2001年から2021年までの20年間のうち、少なくとも2019年の電気通信事業法の改正までは「携帯電話は0円で買える」という前提での商流がメインでした。今でも一部の旧機種やエントリーモデルなら0円で買えないことはありませんが、前に買ったスマホがハイエンドモデルだとすると「グレードダウン」は否めません。「じゃあ同じグレードで買い換えを」と考えると、端末の定価が10万円を超えていて、買い換え意欲がそがれてしまいます。
スマホが以前のように急激なスペックアップをしなくなり、OSのバージョンアップを複数回行う機種も増えた現在では、端末価格の高騰も相まって「機械として壊れるまでは同じ機種を使うか」という判断にもなりがちです。
キャリアも手をこまねいているわけではありません。少しでも端末を購入しやすくするために、残価設定型の分割払いや、端末返却を前提とする端末購入プログラムを導入しました。これらには2〜3年でスマホを買い換える前提なら、実質的な負担額を抑えられるという大きなメリットがあります。法改正で「通信契約と端末販売の分離」が進んで通信料(月額料金)自体が安くなったことと合わせて考えると、2〜3年で端末を返すことを受け入れられれば、法改正前のプランで使うよりもむしろ安く最新のハイエンドスマホを持てるようになりました(選ぶ機種が高価すぎる場合は別ですが……)。
ですが、長らく「タダ」ともいえる販売が続きそれが当たり前だった市場に、新しい販売方法が根付くのには時間を要します。ゆえに、携帯電話販売員(あるいは販売店)にとっての「冬」はまだ続きそうです。
この「冬」によって、専売店や併売店の減少、家電量販店における売り場面積削減やキャリアショップの統廃合が進んでいることは、先に触れた通りです。筆者の生活圏では、大型スーパーマーケットにテナントとして出店する併売店が幾つかあったのですが、2019年10月以降は撤退が相次いでいます。ロードサイド(幹線道路沿い)にある家電量販店でも、携帯電話コーナー自体が存亡の危機に立たされている店舗があります。東京都心に比較的近い場所ですらこのような状況なので、地方ではもっと厳しい状況にある地域もあると思います。
宮崎県えびの市は2021年8月から、3つの大手キャリアと協力して「携帯電話臨時ショップ」を開設する取り組みを行っていますが、これは自動車で1時間以上移動しないとキャリアショップがないという地域事情が背景にあります。一応、同市内には家電量販店も1つありますが、この店から携帯電話コーナーがなくなったら、市内で携帯電話を買える場所もなくなるということでもあります。
「そんなのオンラインで買えば(契約すれば)いいじゃないか」と思う人もいるでしょうが、そもそもオンライン(インターネット)にアクセスするためのデバイスを持っていない人がどうやってオンラインで契約すればいいのでしょうか……? 「使い方の相談ぐらいなら電話でもできるのでは?」と考える人もいるでしょうが、対面で対応した方が手っ取り早いことも少なからずあります。
ネットにつなぐ手段を持たない人、あるいはうまく使いこなせない人がいる以上、携帯電話販売店を全廃することは現実的ではありません。筆者個人の考えですが、スマホやインターネットの“困りごと”を解決できる場所として存続を図るのはアリだと考えています。
「スマホも使いこなせるし、困った時は自力でなんとかできる」という人にとっても、店舗があることはメリットとなり得ます。規模にもよりますが携帯電話販売店には「ショールーム」としての機能もあるからです。
あくまでも主観ですが、販売店で新しいスマホを触るとワクワクします。活気にあふれる携帯電話コーナーを見ているのも大好きでした。購入する際も、販売店ならオンラインで買ったものが届くのとは違った“喜び”を感じられます(なので、販売の第一線から退いた後も、携帯電話は極力店舗で買うようにしています)。新しい機種を購入したお客さまが嬉しそうに帰っていくのを見送るのは、筆者の仕事上の楽しみの1つでした。
ですが、最近は閑散とした携帯電話コーナーや販売店の姿を見ることの方が多く、とにかく寂しい気持ちになることが増えています。スマホやインターネットの困りごとを解決できる場所として、気軽に新しい携帯電話を買える場所として、賑やかな売場をそこかしこでまた見られるようになることを願うばかりです。
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