既報の通り、米国で発売されたiPhone 14シリーズにはSIMスロットがない。米国では賛否両論あるようだが、eSIMのみでSIMに非対応というのは非常にアグレッシブ。楽天モバイルのオリジナルブランドモデル「Rakuten mini」や「Rakuten Hand」「Rakuten BIG」などもeSIMのみの端末だが、Appleのようにシェアの大きなメーカーが採用した仕様としては異例といえる。それを実現する上でも、eSIM クイック転送のような機能は欠かせなかったはずだ。
実際、9月7日(現地時間)に開催されたAppleの発表会では、SIMスロットがない仕様は、AT&TやVerizon、T-Mobileといった米キャリアとの協力で実現したことが明かされていた。スマートフォンにいち早くeSIMを採用したAppleは、キャリア以上にこの仕組みに積極的なことがうかがえる。将来的には、米国以外への採用を働きかけていくと見ていいだろう。ドコモやソフトバンクの対応次第では、日本版も、次期iPhoneでSIMレスになる可能性はある。
面白いのは、eSIM クイック転送を使って、物理SIMからeSIMにiPhone間で変更できてしまう仕掛けだ。発想としては、Suicaのカードを吸い出し、Apple Payのウォレットに登録できる仕組みに近い。これを機にeSIMに変えてみようと思う人は確実に増えるだろう。現状では、まだ一部のユーザーしか利用していないeSIMだが、eSIM クイック転送が普及の起爆剤になる可能性もある。既にこの機能に対応しているKDDIや楽天モバイルでは、eSIM比率が高くなるはずだ。
ただ、eSIM クイック転送の仕様がオープンになってないため、現状ではiPhoneを正式に取り扱いがないキャリアが対応することができない。例えば、eSIMを採用しているMVNOは、現状、全社eSIM クイック転送に非対応。フルMVNOでeSIMを提供するIIJmioや、ドコモからeSIMを借りる日本通信、KDDIのeSIMを採用するmineoは、全て手動でプロファイルを転送する必要がある。競争環境的には不利になりうるため、MVNO側から反発の声が挙がることも予想される。
プラットフォーム内への囲い込みが進んでしまうリスクもはらむ。iOS同士だとeSIMの移行がしやすく、そうでないと大変になってしまうと、iPhoneにユーザーをとどめておくための手段になるからだ。SIMカードであれば、iPhoneであろうが、Androidであろうが、基本的には挿すだけで機能する。ユーザー視点では、機種変更の自由度や利便性がSIMカードより下がってしまうというわけだ。Androidが同様の機能を採用した後の話にはなるが、長期的な観点では、プラットフォームの垣根を超えた標準化が進むことを期待したい。
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