはiPhoneを取り扱っていなかったので、Androidスマホに依存せざるを得ない状況でした

 ただ、そうなってくると問題になるのは店員の知識です。ケータイの場合、同時期に発売される機種とシリーズなら、機能面での差はほとんどありません。キャリアにもよりますが、機能面の差は、おおむねシリーズの差と一致していたので、ある意味で覚えやすくはありました。

 しかしスマホの場合、同じシリーズに属していても、おのおのの機種が備えるプロセッサ、メインメモリや内蔵ストレージの容量、OSのバージョン……といったスペックが異なることが珍しくありません。料金プランやサービスの多様化も相まって、覚えるべきことが大幅に増えてしまったのです。

 「そんなの全部覚えればいいだろ」と思う人もいるかもしれませんが、半年〜1年ごとにモデルチェンジを繰り返すスマホは、新機種が出るごとに“覚え直し”を求められます。プランやサービスの新設や内容変更については、平均するとスマホほどハイペースな変更はない……と思いきや、随時キャンペーンが始まったり終わったりするため、そのことも頭に入れなければいけません。

 いろいろな知識を随時インプットしながら業務に当たる――これは全員が全員こなせるものでもありません。これにより売り手の育成が追いつかなくなり、現場から人が減っていき、新たに募集しても集まりづらくなっていきました。

「キャッシュバックとノルマに追われる」を過ごす店員

 ケータイに代わって携帯電話販売店の“主力”となったスマホですが、その販売を支えたのが安売りです。携帯電話の普及期のように「本体代金0円」といったような大幅に値引くキャンペーンが多数実施されるようになりました。

 ただ、既に携帯電話は回線数ベースで「1人1台」と普及が進んでいます。初めて携帯電話を持つという人はほとんどいません。そこで大きく取り上げられたのがMNP(携帯電話番号ポータビリティー)です。

 MNPを使ってキャリアの乗り換えをする場合、電話番号自体はそのまま引き継げますが、キャリアメールのアドレスは変わってしまいます。さらに、2〜3年の定期契約の契約解除料(解約金/違約金)、家族割引といった「囲い込み」が大きなハードルも複数存在します。ユーザーの重い腰を上げるには、面倒さを超えるメリットを提供するしかありません。

 そこで登場したのがキャッシュバックです。当初は端末代金の大幅値下げから始まり、「MNP契約なら、5〜6万円する本体代金を無料!」といった感じでした。やがて「他社の解約金やMNP転出手数料相当額(1〜2万程度)の現金(または商品券)を進呈!」と乗り換えに掛かるコストを補塡(ほてん)する形で還元総額が大きくなり、「家族でMNPした場合は追加で○万円プレゼント!」といった感じでエスカレートしていくことになります。

 このように、キャッシュバックがどんどん加熱した背景には、キャリア同士の顧客獲得競争販売店同士の顧客獲得競争の絡み合いがあります。端的にいえば「よそには負けられない!」という意識が、キャッシュバックの“積み上げ”につながってしまったのです。

マイルドな方 MNP契約限定で端末を割り引く光景。この写真はある店舗で2014年に撮影したもので、本来は約4万円(税込み)する「Nexus 5」の16GBモデルをイー・モバイルへとMNP契約すると9800円(同)で買えるというものです。これはまだ“序の口”で……
ある店舗 別店舗では、au(KDDI)の「ARROWS Z FJL22」がMNP契約で一括0円の上、2万9000円の現金キャッシュバックも受けられました。MNP転出手数料や解約金を満額支払ったとしても、1万円程度の「黒字」になるキャッシュバックです

 ただ、キャッシュバックの額を大きくするためには、台数をより多く売って(≒MNP契約をより多く獲得して)、キャリアからのインセンティブ(販売奨励金)をより多く得ることが欠かせません。

 過去に筆者の連載でも触れたことがありますが、インセンティブは携帯電話販売店(代理店)にとって重要な収入源の1つで、利益を得る手段であると同時にユーザーに対する割引の原資にもなります。当時、MNP契約による顧客獲得には、インセンティブが通常の新規契約よりも“傾斜”して支払われていましたので、インセンティブの多くをキャッシュバックに費やしても、MNP契約をたくさん獲得すれば利益をそこそこ確保できたのです。

 ユーザー視点に立つと、2010年代前半は、2000年代と同様に端末を安く購入できるだけでなく、お金までもらえてしまう「良い時代」になりました。しかし、販売店サイドからこの現象を見ると、近隣店舗に“負けない”ようにキャッシュバックを設定するために、かつてと比べてノルマ達成やインセンティブ獲得が“重く”のしかかる「厳しい時代」になったともいえます。このことも、販売員のなり手が不足するようになった原因の1つです。

16万円 筆者が販売員として扱ったキャッシュバックの例。1つの契約(回線)に対して16万円の現金還元を行うことはさすがにめったにないことでしたが、数万円程度の現金還元であれば“日常茶飯事”でした

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