通信障害の再発防止には限界も 緊急時の「ローミング」と「SIMなし発信」は実現するか:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)

» 2022年07月09日 11時03分 公開
[石野純也,ITmedia]
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再発防止には限界も、起きたときの被害を最小限にするには

 現時点では原因究明が終わっていないこともあり、再発防止にどのような手が打てるのかは不透明だ。ただ、少なくとも想定していた通りにネットワークが復旧できなかったのは事実。どうすれば大規模かつ長期に渡った通信障害を防げたかは、知見を業界内で共有する必要がある。

 ただ、再発防止といっても、限界はある。いくら今回の通信障害の原因が判明し、再発防止策を打てたとしても、別の理由で障害が起こる可能性をゼロにはできないからだ。例えばドコモは、先に述べた2021年10月の通信障害の後も2022年2月に通信障害を起こしている。このときの理由は「IPv6シングルスタック方式」の導入に伴い、サーバの負荷が増加したこと。5時間弱で、影響人数は約1万8000人と規模は小さかったが、影響は全国に及んだ。

KDDI 2022年2月に起きたドコモの通信障害は、IPv6シングスタック方式の導入時にサーバの負荷が高まったことが原因だった。一口に通信障害と言ってもその発生理由はさまざまで、ゼロにするのは難しい

 機器やシステムはいつか必ず止まるという前提に立ち、通信障害が起こってしまったとき、ユーザーの被害を最小限に食い止める方法を考えておくことが重要だ。政府が主にKDDIの周知、広報体制を問題視しているのも、通信障害が起こった事実や、復旧までのプロセスが見えず、ユーザーの間に混乱が広がったからだろう。他社と比べて極端に周知の仕方に非があったようには見えなかったものの、この点は業界を挙げ、何らかの方法論を確立しておくべきだ。

KDDI 金子恭之総務大臣や木原誠二官房副長官からは、周知や広報の体制が批判された。写真は金子総務大臣

 ここから一歩踏み込んで、通信障害時に事業者間でローミングができないのかという意見も出ている。ただ、ローミングが有効なのは、基地局などのRAN(Radio Access Network)が機能しない場合に限られる。KDDIの通信障害は、VoLTE交換機やHSSが原因のため、他社のネットワークにローミングしたくてもできなかった可能性が高い。ローミングが有効なのは、主に基地局側が被害を受けやすい地震や台風などの災害時に限定される。

 また、ローミングは受け入れ側の負荷が大きすぎるのも課題だ。今回の通信障害は、冒頭で述べた通り、最大で約3915万回線に影響が及んだ。この回線数を受け入れられるキャリアがあるのかというと、そこには疑問符がつく。無線の帯域が不足してしまったり、コアネットワーク側のキャパシティーを超えてしまったりすれば、自社のユーザーにも影響が及んでしまう。

 より現実的なのは、最低限の対策として、緊急通報のみ受け入れるというものだろう。こちらの方が、技術的なハードルは低い。既にSIMカードなしで、他社のネットワークにつないで緊急通報する仕組みが標準化されているからだ。SIMカードを挿していないスマートフォンに、「緊急通報のみ」と表示されているのを見たことがある人はいるかもしれない。米国や欧州などでは、この機能を利用し、緊急通報を発信することが可能だ。

KDDI スマートフォンには、SIMカードが入っていない場合でも緊急通報を発信できる機能が備わっている。標準化もされており、欧米などで利用されている

 一方で、日本では制度上、緊急通報を受け入れる側からのコールバックが必須になっているため、SIMカードが入っていない端末からは緊急通報をすることができない。東日本大震災後には、こうした形で通信を確保する案も検討されていた形跡はあるが、やはりコールバックが課題として挙がっていた。10年以上たった今でも実現できてない理由も、ここにある。

KDDI 緊急通報に限って他社のネットワークを利用する案は、東日本大震災後にも議論されていたが、いまだに実現していない。画像は「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について 最終取りまとめ」

 実はこのSIMなし発信は、キャリアの間でも再び議論の対象になっているという。KDDIの吉村氏は、「昨年末ぐらいから検討会がスタートした」としながら、「災害対策を強靱(きょうじん)化するための検討項目の1つに入っている」と語る。ドコモも広報担当も、その事実を認めた。コールバックがない仕組みを警察や消防などが認めるかという点は課題だが、通信障害に関しては災害対応より短期で収束するケースが多いこともあり、検討の価値はある。KDDIの通信障害がけがの功名となるか。議論の進展に期待したい。

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