楽天モバイルに対するプラチナバンド割り当てる際の議論が、ユーザーを巻き込んで物議をかもしている。発端となったのは、10月1日の電波法改正。これにより、特定のケースで、各キャリアが現在利用中の周波数を手放すことを余儀なくされる。周波数が有効利用されていない場合や、楽天モバイルのような後発事業者が手を挙げた場合、電波の公平利用のために再編が必要と見込まれた場合などが、これに該当する。この制度には、いわゆるプラチナバンドと呼ばれる700MHz帯から900MHz帯の周波数も含まれる。
この制度を使ってプラチナバンドの獲得を目指しているのが、楽天モバイルだ。一方で、再編に伴う期間や費用負担に関しては、楽天モバイルと既存事業者3社の意見が平行線をたどっており、どのように移行できるのかは決定していない。このような状況の中、楽天モバイルはどのような方針でプラチナバンド獲得を目指すのか。同社代表取締役社長の矢澤俊介氏に話を聞くとともに、これまでの経緯をまとめた。
10月1日の電波法改正に先立ち、総務省は2月から「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」を開催し、プラチナバンドの移行を議論してきた。法改正により (1)電波の有効利用がされていない場合 (2)開設指針制定の申し出があった場合 (3)電波の公平かつ能率的な利用を確保するための再編が必要と認められる場合 に周波数の再割り当てが可能になったからだ。プラチナバンドの場合、3社ともフル活用している経緯もあり、(1)や(3)は当てはまらないものの、(2)のケースでは、楽天モバイルが競願を申請できる。
その経緯は以下の通り。もともと、同タスクフォースは非公開で進められてきたが、8月30日の第10回から公開に切り替わり、各社の主張が明らかになった。4月に本連載でも取り上げたように、楽天モバイルの主張はドコモ、KDDI、ソフトバンクから5MHz(上りと下りで計10MHz)ずつ、計15MHz幅(上下計30MHz)を譲り受けるというもの。移行期間は1年を希望していた。
これに対し、大手キャリアは移行に最大で10年程度の期間を要すると反論。仮に移行が決定したとしても、近い周波数帯でサービスが提供されることから、電波干渉を防ぐためのフィルターを基地局やレピーターに取りつける必要が生じるというのが3社の主張だ。3社とも、その工事費用は楽天モバイルが負担すべきとしている。加えて、5MHz幅分帯域が減るのをカバーするため、基地局の増設が必要になる。
平行線をたどっていた大手3社と楽天モバイルの議論だが、9月26日に開催された第12回のタスクフォースでは、“折衷案”とも取れる意見を楽天モバイルが提出。1年以内に全基地局の周波数を一斉に使用するのではなく、エリアごとに期間を区切って2033年までの10年をかけ、徐々に移行させていく案を示した。1年以内にサービスを開始したい楽天モバイルにとっては、妥協ではあるが、レピーターやフェムトセルの交換まで踏まえると、現実的といえる。
一方で、いまだ意見が割れているのが、フィルター挿入の必要性や、その場合の費用負担の在り方だ。タスクフォースの第14回では、ドコモ、KDDI、ソフトバンクが実機を用いて検証結果を披露し、改めてフィルター挿入の必要性を強調した。費用についても、既存のキャリアが負担するのは妥当性に欠けるという主張で一致している。ただし、KDDIやソフトバンクは楽天モバイルが支払うべきとの考えを明確に打ち出しているのに対し、ドコモは国の主導で結論を出すべきとの考えを示しており、この点はやや足並みがそろっていない。
実験の結論は3社ともおおむね同じだが、ドコモの資料が分かりやすい。例えば、妨害波(ここでは楽天モバイルを指す)の電力が-40dBmの場合、フィルターを挿入していないと約20%の端末で音声通話が不可能になる。妨害波がさらに強くなり、-35dBmまで上がると、フィルターなしでは全端末で通話ができなくなるという。データ通信に関しては、妨害波が-41dBmになった時点で、フィルターなしだとスループットが0%まで低下する。近くに楽天モバイルの端末があると、データ通信ができなくなってしまうというわけだ。
端末が強力な電波を出すのは、通信を行う基地局からの距離が遠い場合になる。その状態でフィルターを挿入してない他社の基地局に近づくと、通信が大きく劣化するというわけだ。一方で、基地局のカバー範囲ギリギリのセル端に限ると、不要発射の影響の方が大きくなり、データ通信ではフィルターの影響効果がなくなる。3社とも、こうした実験結果に基づき、フィルターの挿入が有効との結論を出している。
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