おサイフケータイはもともと、フィーチャーフォン用の機能として開発されたものだが、auで発売されたシャープ製の「IS03」でスマートフォンにも移植され、今ではキャリアモデルのスタンダードな機能になっている。国内メーカー、海外メーカー問わず、一般的な機能といえる。
一方で、オープンマーケットではコストの都合や、実装にハードルがあり、なかなか採用が進んでいなかった。こうした流れを変えたのは、スマホのアクセサリーメーカーであるトリニティが2017年に発売した「NuAns NEO[Reloaded]」や、OPPOが2019年に発売した「Reno A」だ。日本向けの特別モデルとして開発されたReno Aは、オープンマーケットでの評価が高く、手ごろな価格帯と相まって販売も好調だった。
そんなOPPOに対抗する形で、同じ中国メーカーとして日本に新規参入したXiaomiも2021年に発売した端末からおサイフケータイに対応を始める。当初はキャリアモデルのみの展開だったが、同年7月に発売した「Mi 11 Lite 5G」でオープンマーケットモデルがおサイフケータイに対応。2022年には、「Redmi Note 11 Pro 5G」も同様の形で、グローバルモデルをベースにFeliCaを搭載した。
また、2018年にGoogleのPixelが日本に上陸した際にも、「Pixel 3」および「Pixel 3 XL」はおサイフケータイに対応していた。以降のPixelは、廉価モデルに位置付けられるaシリーズも含め、日本版は全てFeliCaをサポートしており、Google自身もプラットフォームとしての「Google Pay」でFeliCaベースのサービスを提供する。2021年には、ASUSや中国のスタートアップであるUnihertz(ユニハーツ)も、日本市場向けのモデルに初めておサイフケータイを載せた。
キャリア向けモデルでノウハウがあり、当初からおサイフケータイに対応していたシャープやソニー、FCNTを含め、今ではオープンマーケットの端末でも、FeliCa搭載やおサイフケータイ対応が当たり前になりつつある。一定以上のシェアを持つメーカーに限定すると、モトローラは最後発だった。松原氏も「日本でFeliCaや防水は重要であるということは、常にグローバルの研究開発とし続けていた」としながら、検討を重ねてきたことを明かす。
では、なぜここ2、3年でおサイフケータイ対応のオープンマーケットモデルが急増しているのか。背景には、キャッシュレス決済需要の高まりや、オープンマーケットの市場規模拡大、さらにはFeliCa側の技術的な進展で対応のハードルが下がっていることがある。モトローラがmoto g52j 5Gを投入できた理由も、ここから考察することが可能だ。
キャッシュレス決済に関しては周知の通りで、政府の掛け声のもとで、2020年ごろから急速に普及が進んでいる。キャッシュレスの中にはもともとシェアの高いクレジットカードが含まれている他、PayPayをはじめとするQRコード決済やクレジットカードブランドのNFC決済といった“ライバル”も登場した一方で、ICカードやフィーチャーフォンの時代から決済インフラが整っていたFeliCaの利用も、キャッシュレス化の波に乗り、着実に伸びている。
調査会社インフキュリオンが5月25日に発表した「決済動向2022年4月調査」では、QRコード決済がFeliCaでの決済を初めて上回ったことが話題になった一方で、FeliCaの利用率も2020年ごろから大幅に伸びていることが分かる。1年前との利用増減比較を見ても、7%が「かなり増えた」、26%が「増えた」と回答しており、「減った」はわずか7%にとどまる。FeliCaにはICカードも含まれるため、これだけで断定はできないが、政府のキャッシュレス推進を機に、おサイフケータイをはじめとするFeliCaのユーザーが増えたといえる。
電子マネー推進検討会が2021年8月に発表したユーザー調査では、スマートフォン所有者のうち、84.1%の端末がFeliCaを搭載しているという。利用率は、44.4%。内訳を見るとiPhoneが24.3%で影響も大きいことが分かるが、Androidも18.7%、iPhoneとAndroidの両方で利用するユーザーも1.4%と、プラットフォームのシェアに近い数値が出ている。対応端末を持つユーザーのうち、半数弱がFeliCaを利用しているというわけだ。ここまで普及や利用が進むと、FeliCaに非対応なことは販売時のネガティブな要因になる。
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