既報の通り、HTC NIPPONが新型スマートフォン「Desire 22 pro」を10月1日に発売する。
Desire 22 proはプロセッサにSnapdragon 695 5Gを採用したミッドハイレンジモデル。メタバースエコシステム「VIVERSE」に対応し、VRグラス「VIVE Flow」と組み合わせて、VRコンテンツなどを楽しめるのが大きな特徴となっている。
単体での価格は6万4900円(税込み、以下同)。VRグラス「Vive Flow」とのセット価格は11万4900円となっている。
既に台湾や欧州などで販売されているが、日本市場にスマートフォンが投入されるのは約4年ぶりとなる。なぜHTCがこのタイミングでDesire 22 proを日本市場に投入するのか。その狙いをHTC NIPPONの代表取締役社長 児島全克氏と、ヴァイスプレジデント 川木富美子氏が9月1日の発表会で語った。
製品そのものの魅力についてお伝えする前に、HTCのこれまでの歩みをかんたんに振り返ってみたい。
HTCは台湾を拠点とするスマートフォン・携帯情報端末メーカーで、創業したのは今から約25年前の1997年5月15日。GoogleのAndroidが登場した当時、いち早くその発展に向けてAndroid端末をリリースしたのはHTCだった。日本では2009年7月にNTTドコモ向けの「HT-03A」を発表。それ以降もauと共同開発した「HTC J butterfly HTL21」(2012年12月発売)など、キャリア向けのモデルを投入した。
その後、日本のSIMフリー市場向けには、ミッドレンジクラスに相当するDesireシリーズとして「HTC Desire EYE」「HTC Desire 626」を2015年にリリース。ハイエンドクラスに当たるUシリーズとして「HTC U12+」を2018年に発売した。そこから約4年もの空白期間(ブランク)が開き、その間、ラインアップが更新されることはなく、モバイル関連でメディア向けに会見を開くこともなかった。
日本でなぜここまで空白期間(ブランク)が開いてしまったのか? その理由を児島氏はこう話す。
「グローバルではコンスタントに製品を投入していたが、日本市場へ投入できるほどの“尖った”特徴を持つ製品がグローバルで出せていなかった」
「単にグローバルモデルをベースにしたモデルを日本市場に投入しても、日本市場で求められているニーズを満たせないと踏んだ」
そんなHTCが今回、日本のSIMフリー市場向けに投入するDesire 22 proはミッドハイレンジモデルとなる。同じSnapdragon 695 5Gを搭載した製品(下記)は他のメーカーからも販売されており、HTCの競合となるメーカーや製品は多い。特に近年ではコスパを武器にするOPPOやXiaomiがその存在感を強めている。
このタイミングから競合がひしめく中で、HTCがどう戦っていくのかが気になるところだが、差別化要素を出すべく既に日本市場で販売されている製品にはない特徴をDesire 22 proに盛り込んだのだという。
それがVRグラスVIVE Flowと、メタバースエコシステムVIVERSEとの連携だ。発表会では、児島氏だけでなく川木氏もVIVE Flowとの組み合わせによる体験価値をアピールしていた。
VIVE Flowはメガネのように折りたたんで持ち運べる小型VRグラスで、度数を調節できることからメガネと併用しなくても済むのが特徴の1つになっている。
一見すると、他のVRグラスと見た目に大きな差はないのだが、他製品との大きな違いとなるのが操作方法だ。VIVE Flowにはコントローラーが付属せず、ハンドトラッキングにも対応しない。その代わりにAndroidスマートフォンと接続して、Androidスマートフォンをコントローラー化できる。
他にも、Desire 22 proのディスプレイに表示した静止画や動画などを、VIVE Flowに映し出せる「Miracast(ミラキャスト)」や、デジタル信号を暗号化して不正コピーを防止する技術「HDCP」によって、Desire 22 proで起動したNetflixなどのコンテンツをVIVE Flowでも楽しめる点が特徴となっている。
VIVERSEはWebブラウザで起動可能なHTCのメタバースエコシステム。PC、スマートフォン、タブレットからアクセスし、ユーザーがアバターに紛して会話したり、ゲームやバーチャルコンサートを楽しんだり、アート鑑賞をしたり――といったことが可能だ。
こうした各特徴を併せ持つVIVE Flow、VIVERSEがあったからこそ、HTCはDesire 22 proとの親和性をアピールできると感じる。Desire 22 proをリリースできた直接的な理由ではないが、児島氏は発表会で「メタバースを体感できるデバイスがDesire 22 proでもいいのではないか」と話していた。
HTCとしては「VIVE Flowを使って体験できるメタバースの世界と、スマートフォンやPCだけでも楽しめるVIVERSEの世界」の両方を訴えたいようだ。
一方で、その訴求力は足りない、と感じてしまう部分もあった。HTCはニュースリリースでも「Desire 22 proとVIVE Flowを組み合わせて使うことで、リラクゼーションやパーソナルシアターなど、あなたの自分時間がさらに進化します」と表現している。発表会でも川木氏が自分時間というワードを用いて製品説明を行った。
……が、その文言だけでは魅力は到底伝わりきらないだろう。ニュースリリースを読んでもいまいち魅力が伝わってこなかった。
発表会の冒頭で児島氏がアバターに扮して挨拶する、という演出があったが、スクリーンにキャラクターが表示されているだけだ。コロナ禍でメタバースにて会見を開く企業は増えているし、Desire 22 proのプレゼンテーションパートを記者がメタバース上で視聴でき、現実世界(リアルの場)で製品に触れられる機会を設ける方が、Desire 22 proの発表形式に相応しかったのではないか? と感じるところだ。
先進性を追い求めたい人、あるいはそれを既に仕事と捉えている人などにとっては、メタバースが常識なのかもしれないが、そうでない人にはまたまだ浸透しきれていないのが現状である。実際、MMD研究所が実施した「メタバース(仮想空間)に関する調査」によると、56.6%がメタバースを全く知らず、「その名を聞いたことがあっても、サービス内容は知らない」が19.5%だ。
Desire 22 proもVIVE Flowも体験してこそ価値が分かるはずなので、一般ユーザーが実機に触れる機会(タッチ&トライの場)が増えていくといいだろう。
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